128話 決着
俺をはねた犯人が大魔王?
一緒にこの世界にやってきた?
いったいなんで?
何がどうなってるの?
頭が疑問でいっぱいになる。
わけがわからない。
こいつは馬路倉みたいに元々才能があって、その力で大魔王になったのだろうか?
俺と同じように、女神と会わずに直接この世界へたどり着いた?
そんな疑問も思い浮かぶが、すぐ本人に否定される。
「相手が強くなればなるほど、強くなる。この最強チートスキルの力、味あわせてやるよ」
チートスキル持ってるのかよ!
俺は何ももらってないのに!
犯人が能力もらってるのに、被害者の俺は何もなし
なんで??
だが答えてくれる相手がいるはずもなく
いるとすれば女神ぐらいだが、俺の言葉は届かない。
混乱する俺をよそに、大魔王は悠然と歩いてくる。
それだけで威圧感があるらしく、みんなが苦しげだ。
そしてそんなに苦しそうなのに
まだ抵抗しようとする。
俺を守ろうと、立ち上がってくれるのだ。
「リク様!」
ジェンガ
「お館様!」
ボード
「リク!」
ミサゴ
「リク君!」
柊
「先輩!」
馬路倉
「主様!」
ワーズワース
「英雄王!」
ウェルキン
「リク・ルゥルゥ!」
エキドナ
「陛下!」
ハンニバル、イスター、トトカ、ナーラン、ズダイス、ゲンシン、ハイロ、ザド
彼ら武人だけでなく、文官のみんなまでも
みんながみんな、俺を守るべく立ちふさがり
そして、あえなく倒されていく。
大魔王の笑みは深まり
無人の野を進むがごとく、突き進んでくる。
これが「相手が強くなればなるほど、強くなる」ということ
どんな強者だろうがねじ伏せる
神が与えた、チート
こんなのを相手に、俺はいったいどうすれば?
そんなことが頭に浮かんでしまう。
だが再び立ち上がろうとするみんなの姿を見て、そんな考えを振り払う。
そして
「リクさん!」
「兄様!」
アルカとカルサまでやってきた。
だけどそれはだめだ。
そんなことをされては、俺は俺を許せなくなる。
決断の時は、来た。
「大丈夫だよ」
二人の肩に手をやり、そっと外側に押し出す。
不安そうな4つの瞳
金色と銀色の、宝石のような瞳が俺を見つめる。
だが俺はもう、揺るがない。
「アルカ。村長は言ったな。お前の力の使い所は、俺に決めろと」
神妙にうなづくアルカ。
「俺は決して、お前に人を傷つけさせない。絶対に、だ」
「は、はい!」
そして、嬉しそうに笑った。
アルカの力に頼れば、反乱も人類統一も、もっと簡単だったろう。
魔王だって恐るるに足らずだ。
だが、俺はそれをしなかった。
その選択肢は、最初から捨てていた。
それが俺の命の恩人である、村長
大事な大事な孫を、俺なんかに託してくれた彼女
その信頼に対する、唯一無二の解だと信じて。
「そしてカルサ。お前は論外だ」
「ええ…。なんかお姉ちゃんへの対応と違う…」
当然だ。
「お前は俺の妹だ。お前が俺を守るんじゃない。俺が、お前を守るんだ」
カルサの頭を、魔界の雪原よりもきれいに輝く銀髪をワシャワシャする。
「ちょ、ちょっと!?」と慌てる姿が実に愛らしい。
「お前を守るのは、俺の役目だ。誰にも譲るつもりはない」
「え?う、うん…」
納得してくれたのか、二人とも俺に道を譲ってくれる。
大魔王はもう目の前だ。
勝てる気など全くしない。
それでも、俺は宣言する。
「みんなも、もういい。大魔王は、俺一人でやる」
戦うのは俺だけだと、宣言する。
「おもしれえな…。てめえみたいな雑魚と俺様が、勝負になるってか?」
嘲るように、冗談でも聞くように、大魔王は笑っている。
だから、俺は否定してやる。
「違うね」
「ほう?」
「勝負になるならないじゃなく、俺はお前に勝つんだよ」
「ああ?」
大魔王の声から嘲りが消えた。
ただただ怒り。
声も表情も、口調も、憤怒一色に染まった。
だが、俺は動じない
「お前の相手は、俺だけだ」
俺だけが、お前と戦う
「そしてこの俺が、お前を倒す」
そう、断言する。
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怒りで血管が浮き上がり、千切れそうになっている。
こんなに怒った人を見るのは初めてだ。
そもそもこんなに人を怒らせた経験もない。
さすがに言い過ぎただろうか。
だが覆水盆に返らず。
一度発した言葉を取り消すことなどできはしない。
そもそも取り消すつもりもない。
それに
「お前は!俺様が!!」
大魔王はもう
「ぶち殺してやる!!」
止まらない。
怒りの勢いそのままに走り出す。
大振りで、全体重をのせた渾身の一撃。
史上最強の大魔王が放つ、必殺の一撃。
それが、俺の顔面へ、飛び込んでくる。
「「「ーーーーーーー!!!!」」」」
皆の絶叫が響き渡る。
誰も彼もが、理解している。
己の身を持って、理解してしまった。
大魔王の力を。
圧倒的な力を。
だから思ったのだ。
俺の頭が吹っ飛ぶと、
そう確信したのだ。
だが、そんなことは起こらない。
ぺちっ
「へ?」
ぺちっぺちっ
大魔王が攻撃を繰り返す。
何度も何度も俺に殴りかかるが、俺の顔は吹っ飛ばない。
起きるのは、軽いビンタのような音だけ。
「な、なんでだ!?なんで、俺様の攻撃が効かない!!」
蹴ってくるが、ほとんど痛みを感じない。
それならばと魔法を出そうとする大魔王
だが、煙も出やしない。
「お、俺様は、最強なのに!!俺様の相手が、俺様と敵対するやつが、強ければ強いほど、強くなるのに!!」
この場にいるのは、大魔王と俺以外には、俺の仲間達だけ。
何の因果か、指揮系統上の頂点は俺だ。
その俺が「大魔王の相手は俺だけ」と宣言した以上、それは揺るぎない現実となる。
俺だけが、大魔王の相手なんだ
弱くて、貧弱で、喧嘩で勝てたことなど一度もない、俺だけが。
強ければ強いほど、強くなるのなら
相手が弱ければ、どうなるのだ?
俺は賭けた。一つの答えに
そして勝った。その賭けに
「お前は、何者だ!お前はいったい、何なんだよう!!?」
取り乱す大魔王
その攻撃は、蚊に刺された程度にしか感じない。
「俺の名は、リク・ルゥルゥ」
そして俺は拳を握りしめ、振り下ろす
「お前を倒す、男の名だ」
俺の渾身の一撃が、大魔王の顔面にめり込む
この世界のどんな生き物をも倒すことができないだろう俺の貧弱な拳が
大魔王を倒した、瞬間だ。
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異世界転移
正直、憧れていた。
つらいつらい現実から逃げたくて
毎日毎日繰り返される日常を変えてほしくて
そうなったらいいなと、ずっと願っていた。
転移したら、どんな能力が与えられるんだろう?
俺の隠された力は、いったいどんなものなんだろう?
色々妄想した。
かなうはずはないと思いながら、心のどこかで期待して。
だが異世界転移が現実になったとき、その期待は大きく裏切られることとなった。
そもそも神に会うことなどなく、異世界に直行だった。
何の能力もアイテムも与えられず、身一つで投げ出された。
隠された力などもなかった。
チートもスキルもなく、結局一般人は異世界でも一般人なのだと絶望した。
だけど、ふとしたきっかけで少しだけ世界が変わった。
一生懸命がんばったら、さらに変わっていった。
一度変わったら、あとは雪だるま式だった。
俺の環境は劇的に変わっていく。
途中からは完全に勘違いのせいだったが、もはや止まることはなかった。
胃に穴が空く思いをしながら、必死でそれに付き合っていた。
その努力の成果か運命の悪戯か、ついには人類の頂点に立ってしまった。
そして世界を二分する勢力、魔族との決戦。
一人で一軍に匹敵する魔王たち
ある者は倒し、ある者は仲間にして、ついに大魔王までたどり着いた。
大魔王は、転移者だった。
しかも、チートもち。
しかも、俺をトラックで轢き殺しかけた犯人。
圧倒的な力で、俺など足元にも及ばない俺の仲間たちが倒された。
本来なら俺など真っ先にやられていただろう。
だが本当に人生は、何が起きるかわからない。
運が良かったのか悪かったのか。
俺が何の能力も才能もない、ただの一般人だったことが勝因となる。
相手が強ければ強いほど、強くなる
そんな無敵のチートスキル
それは裏を返せば、「相手が弱ければ弱いほど、弱くなるもの」だったのだ。
神にも会えず
能力もアイテムももらえず
隠された力も眠った才能もなかった俺が
最強の大魔王を倒す、切り札となってしまった。
思わず苦笑いが出てしまうが、ここは素直に喜ぼう。
自分の才能のなさに、感謝を。
おかげでみんなを、俺の大好きなみんなを、この世界を、救うことができるのだから。
しかもようやく逢えるんだ。
ずっと逢いたかった、あいつに。
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体が光りに包まれる。
俺だけでなく、この場にいる全員が光りに包まれた。
そして次の瞬間、見たこともないような場所にいた。
一部の人間は何かに気づいたようだ。
俺は、直感的に理解した。
ここは、天界だと。
人間の世界でも、魔族の世界でもない。
神の世界であることを。
それを確信した瞬間、俺は迷わずある人物へ目を向けた。
結果として、それは正解だった。
絶世の美女たる彼女は、普段以上に光り輝いている。
これが後光というやつだろうか?
そして彼女から分離するように現れる、一人の女。
後光どころではない。
彼女自身が、太陽のごとく輝いている。
聞かなくてもわかる。
考えなくてもわかる。
こんな人間が、いるわけない。
これが、女神だ。
逢いたかったよ、女神さま。
聞きたいことが、山ほどあるんだからな?
ブクマと評価、さらには感想まで、ありがとうございます!
期待通りか期待外れか、この決着が皆さんの目にどう映るか戦々恐々しておりますが、楽しんでいただければ幸いです。
次回はついに、リクと女神の初対面となります。




