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15話 時

50ブックマーク達成しました。ありがとうございます。

ただシナリオ評価は下がっており、この展開お好きじゃない方はすみません。

それでも楽しんでいただけるよう、頑張ります。


今までのあらすじ

主人公の恩人、村長が危険な状態です

 村長は自力で家に帰ることができず、俺が背負って家に帰った。

 そのまま俺のベッドで寝かせたところで、アルカとカルサが帰ってきた。

 王が来たという話は噂としてすぐ広まっており、飛んで帰ってきたのだ。



「おばあちゃん!おばあちゃん!!おばあちゃん!!!」


 カルサが顔中を涙で濡らして村長にすがりついている。

 そしてアルカは必死に治癒魔法をかけ続けている。


「二人共、もういいんだよ

 あたしゃね、まだ生きてるのがおかしいぐらいなんだ

 カルサ、泣くのはやめて笑っておくれ。

 あんたはいつも仏頂面だけどね、あたしゃあんたの笑顔が好きなんだよ」


「おばあちゃん…死なないでよう…

 ううっ。ぐすっぐすっ」


 カルサは泣き止もうとしているようだが、次から次へと涙がこぼれ落ちる。


「かかっ!

 まあ、そんな簡単に泣きやめたら苦労はしないやね」


 村長はやさしくやさしくカルサの頭をなで、涙を指ですくう。


「ありがとうねカルサ

 あんたは本当に賢い子さ

 いつもいっぱい努力していつもいっぱい反省して、あんたはあたしの誇りだよ」


 カルサは少しだけ泣き止み、少しだけ笑顔をつくった。

「やっぱりカルサは笑顔が一番さ」と村長も優しい笑顔になった。



「アルカ、もう魔法はいらないよ

 もう怪我は治りきってるさ

 あとは生命力の問題

 あたしの中じゃそれがもうとっくの昔に尽きてるのさ

 もう魔法じゃどうしようもないんだよ」


「おばあちゃん、ごめんなさい

 私、壊すことは得意なのに、癒やすのはおばあちゃんの足元にも及ばないの

 …私にできるのは、おばあちゃんをこんな目に合わせたやつを同じ目に合わせることだけ」


 アルカの目に暗い炎が宿る。

 確かにアルカならば、一人で王を倒せるかもしれない。

 王を守る居城の城壁を壊し、城門を壊し、兵士たちを全てねじ伏せる。

 彼女のパワーにはそれを可能にするほどの底知れなさがある。


 しかし、村長が止める。


「アルカ、絶対にそんなことをしちゃいけないよ

 あんたの力は女神様の力

 神様の力ってのは、人にとっちゃ災害さ

 災害が起きて幸せになる人間なんていやしない

 確かにあんたなら、一人で王どころかこの国も滅ぼせるだろうさ

 でも、あとには何も残りはしない

 決して激情に流されちゃいけないよ

 今まではあたしがあんたの力の使いどころを決めてた

 これからはリクが決めてくれるさ」


 え?俺?

 突然話をふられた。


「リク、ついに()ってやつが来ちまったよ」


 村長がニヤリと笑う。


「あたしがおっ死ぬ()

 そう、村々に影響力があり、尊敬されてた治癒魔法使いルゥルゥ様が偽王に殺された()

 もっと街の方に行けばこれは別の意味を持つ

 先王の冒険の仲間であった治癒魔法使いルゥルゥが死ぬ時

 ついに偽王が先王の関係者を殺し始めた、次は自分の番だと人々が震えあがる()さ」


 もうすぐ死ぬと言ってる人間とは思えないような笑顔。

 その顔から目が離せない。


「この秋の収奪で国中の不満はもう爆発寸前さ

 そしてあたしが死ぬことで村々も、そして街の連中も立ち上がる理由ができちまった

 あとは誰かが率先して立ち上がり、皆の背中を押せば全ては始まるよ

 舞台は整った。あとは幕を上げるだけ、ってやつさ」


 心臓が高鳴ってくる。

 村長の言葉が聞き取れないぐらい強い音で鳴り響く。

 しかし村長は言葉を止めない。


「背中を押す役目は誰だい?

 それは一人しかいないよ。

 なあ、()()()()()()()()()


 自分の死を利用しろと、俺に言う。

 皆の背中を押せと、俺の背中を押してくる。


「まさかあたしの死を、無駄死ににしてくれたりしないだろうねえ?

 地獄の底で見せてもらうさ

 あんたのこれからの活躍をね」


 楽しそうに笑う村長。そして孫二人に呼びかける。


「もう目が霞んできちまったよ

 二人共、近くに寄ってもっとよく顔を見せておくれ

 ああ…、本当にお前たちのお母さんに瓜二つだよ

 この国、いや大陸一番の美人姉妹さ

 あたしの誇りだ。あたしの生きがいだ

 あんたらをここまで育て上げたことが、あたしの人生最大の自慢さね」


「おばあちゃん、ありがとうね

 私ね、おばあちゃん大好きだよ

 お母さんのこと覚えてないけど、おばあちゃんが私のこと育ててくれて、本当に嬉しいよ

 だから、だから、うあああああああああああ…」


「おばあちゃん、私もおばあちゃんのこと大好きよ

 私の力のこと、今まで迷惑いっぱいかけてごめんなさい

 そしてずっと優しく守ってくれてありがとう

 …この力、これからはリクさんと一緒に大事に使っていくね

 カルサ、おばあちゃんがいなくなっても私達はずっと一緒よ

 ずっと、ずっと…」


 泣きじゃくるカルサをアルカが優しく抱きしめる。

 その姿を見て、村長は優しく微笑んだあと、にらみつけるように俺に言う。


「リク、あとを頼んだよ

 この子達を不幸にしたら、ぶっ殺すからね」


「任せてくれ」


 相変わらずの迫力。

 これが最後かと思うと目が潤む。

 非力な俺だが、全身全霊で任されよう。


「あと、あんたが着てた服と持ってた荷物はあたしの部屋に置いてあるよ

 あたしが死んだら、好きにしな」


 え?俺の服と荷物、残ってたの?


 驚く俺を横目で流し、村長は二人の方を向いてもう一度優しく微笑んだ。


「姉妹仲良く、力を合わせて生きておくれ

 そうすればおばあちゃんはね、とっても嬉しいのさ

 本当にありがとうね、ふたりとも

 おばあちゃんは、とっても幸せもんだったよ

 みんな本当に、ありがとうね」



 大勢の人々の命を救い、大勢の人々に感謝された偉大な治癒魔法使いルゥルゥ。

 そんな彼女の最期の言葉は、みんなへの感謝だった。





 部屋を出るとジェンガ、ミサゴ、ハイロ、そして反乱軍の主要メンバーが揃っていた。

 表情は皆暗い。

 薄い扉だ。話は全て聞こえていただろう。


「先生…」


 ジェンガが話しかけてくるが、それを手で制止する。


「もはや、言葉は不要」


 全員の顔が引き締まる。


「全ては聞いていたとおりだ

 ついに時は来た

 一瞬たりとも無駄にすることは俺が許さん

 総員、行動を開始せよ!」


「「「はっ!」」」




 夜にもかかわらず、篝火で村は昼間のように明るくなっていく。

 男たちの声が響き、全ては動き出した。


 それとは対照的に薄暗い家の中。

 扉の向こうではカルサのすすり泣きとそれを慰めるアルカの声が聞こえてくる。


 声をかけることも出来ず、ふと俺は村長の部屋に入る。

 部屋はきれいに片付いていた。

 もしかして全てわかっていたのかも、そんな考えが頭をよぎる。


 スーツはハンガーらしきものにかけられ、そこに刀が立てかけられていた。

 これを使えというとこなのだろうか。

 待ってみると、ズシリと重い。

 刀など使ったこともないが、腰にさす。

 不思議と力が湧いてくる。



 机の上には見慣れたビニール袋。

 アイスはなく、発泡酒だけが入っている。


 コンビニでこれを買った時は、異世界に来るとは思いもしなかった。

 まして反乱軍の指導者に祭り上げられたり、恩人をむざむざ目の前で失う羽目になるなんて夢にも思っていなかった。


 プシュッと小気味よい音を立てて開けたそれを一気に飲み干す。

 一年ぶりの酒だ。

 もともと酒はそんな好きではなく、無理やり寝るために買ったものだ。

 のどが焼けるように熱く、頭がクラクラしてくる。


 しかし景気付けにはなった。

 そして何より、これをずっと大事に持っててくれた人の力が全身に満ちていくようだ。




 俺は何もできない一般人だった。

 何の力も持っていない。

 だから、不満があっても黙って耐えるしかなかったし、理不尽なことが周りで起きても見てることしかできなかった。

 だって力がないんだもん。

 仕方ないだろう?


 だが、今は違う。

 別に特別なスキルをもらったわけじゃない。

 それでも俺なんかを慕ってくれるたくさんの部下がいる。

 付いてきてくれる仲間たちがいる。

 理不尽なことが起きたら、それに反抗できる力を俺は持っている。

 恩人の仇をうつ力が、俺にはある。



「なら、やるしかないじゃないか」


 やってやろうじゃないか。

以上で第1部村編、完結になります。

お読みいただき、ありがとうございました。


第2部は早ければ金曜、遅ければ土曜更新予定です。

幕間をもう一回入れようか悩んでますが、まずは本編ですよね…。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シナリオの展開が うたわれるもの の序盤をすごく連想させます
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