幕間 魔王アズラット
あけましておめでとうございます。
物語も最終盤、もう少しだけお付き合いいただけますと幸いです。
今年もよろしくお願いいたします。
魔獣とは何か?
それは、魔物の突然変異である。
やつらは、前触れもなく現れる。
何の前兆もなく、生まれてくる。
ただの魔物から、生み出されるのだ。
そして魔獣は、その全てが狂っている。
生まれた瞬間から、狂っている。
災害とも呼ばれる力をもちながら
生まれながらに狂っているそれが最初にすること
この世に生まれ、て一番最初にすること
それは、同族殺し
ただの一つの例外もなく、やつらは同じ群れの仲間を皆殺しにする
分娩の血ではなく、同族の返り血で真っ赤に染まった化け物
それが、魔獣
そしてその魔獣の中で、唯一理性をもつ者がいる。
それが、アズラット
だが彼が覚醒したのは、生まれてから少し時間が経った後
同族を殺し尽くし、真っ赤に染まった手を見ながら、彼の狂気は反転する。
仲間を殺し、兄弟を殺し、親を殺したことを嫌というほど自覚しながら、彼は理性を手にしたのだ。
魔王、アズラット
その二つ名は、狂魔獣
魔獣にもかかわらず、理性をもっている。
ゆえに”狂っている”
ゆえに、狂魔獣
だが、本来の意味は違った。
彼の誕生直後の叫び声を聞いた者たち、彼らの証言。
「今度生まれた魔獣は、より一層狂っているな」と。
ゆえに、狂魔獣
そう、呼ばれるようになったのだ。
---
「トルストイ、先行スルゾ」
転進する全軍を煽るためと、最後方にいた。
だが、この程度では焼け石に水。
とてもやつらに追いつくことなど出来はしない。
だから方針を変更した。
「ええ。貴方が一番速いでしょうからね。私も速度を上げて、できるだけ早く合流いたしますよ」
「アア」
配下の魔獣達
付いてこれるものだけ付いてこいと指示を出し、更に一段速度を上げる。
自分も同じ魔獣だからか、不思議とやつらは自分の命令を聞いてくれる。
アイスキュロスのように魔物を整然と統率することはできないが、魔獣ならば引き連れるだけでも十分だ。
人間の軍だろうと、魔物の群れだろうと、蹴散らしてみせる。
どんどん速度を上げ、どんどん数が減っていく。
まもなく人間どもと接敵する。
最初に比べれば数はずいぶん数は減ったが、それでも十分だ。
そもそも、自分ひとりでも人間の軍隊など敵ではないのだから。
突進し、数百人を蹴散らした。
「旧連邦兵の意地を見せるぞ!」などと騒いでいる。
旗頭は、あそこの小娘か?
どう見ても、戦闘の心得はない。
だが震えながらも最前線に立つ、その度胸だけは大したものだ。
それに敬意を払い、痛みも感じず殺してやろう。
「姫様!!」
だが、一人の老騎士によって阻まれる。
こちらの攻撃を受け止め、反撃してくる。
一撃が重い。
当たれば、こちらもただではすまないだろう。
人間にしては、かなりの使い手だ。
人類最強に匹敵するかもしれない。
若かりし頃ならば、の話だが。
「ぐ、はっっ…!!」
老いとは恐ろしいものだ。
魔王である自分には無縁なものだが、卓越した使い手だろうと老いれば衰える。
力を失う。
長時間の戦闘には耐えられず、体力が切れ、先程まで避けれていたこちらの攻撃があたってしまう。
そしてこのように、自らの血で真っ赤に染まる羽目となるのだ。
だが自分の血ならば、まだマシではないか。
そう思うと、不思議と頭に血が上った。
だからこの男にとどめを刺す前に
この男が命がけで守ろうとしたあの娘
弱く、美しく、そしてこの死にかけの老人のために我が身をさらけだそうとする小娘
そちらを先に、手にかけたくなった。
「ハンニバル!!」
「ひめ、様…!お下がりを…」
そして爪を振るう。
こちらにとっては軽く手をふる程度のもの。
だが人間にとっては必殺の一撃。
せめてもの情けで、二人同時に送ってやろう。
だが
ガキン!!
受け止められた。
いや、むしろこれは
「ナ、ニ!?」
はね飛ばれされる。
いったい何者だと、目を向ける。
全身を漆黒の鎧で身を包み、己の背丈よりもはるかに超える大剣を構える剣士
「なんとか間に合ったようですね、大将軍」
「貴様の道案内がもっとうまければ、もっと早くたどり着けたのだぞ!?陛下も閣下も、危険なとこだったではないか!」
「初めて来た魔界で道案内できたことを褒めていただけませんかね?自分で言うのもなんですが、こうしてちゃんと来れただけでも大したものだと思いますが」
何か仲間と言い合ってるが、その中身はどうでもいい。
重要なのは、この剣士
間違いなく、人類最強
仲間を守るため、命がけで魔界を踏破してきたという
「オモシロイ」
貴様らの仲間ごっこなど、ここで終わらせてやる。
人間の見せる仲間愛、家族愛
それらが不思議なほど憎く、嫌悪感で心をかき乱される。
それを治すには
やつらを、消すしかないだろう




