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120話 進軍

 それからも色々あった。


 オウランに夜這いをかけられたり

 パトリがボードと結婚しようと暗躍したり

 トトカが見合い話から逃げるのに手を貸したり

 パータリがつくった先物取引市場、何故かナーランが大儲けをしたり


 今思うとたいへんだったが、どれも楽しかった。

 何もかもがいい思い出だ。


 だが、そんな楽しい時間はもう終わる。



 ---



「リク様、いつでも大丈夫です」

「そうか」


 完全武装したジェンガ

 ということもなく、いつものように動きやすい軽装

 ただ、腰に佩くは斬鉄剣

 これを装備しているということが、何よりジェンガの本気を示している。


 ジェンガはなぜそんな格好をしているのか?

 そもそも何のために俺を呼びに来たのか?


 答えは簡単だ。

 これから始まる大戦争。

 その、号令を行うため。

 俺が、号令を行うため。

 

 何度もやってきたことだが、何度やってもなれない。

 だが、俺がやらなければいけない。

 俺にしか、できない。


 大きく息を吸って、全部吐き出す。

 それでも心臓はバクバクだ。


 ジェンガは俺をどう見ているんだろう。

 ジェンガの目に、俺はどう映っているんだろう。

 まったくわからない。


 俺には、他人が俺をどう思っているかなんて全然わからない。

 だから、俺は俺のできることをするだけだ。


 いつだって、全力で。



 ---



 バルコニーに出る。


 見渡す限りの大軍勢

 人類史上最大規模と断言できる。

 量においても、質においても


 彼らの大歓声が俺に向けられる。


 これに応えられるような男なのだろうか?

 答えはもちろんNoだ。


 だが、答えなければならない。


 俺はもう平凡なサラリーマン、安藤陸ではない。

 今の俺は英雄王、リク・ルゥルゥなのだから。


 手を上げ、歓声に応える

 大歓声はさらに勢いを増し、質量をもってるかのごとくだ。


 それを一身に受けながら、手を下げる。

 すると今度は一斉に歓声を途絶え、静寂が満ちた。


 俺の言葉を、待っているのだ。


 気合を出すため、平手で頬を張りたくなる。

 だが、そんなことは英雄王に求められるしぐさではない。

 この大軍勢の大歓声、軽々と受け止めて当然。

 怯むことなど許されない。


 だから俺は、全力を出す。

 まずは全力で、声を出す。


「諸君、時は満ちた」


 最初の第一声

 さあ、あとは突き進むだけだ



 ---



「千年前、人類は魔族の奴隷だった。


 だが解放王ヒイラギ・イヅルにより魔族のくびきより脱し、人類の歴史が始まる。

 我らは、千年の繁栄を謳歌した。


 もちろん、それが崩される危機は何度もあった。


 新たな大魔王による侵略。

 だが英雄たちの活躍により、大魔王は滅せられ野望は潰えた。


 魔法王ランシェル・マジク

 彼女も、その英雄の一人だ。


 断続的な魔族や魔王による侵攻。

 それらは人類の守護者たる聖王国、かの国が全て防いでくれた。


 聖王アオバ・オウル

 彼女と彼女率いる騎士団が、文字通り人類の盾となってくれたおかげだ。


 人類の繁栄は、彼らの血によって築かれ、守られてきた。

 まず彼らに、敬意と感謝を伝えたい。


 そして次に、諸君らに伝えねばならない。


 ()()()()()()()()()()



 魔界では、新たな大魔王が誕生した。


 いまだかつてないほど強く、史上最も残忍な大魔王だ。

 魔族ですら震え上がる残虐さで、魔王も魔族も区別なく、死と恐怖で魔界を支配している。


 その矛先が、ついに我々に向けられるときがきた。


 今度は、英雄たちに任せるわけにはいけない。

 かつての英雄たちですらかなわないであろう、化け物だ。


 聖王国に任せるわけにもいかない。

 そもそも今まで聖王国に全てを押し付けていたのが、おかしかったのだ。


 我ら全員が、戦わなければいけない。

 自分たちのために。

 自分たちの今と未来を守るために。



 人類同士で戦い、血を流す時代は終わった。

 皆の努力で、終わらせることができた。


 ただもう一度だけ、力を貸してほしい。


 この大陸、最後の戦いだ。



 これから始まる戦争を、人魔戦争と呼ぶ者たちがいるのは知っている。

 だが、これは人と魔の戦争ではない。


 こちらには魔王の一人、ワーズワースもいる。

 彼も、我らの仲間だ。

 彼の率いる魔軍も、我らの強力な味方だ。


 我らの敵は、大魔王ただ一人。


 これは、大魔王とその他全ての戦いである。


 これは、大陸の全ての生きとし生けるものの未来を守る戦いである!


 ”大陸統一戦争”

 リク・ルゥルゥの名の下、開戦する!!」



 ---



 次の瞬間、嵐のような大歓声

 そして、全軍が光に包まれる。



 聖王国の北、魔界と人間界の境界

 そこから突撃するのは簡単だ。


 だが大陸を南北に縦断し、北端の大魔王まえでにたどり着くのにどれほどかかるのか?

 想像を絶する苦行だ。


 だから俺たちは、そんなことをするつもりはない。

 そんなことより、よっぽど手っ取り早い手段があるのだから。


「先輩、発動成功です!」


 馬路倉の歓喜の声

 本番一発で成功させるとは、さすが魔法王


「座標も問題なし、そうよね?ワーズワース」

「うむ。さすがはランシェル、そして主様の妹君。たいした魔法制御だ」


 俺たちがしたのは、移動魔法による大移動

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「主様、ここが大魔王城に最も近い平原でございます。あとはこの方向に、真っ直ぐ一直線に進めばやつがおります」


 ワーズワースの指の先

 だがここは極寒の魔界

 吹雪と積もった雪で何も見えはしない。


 だからこそ


「頼んだ、馬路倉」

「はい!」


 馬路倉の魔法王の杖が輝き、巨大な熱線が放たれる。

 かつてワーズワースの軍勢に向けられたよりも大きなものが、さらに長時間。


 そして次の瞬間、目の前が拓けた。


 魔軍を焼き払う熱戦が、雪も吹雪も消し飛ばした。

 地平線の彼方まで。


「私は、ここまでです…。あとは、お願いいたします…」


 崩れ落ちる馬路倉の体を支える。


「ありがとう。ゆっくり休んでくれ」


 大魔王の目の前に軍と拠点ごと移動

 補給経路は移動魔法で確立済

 大魔王城への道は、馬路倉の魔法でこじ開けた


 これが、俺達の最適解


「全軍、前進!!!」


 全力で、勝たせてもらう。


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