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14話 狂った王

いつも読んでいただきありがとうございます。

毎日ブックマーク数が増えて、すごい励みになります。

続きを読みたくなる面白い話になるよう、頑張らせていただきます。


今までのあらすじ

反乱軍の本拠地の村に王がやって来ました

 王が来た。

 この村の歴史上初の出来事だ。

 本来ならば、その光栄に村中が沸き立っていることだろう。

 しかし今は誰も喜んでなどいない。

 むしろ憎しみの目を向けている。


 これが、今のこの国の現状だ。



「ほーっほっほっほっほっほ!

 このような薄汚い村にマロが足を運んだという幸運、末期の代まで誇るが良いでおじゃる!」


 顔を真っ白に塗りたくり、ボールのようにまんまるな体をしている男。

 これが王だ。


 仰々しい馬車に乗り、兵士に抱えられるようにしながら出てくる。

 馬車の中には女達がいるようだ。

 …わざわざ女連れで来るのかよ。放蕩しすぎだろ。



 王が来た理由を兵士が説明する。

 曰く

 春頃、この村の近くに盗賊団がいて王の寵臣の宝物を奪い去った。

 やつらがいなくなると同時に、各地で反逆の動きが出始めている。

 盗賊団と反逆に関連があると考え、王自らが足を運ばれたのである。


「貴様らは自らが逆賊と無関係であることを証明しなければならない!

 証明できなければ村ごと焼き払うぞ!」


 無関係を証明しろって、そんなの悪魔の証明である。

 できるはずがない。


 というかこの村こそ反乱軍の中心地であり、俺が反乱軍の指導者である。

 むしろやつらの考えは正しいわけだから、困ってしまう。


「あとジャイアントピーンの毛皮が欲しいでおじゃる

 この村の近くではたまに現れるという話を聞いたでおじゃるぞ

 マロに献上する栄誉を与えてやるでおじゃる」


 王がなんか言ってる、

 俺が襲われたジャイアントピーンの毛皮が倉庫にあるが、くれてやるもんか。



 皆が困惑しているところに、よく通るしわがれた声が響いた。


「あの小僧っ子が、ずいぶんと偉くなったもんだねえ」


 村人が道を開けて出てくる、小さいけど迫力のある人影。

 村長だ。


「この村を焼き払うだって?

 おもしろいことを言ってくれるじゃないかい」


「ほ、ほっほっほ!

 ルゥルゥ、そなたの村でおじゃったか!

 あの美しかったお前がそのように老いさらばえるとは、時の流れとは残酷でおじゃるのう!」


「上手に歳をとったと言っておくれ

 いい婆さんだと思わないかい?

 それに比べ、あんたはずいぶんと丸くなったねえ

 人は食わなきゃ死んじまうが、食いすぎても死ぬんだよ

 知ってたかい?」


「ぐが…、ぐぎ…」みたいな声にならない声で王が答える。

 昔からきっと村長のことが苦手だったのだろう。

 しかし、村長の次の発言がヤブヘビとなる。


「そしてずいぶんと目が薄汚れたよ

 あたしが知ってるあんたの目は、もっとキラキラと輝いてたもんだけどね

 お前の兄さんとはずいぶん違うねえ?」


 兄のことに触れられると、王の目に力が宿った。

 そして酷薄な笑みを浮かべ、高笑いしたのだ。


「ほーーっほっほっほっほっ!!

 兄上?兄上などとは違って当然でおじゃる!

 あんなあっさり死んだ無能な男とは違うのでおじゃる!

 ルゥルゥ、お前が言ってた言葉でおじゃるよ?

「死んだら何にもならない。生きてるだけで勝ちなんだよ」と!」


 村長が唇を噛みしめる。

 きっと早死した、若くして命を失わなければならなかった仲間に対する言葉だったのだろうに。

 それをこんなふうな形で使われるとは、無念だろう。


「つまり生き残り、王となったマロこそ勝利者!!

 兄上など、とうの昔に死んだ敗北者!

 自分の子供も守れないような無能な敗北者でおじゃる!!!」


 王の絶叫が村に響く。

 目が正気ではない。

 この兄に対する思いで、彼は狂ってしまったのだろう。

 そしてその狂気は、今別のところに向けられる。


「やるでおじゃる!!」


 まさか本当に村に火をつけるのか!?と思った。

 そして、それは間違っていた。

 最悪なまでに、間違っていた。




 村長の体から剣が何本も生えていた。


 違う。

 王の命令で、兵士が一斉に村長を剣で突き刺したのだ。


 ジェンガが飛び出し、次の攻撃を自らの身体で守ろうとする。


「ジェンガでおじゃるか!

 こんなド田舎の村にいたとは、いいざまでおじゃる!

 本来なら首をはねるところでおじゃるが、その薄汚いババアを始末できてマロは満足でおじゃる

 首がつながってる幸運を感謝するがよいでおじゃる!

 皆の者、帰るでおじゃるよ

 ほーっほっほっほっほっほ」


 王が何かを言い残し去っていく。

 しかしそんなものは無視して俺も村長に駆け寄る。

 村長にはまだ息がある。何か。何か言わないと。


「大丈夫、大丈夫だぞ村長!

 すぐアルカが帰ってきて、助けてくれるからな!」


 そんなトンチンカンなことを言ってしまう。


「馬鹿言ってんじゃないよ

 あたしを誰だと思ってるんだい?

 この国一、いや大陸一の治癒魔法使いのルゥルゥ様さ

 アルカの力を借りるまでもない

 これぐらいの傷、こうさ!」


 村長がそう言うと同時に、体が光り輝く。

 剣が勝手に体から抜け落ち、傷がどんどんふさがっていく。

 あっという間に、村長の体は元通りになっていたのだ。


「どうだい?たいしたもんだろう?

 ああ、「奇跡だ」とか言って惚れるんじゃないよ

 惚れた腫れたはもうコリゴリさ」


 まさにそれは奇跡だった。

 眼の前で奇跡を見せられた俺は言葉もなかった。

 ジェンガも、他の村人も、みんな同じように放心状態になっている。


「みんなに私の治癒魔法の本気を見せたのは初めてだったかね

 あたしにかかれば死んでないやつを死なないようにするなんて朝飯前さ

 さ、王もいなくなったんだ

 皆家に帰った帰った!」


 村長の言葉に従い、皆そろりそろりと家路につく。

 王が村に来た、その王は狂っていた、そして村長が殺されかけ、しかし奇跡によって生き残った。


 誰も彼もが現実に頭がついていっていない。

 もちろん俺も。



 だから俺は気づいていなかったのだ。

 村長の顔がおしろいを塗った王の顔より、真っ白だったことに。

次の話で第1部が終わります。

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