124話 VS魔獣軍団
ハンニバル敗北
その報は司令部に激震をもたらした。
元とはいえ、ハンニバルは人類最強だった男。
魔王が同時に出現した場合、一人は彼が抑える
その前提でこの進軍は行われている。
そのハンニバルがアズラットに敗れた。
それもこんな短時間で。
アズラットに柊を当てるか?
ならばトルストイはどうする?
柊一人で二柱同時は厳しい
そもそも、今襲われている部隊の救援は?
司令部は大混乱に陥った。
今すぐ指示を、決断を、下さなければならない。
誰が?
もちろん俺だ
頭が真っ白になる中、全員の注目が集まる。
絶体絶命
だが、次の報が全てを吹き飛ばす。
「え、エキドナが出現しました!」
「ハンニバル将軍、そしてクレス様を助け、アズラットに対峙しています!」
エキドナ
元ヒュドラ連邦大将軍、エキドナ・カーン
最後はクレスを王位から引きずり落とし、自らヒュドラ連邦大王となった女
簒奪者と呼ばれた彼女が、今救世主としてこの場に舞い降りたのだ。
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「だ、大、将軍?」
なんとか声を絞り出すハンニバル。
それほどまでに、今目の前にいる存在の出現が理解できなかった。
生きていたという安堵感
だが、ならば何故この死地に現れるのかという疑問
それら全てが混ざりながら、彼女を呼ぶ。
呼ばれた当の本人の答えは、単純だ。
「お助けに参りました」
自らの命を賭してまで
「色々ありましたが、陛下が私を地獄から救い出したことは揺るぎようのない事実。そして閣下が私を導いてくださったことも。私が生き恥を晒す理由は、その恩返し。それだけで十分です」
真っ直ぐな瞳と真っ直ぐな言葉
「本当に、大きくなられた」
そう言い残し、安心したようなハンニバルは崩れ落ちる。
「ハンニバル!?」
「陛下、閣下は眠られてるだけですのでご安心を」
「そ、そうなの?そういえば、エキドナ。どうでもいいことだけど、私、もう、陛下ではないのよ?」
本当にどうでもいい。
だが、これがクレスらしい。
そう感じたエキドナは少し笑い、言った。
「承知しました、姫様。閣下を連れてお下がりください。私とこの男で、やつらを倒します」
この男
エキドナと共に現れ、軽口を交わしていた男
「冗談はやめてください、大将軍」
男が口を開く。
そしてその瞬間、一匹の魔獣が襲いかかってきた。
通常の兵士ならば瞬殺
いや、人類の99.99%が死ぬ魔獣の攻撃
男は、0.01%側だった。
さらにその中でも、選りすぐり。
ドムッ!!
鉄より硬い魔獣の毛皮
それを通り越し、肉までたどり着いたであろう音が響く
魔獣は痛みでのたうちまわり
男はそれを横目に拳の具合を確かめる
「元聖騎士団副団長程度では、魔獣との戦いは命がけなのですよ?それがこうも大群となると…。正直、生きた心地が致しません」
「貴様の悲願が叶う時が近いのだ。命をかける価値はあるだろう?」
「まあ、その通りですが…」
男の中はドルバル
かつて連邦の官僚制度の頂点に君臨した男
連邦による人類統一を目指した男
連邦の敗北が濃厚となった後には、最も効率良く連邦をルゥルゥに併合させる
そのために奔走した男
彼の目的はただ一つ
「人類と魔族の最終決戦、それで人類を勝利に導く」
そのために聖王国を捨て、連邦へと鞍替えした
連邦に見切りをつけたら、積極的に滅ぼそうとした
彼の目的は、国ではないのだから
「私の思惑とリク・ルゥルゥの思惑は異なるようですが、まあ構いません。あの英雄の中の英雄が、私ごときの考えにはまるわけはございませんし」
そして彼は構える。
「今はただ、目の前の敵を倒すとしましょうか」
「もちろんだ!」
そして、戦いは始まった。
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四人いる人類最強の最後の一人
"対軍最強"エキドナ・カーン
それは彼女ただ一人で一軍を相手にできるという、実績から来ている。
それほどまでに、彼女は集団戦に強い。
ただそんな彼女でも、魔獣の群れは勝手が違う。
ましてやそこに魔王がいるとなっては。
「ちぃっっ!!」
エキドナの大剣が魔獣を捉える。
だが魔獣が切り裂かれる直前、アズラットが間に割って入る。
剣にアズラットを切り裂くほどの力は込めていない。
ゆえに難なく跳ね返されてしまう。
そしてアズラットの攻撃
直撃すればエキドナもタダではすまない。
彼女が履く靴が持つ異能、瞬間移動
その力で避けるのは容易いが
「グオオオオオオ!!」
こうも魔獣が多くては、移動先ですぐに襲われてしまう。
魔法で目眩し程度はできるが、決定打にはならない。
ドルバルもサポートするが、戦力差を縮めきるには役者不足だ。
「いやはや、狂魔獣アズラット。恐ろしいものですね」
「まったくな!!」
軽口の数も減ってきた。
余裕もなくなってきたのだろう。
長期戦はこちらに不利。
なんとか、なんとかしなければ。
やはり柊を投入するか?
そう思った瞬間、轟音が鳴り響く
「な、なんだ!?」
だが、誰もわからない。
いや、違う。
答えは、目の前にあった。
目の前に、いた。
「さあさあさあさあ!ベガス職人集団入魂の一品、機関銃!みんなまとめて、味あわせてあげるわよ!」
ベガスの職人たち
そして
「か、カルサ様?むしろ構想から設計まで全部カルサ様が…」
「作ったのはあんた達でしょ!あたしの設計なんて、物にならなかったらただの妄想!胸を張りなさい!」
「へ、へえ…。ただまだ試作品で、耐久性とかもろもろにまだ不安が…」
「今活躍させなくていつ活躍すんの!?そもそも戦争が終わればこんなの無用の長物なんだからね!これが本番!これが完成品!さあ、撃ち続けなさい!」
「は、はいぃぃ!!」
うちの妹が、いた。
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「リク・ルゥルゥの妹か!助かるぞ!」
機関銃も魔獣を殲滅するにはいたらない。
だが、ダメージは大きい。
直撃すれば戦闘不能になる個体も出てきた。
「魔力込めた弾もあるんだからねえ。痛いわよお?」
カルサの笑顔が怖い。
だが、今はそれが頼もしくもある。
エキドナの攻撃対象はアズラットに集中する。
アズラットも反撃するが、瞬間移動を使いこなすエキドナには届かない。
もう少し、というところで新たな闖入者の登場だ。
「アズラット、手を貸しますよ」
「トルストイ、遅イゾ」
魔王ニ柱が揃った。
エキドナ一人ではかなわない。
だが、もう焦ることはない。
満を辞しての登場だ。
「柊!!」
解放王、柊伊弦
実績も実力も、折り紙付きだ。
「任された!!」
これで二対二。
そして流れは、こちらにある。
「一気に、決めてくれ!!」
「「「おお!!!」」」




