表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/191

幕間 魔王ガリバー

 生まれた頃から、大きな体だった。


 魔族の中でも大柄の種族

 その中でもとびきり大きかった。


「そのうち山のように大きくなるぞ」


 そんなふうに周囲は笑っていた。

 それを聞いて、きっと自分は山のように大きくなるのだろうなと思っていた。


 だがある日、ふと気づいた。

 誰ももう「山のように大きくなる」なんて言ってくれないことに。


 同時に気づいた。

 かつて見上げていた大人たちが、自分よりもはるかに小さいことに。


 それからまた時間が経つと、周りに誰もいなくなっていた。

 でも、足元には小さな小さな生き物がたくさんいる。

 こんな生き物、昔もいたっけ?と思ったが、よく覚えていない。


 昔見上げていたはずの大きな山

 そこに腰掛けている自分


 自分が大きくなったのか

 周りが小さくなったのか


 どちらかは、よくわからない

 考えても、わからない。


 あれ、そういえば


 考えるって、なんだろう?



 ---



 ガリバーは新しい魔王だ。

 ヒイラギ・イヅルによる人間の解放、それ以後に生まれた魔王である。


 基本的に魔王は古いほど強力だ。

 洗練された技と魔力、そして積み重ねられた経験に裏付けられた智謀。

 何より、魔王という地位を守り続けてきた実績。

 ゆえにヒイラギ・イヅル以前から存在する魔王は古き魔王と呼称され、特別扱いされる。


 彼らは、それほど強力な存在だ。


 反面、ヒイラギ・イヅル以後の魔王は玉石混交だ。

 魔王戦争によって魔族の秩序は破綻した。

 少々強い程度の魔族でも魔王を名乗れるようになってしまった。

 お山の大将のような存在にもかかわらず、魔王を僭称する輩も現れるほどに。


 その中で、ガリバーは例外的な存在である。

 彼は、古き魔王に負けず劣らず強大な力をもつ。


 彼が歩けば、ただそれだけで災害だ。

 彼が踏み出す一歩。

 それだけで生き物も建物も潰されてしまう。


 倒れ込む彼の下敷きになって生き延びれる者がどれだけいるだろうか?

 ただ存在し、生きて動くだけで他者を蹂躙する。


 己は一切主張せず、周囲によって魔王に祭り上げられた存在

 それが、ガリバー


 魔界最大の山脈を寝床にする彼への敬意をこめつけられた二つ名

 それが、魔の山脈


 魔の山脈、ガリバー


 どのような自然の猛威も恐れぬ魔族たちが恐怖する、魔界唯一の災害

 それが、ガリバーだ。



 ---



 ガリバーは決して頭の悪い魔族ではなかった。

 子供の頃は頭も周り、周囲の期待に答えようとがんばる利発な子だった。


 だが、彼の成長とともに周囲は全く逆の印象を抱くようになった。


 彼にとって不幸なことに、

 彼の体の成長は続いても、

 彼の脳の成長は止まってしまっていたのだ。


 山脈の二つ名をもつ巨大な魔王

 だがそれを動かす脳は、巨体にたいして悲しいまでに小さかった。


 彼は何の悪気もなく街を踏み潰す

 ただ休もうと思って、城を下敷きにする

 くしゃみをするだけで、何もかもを吹き飛ばす


 でも彼はそれを悪いとは思わない。

 悪いと思うことすら、できなくなってしまったのだから。


 ただ、彼に残った数少ない感情がある。


 それは、恐怖


「おい、ガリバー」


 彼はその声を思い出すだけで体が震え上がってしまう。


「お前は、くずどもを蹴散らしてこい。そのでかい図体はそのためにある。もし失敗したら、わかってんだろうな?」


 突然現れて、突然いじめてきた存在

 大魔王と呼ばれているが、自分にはよくわからない


 いつも優しいアイスキュロスやトルストイが従っているから、きっと自分も従うべきなんだろう。


 でも、それよりただ怖い

 殴られると、痛い

 蹴られると、痛い

 足蹴にされると、痛い


 痛い痛いと泣くと、湖ができるとさらに怒られる


 怖い


 怖い


 怖いよう


 だから、踏み潰さないといけない


 また怒られてしまう

 痛くされてしまう


 だから走った。

 早く戻れと言われたから、急いで戻った。



 すると目の前には、たくさんの小さな生き物がいた。


 全部踏み潰せばいいのかな?と思ったけど、なんかパンパンいう音がしてチクチクした。

 チクチク、ちょっと痛い。


 痛いのは嫌だ。

 だからこの小さいのを、潰してしまおう。


 足を踏み降ろす。

 たくさんプチプチできた。


 プチプチプチプチ楽しいな。


 でも、今度はもっとたくさんチクチクした。

 どんどんどんどんチクチクする。


 チクチクしないようにプチプチする。


 チクチク

 プチプチ


 チクチク

 プチプチ


 なかなか終わらない。


 さて、どうしよう?



 全部潰せば、終わるかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ