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115話 ベガスと職人たち

「王様!」


 転移魔法陣に到着した直後

 周囲の状況を確認する間もなく何かが襲ってきた。


「会いたかったよ!連邦との戦争が始まったと聞いたときには、気が気じゃなかったよ!こうして無事に会えるなんて、あちき本当に嬉しいよ!!」


 全身を包み込む柔らかく心地よい感触

 脳がしびれるかのごとき蠱惑な芳香

 聞くだけでとろけるような声音


 一生このままでいたいと全身が主張していたが、無慈悲にも引きはがされた。


「オウラン!ベガス家当主たる者がなんたる破廉恥なことをしてますの!?」


「あーん。王様~」などと言いながら引きずられていくオウラン

 そんな姿すら魅力的だ。

 恐ろしい


 さて、頭を戻そう。

 ここは、ベガス。

 ルゥルゥ国一、いまや大陸一の娯楽の街となった巨大都市。


 そして目の前にいる二人の女性


「ベルサー。あんたようやく幼馴染と結婚できたじゃん。これからはあんたと旦那と、これからできる子供たちがベガス家を担ってくんだよ?あちきをご当主様なんてあがめないでおくれよ」

「オウラン!私はそんなこと決して認めませんからね!ベガス家当主は貴女!今後の当主も貴女が婿をめとれば全て解決いたします!結婚が嫌なら情夫だろうと養子だろうとかまいませんのよ?」

「ベルサ…。そんなことを軽々しく言うの、あちきどうかと思うよ?」

「あ・な・た・に、言われたくはありませんわ!」


 かつてイヅル国の宮殿を裏から支配した、後宮

 そこに君臨した女たち


「あちきはいいんだよ、あちきは。お堅いことは全部あんたに任せてるからね?」


 オウラン・ベガス

 出自は不明、経歴も不明

 己の魅力と才覚だけで昇りつめた女傑


「式典の対処は任されましたが、当主はあくまで貴女。そろそろ自覚をもっていただけませんこと?」


 ベルサ・ベガス

 解放王の時代から続く名門の末裔

 一族で唯一偽王に歯向かい、唯一命脈を保った女


 彼女たちこそ、今ベガスを治める二人の義姉妹


「久しぶりだね、二人とも。元気そうでなによりだよ」


 いままでの諍いが嘘のように、二人はこちらへ向きなおす。


 一人はあらゆる男を虜にするような笑顔で微笑みながら

 そしてもう一人は貴族の見本のような立ち振る舞いで


「もちろんだよ。王様のためだもの、ね?」

「ご期待に添えていれば何よりです、陛下」


 さて、そろそろ本題に入ろうか



 ---



「こちらでございます」


 顔中を汗まみれにしながら火縄銃を差し出す男性


 ベガスの職人たちの元締め

 彼こそベガス一の職人、すなわち大陸一の職人だ。


 どう見ても緊張しきっている彼が持ってるのは見本として先に送っておいた火縄銃だろうか。

 見本の返却にそんな緊張しなくても…

 そう思うのだが、俺の立場そうさせてしまうのだろう。

 逆にこちらが申し訳ない。


「うん。たしかに」


 銃を受け取って一通りチェックしてみる。

 問題があるはずもなく、あっても俺に見つけられるとも思えないが一応。


「問題ないね。な?ボード」

「では失礼いたします」


 そう言って今度はボードが確認を始めた。

 目つきは真剣そのもの。

 なんでそこまで一生懸命なんだろう


「寸分の狂いもないかと。これを一瞬で判断したお館様は、相変わらず驚嘆の一言でございます」

「はっはっは、そんな褒めるな」


 むしろ何をそこまでチェックしてるの?

 と思ったが…


 寸分の狂いも、ない?


 それは見本をチェックするのにはそぐわない言葉

 それは、見本を元につくられたものに対して使われるべき言葉


「元締め、貴殿らの匠の技はお館様の目から見ても明らかである。この短期間で銃の複製を作り出すとは実に見事であった」

「あ、ありがたき幸せにございます!!」


 元締め、そしてその配下らしき面々が地面にたたきつけるかの勢いで頭を下げる。


「陛下は我らを後宮の奥底から太陽の下へと救い出してくださった大恩ある御方!その御方のご期待にこたえることができ、光栄の至りにございます!!」


 どうも彼ら職人は後宮では立場が低かったらしい。

 でもここベガスでは彼らはたぐいまれなる腕の持ち主として重用されている。


 そのことで感謝してくれているらしいが、

 正直、俺じゃなくて、オウランに感謝すべきでは…?


「王様。王様があちき達に与えてくれたこの街で、あちきもあちきの家族も仲間も、みんなみんな幸せになれたんだよ」


 本来の恩人であるオウランがこのように言うのでは致し方ないと言うべきか…


「ありがとう、王様」


 しかしこれで


「銃、量産化できそう?」

「陛下の御命令でしたら、今すぐにでも!」


 銃の量産化、できちゃったよ



 ---



 あまり展開の速さに脳がついていかない。

 だが、これで火薬も銃も量産が可能になった。

 その事実だけは、間違いない。


 さてこれでこの世界でも長篠を起こしてやろうかと思っていると


「実はこのようなものもつくってみたのですが…」


 元締めがもう一丁の銃を持ち出してきた。

 もう一丁つくっていたという事実に驚愕するが、まずは話を聞いてみよう。


「火縄が、ありませんね」


 さすがボード。

 一瞬で違いを見分ける。


 火縄がなくては火縄銃ではないではないか。


「さようにございます。火縄では速度や安定性に欠けるかと思いまして、多少改良を加えてみました」


 元締め曰く、トリガーを引くとゼンマイが回って火打石が火花を飛ばして点火するらしい。

 事前にゼンマイを巻くなどの作業はいるが、火縄より遥かに効率的だ。


「すごい!まさに銃だよ!」と柊はずいぶん興奮している。


 でも俺からすると構造が複雑化しててつくるのたいへんそうなのが気になる。

 量産のスピードを鈍化させそうだし、なにより修理がたいへんそう。

 壊れたとき前線で対応できるんだろうか?


「火打ち石を打つだけで、もっと単純化できればいいのにね」


 思ったことが口に出る。

 すると、「確かに…」という言葉と同時に


 職人たちの大激論が、始まった。


「陛下のおっしゃる通り、火打石という方向性は間違いないはず」

「複雑化の原因はこのゼンマイでは?」

「ゼンマイが自動化の大きな要因ですが…」

「利点と欠点をよく比べてみろ。複雑な兵器など前線で使い物になるのか?」

「では、ゼンマイをなくすと?」

「それしかない。そうすると…」

「火花が目的ならば強くたたくだけでいいはず」

「…!そうだ、こんな構造ならばどうだろう?」

「素晴らしい!早速試してみましょう!」


 みんな目が爛々と輝いている。

 俺の存在など忘れてしまったかのように、みな集中している。


 その姿は、とてもとても頼もしかった。



 ---



 彼らの迷惑にならないよう、すっと席を外す。

 さてどうするかと思うと


「全部、王様のおかげだよ」


 気づくとオウランが横にいた。


「王様がみんなを幸せにしてくれたんだ」


 近くにいられるだけでドキドキする。

 誰か周りにいないか!?と思うと、意外な声が聞こえてきた。


「英雄王、横からご無礼を。久方ぶりだな、オウラン」


 南方戦士団が戦士長、ウェルキン・ゲトリクス

 まるで昔馴染みであるかのように、オウランへと声をかけている。


「久しぶりだねえ、旦那。いい目をしてるじゃないか」

「ああ。お前の勧め通り、お会いしたからな」

「じゃあ、どうだったい?感想は、変わったかい?」

「いや、変わらない。()()()()()()()()()()()()()()()


 何の話題かはわからない。

 だが、二人はずいぶん嬉しそうにして


「「実物の方が、遥かに立派」」


 見事にはもりながら


「ではないか」

「だろう?」


 大いに笑いあっている。



 まったく意味はわからんが、二人が幸せそうで何よりだ。



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