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112話 魔界への道

「これが、魔界の地図となります」


 どこから取り出したのか、大きな地図が会議机に広げられる。


「なんと…!」

「魔界の地図。実在していたとは…」

「これがあれば、確かに魔界侵攻も夢ではない…!」


 そして起きるどよめき。

 驚愕、感嘆、期待、様々な思いがあふれでている。


「当代の大魔王を僭称する輩がいるのは、こちらです」


 ワーズワースが今の大魔王を大魔王とは認めていないらしい。

 そんな彼が指さす場所は、魔界最北端。

 つまり、この大陸最北端の地だ。


「ずいぶん、北だな」


 人間界との境近くとはまでは言わずとも、せめて魔界の中央にいて欲しかった。

 だが現実は厳しい。

 これでは魔界の深淵まで攻め入らねばならない。


「やつは態度も言動も立ち振る舞いも、全て下賤な輩です。態度のでかさだけは大魔王然としていますが、その内心は臆病極まりない。自分が不在の間に大魔王の地位を奪われることを恐れ、この城から一歩も出ることはございません」


 大魔王

 俺はその人となりは全く知らないし知る由もない。

 だが、ワーズワースの評価はずいぶん低いらしい。


「態度だけでなく、力もでしょ?ワーズワース」

「…その通りだ。我では、やつの足元にも及ばぬ。認めたくはないが、事実だ」


 苦虫を嚙み潰したようなワーズワースの顔

 口を挟んだ馬路倉も同じような顔をしている。


 この二人にそこまで言わせるほどの存在。

 先ほどまでの希望に満ちた雰囲気が一転し、沈黙が満ちる。


 だが、その沈黙を破ったのもこの二人の会話だった。


「我と貴様がいようと、やつ一人の手で殲滅されるだろう。だが」

「そう、それはあくまで私たちだけの場合」

「やつとは対極的に、態度も言動も立ち振る舞いも全てが高尚な御方」

「人類を初めて統一した全人類の王者にして、これから魔界をも平らげようとする御方」


「主様」「先輩」


「「あなただけが、大魔王を倒せる希望なのです」」


 希望に満ちた二人の眼差し

 そして沸き起こる歓声


 プレッシャーに押しつぶされて、卒倒しそうです。



 ---



「ここは、道か?」


 何も答えられないから、無理やり話を元に戻そう。

 とりあえず地図に言及してみる。


 意外と反応は上々で、みんなすぐに切り替えてくれた。


「いかにも。魔界最大の道にございます」


 多くの森や山脈がある中、いかにも怪しい一本道

 なんだろうと思ったまま口にしてみたが、正解だったようだ。


 しかし、妙だな


「この先は、()()か?」


 今度指さしたのは地図の上ではない。

 床


 つまり、今俺たちがいる場所

 この都につながっているのではないかと問うてみる。


「いかにも。人間界側がどうなってるかは存じませぬが、主様の居城から大魔王城まで魔界側は一本道でつながってございます」


 またもや大正解


 そして同時に身震いする。

 大魔王の城とこの都が、一本道でつながっているという事実に。


 いったい何故そんなことが?

 俺だけでなく、多くの者が驚愕している。


 ざわめく場の中で、よく通る声が響く。


「さっきのワーズワースの言葉に付け足す形になるかな。大魔王が即位するのは今も昔も大魔王城。だが、大魔王が鎮座する場所もそうだとは限らない」


 この中で歴代の大魔王を最もよく知るのは疑いようなくワーズワースだろう。

 ならば二番目は?

 それも疑いようがない


「人間界が生まれる前、大魔王は大陸全土を支配していた。極寒の北の大地ではなく、過ごしやすく豊潤な大地のある場所に住んでね」


 それは、人類で初めて大魔王を倒した英雄

 人間界を大魔王の脅威から守り続けてきた聖なる王


「それが()()


 彼女が指さすのは俺たちが立つ、床


「ルゥルゥの都、つまりイヅルの都は、大魔王の居城跡につくられたのさ」


 柊伊弦

 それを実行した張本人が、断言した。



 ---



「別に深い意味はなかったんだよ。城も街もあったから、整備しやすかった。それだけさ」


 自分たちの今住んでる場所がかつて大魔王居城であったことを知って皆驚きを隠せない。

 だが当の本人は飄々としたものだ。


「いけしゃあしゃあとこの場所に住めるその図太さは驚嘆に値するな」

「当時の私たちには資源も何もかもが足りなかったからね。使えるものは何でも使っただけだよ。それが、大魔王のものであってもね」


 ワーズワースと柊はバチバチと視線を戦わせている。

 馬路倉も因縁があったようだが、前回会ったときに少し打ち解けたようで今回は別に気にもしていない。

 だがこの二人は、まだ時間がかかりそうだ。


 まあ、今この場で気にしても仕方ない。

 昔何があったのかは知らないし、この都が大魔王の居城だったことも今はどうでもいい。

 大事なのは、それが今後にどうつながるかだ。


「で、大魔王が行き来するために、この道はできたってことか?」


 ワーズワースと因縁のある最後の一人、ジェンガ。

 さっきは少しだけまずい空気になったが、今はいつも通り。

 ごくごく普通に質問している。


「少し違う。確かに元々大魔王が行き来するために整備されてはいた。だが、今この道は大軍でも通れるほどの広さがある」


 それは実に好都合

 だが、いったい何故?


「あのとき、広がったってことかい?」

「さすがに気づくか。その通りだ」

「なるほど…」


 柊は理解したようだ。

 彼女が知ってるようなイベントとなると…


「かつて貴様が大魔王を弑した際、次期大魔王の座を目指して多くの魔王と魔族が大魔王城を目指した」


 やはり、柊が人類を解放したときか


「我先にと、血道を上げて突き進んだ空前絶後の大移動。あのときやつらが通ってできたのが、この道だ」

「血道をあげるどころか、本当に血の海だったようだけどね?」

「その通りだ。相争う中で魔王の数は半分になり、魔族に至っては十分の一にまで激減した」

「おかげで、私の人間界防衛戦はずいぶん楽になったよ」

「次期大魔王が就任するまでにかかった多大な力の空白。その間に貴様は聖王国、そして万里の長城までも作り上げた。そこは素直に称賛するぞ。その執念、見上げたものだ」

「…ありがとう、と言っておこうか。君にそんなふうに言われるとは、複雑な気分だがね」


 道ができた経緯がわかると同時に、二人の雰囲気が少し変わった。

 まあ、まだまだ時間はかかりそうだが。


 そして今度は馬路倉が口を挟む。


「でもそこからまた時が経っているでしょう。森に侵食されてはいないの?」

「無用な心配だ、ランシェル。血で血を洗う魔王戦争の傷跡、あれは呪いに等しい」

「呪い?」

「貴様と我がもう一度本気で殺しあうことを想像するがいい。その場所で再び、花が咲くとでも思うか?」

「…理解した。千年経っても、草一本生えてこないでしょうね」

「そうゆうことだ」


 お前らの戦いは核戦争か?

 理解できてるのが他にも数人いるようで恐ろしい。

 どんなスケールなんだ。


「道があることはわかった。地形も距離も把握できた。ただそれは、敵も同様」

「一刻の猶予もない、ということだな」


 ジェンガとボード

 二人の眼差しは地図から俺へと移る。


「お館様。ご命令通りただちに準備を進め、完了次第進軍を開始いたしたく」

「無論だ。詳細はお前たちに任せる」

「ははっ!!」


 やつらも当然人間界の地図を持っており、侵攻計画を立てているだろう。

 そしてこの道が都合がいいのはお互い様だ。

 この戦い、最初に主導権をもった方が圧倒的に優位となる。


「主様、我の軍はいかがいたしましょうか?」


 ワーズワースの進言。


「我のことを好まぬ者もおるようですし、陽動として別行動をとることも問題ございません。その場合は西の砂漠から進軍しようかと」

「かまわん」


 言葉を遮る。


「お前は、俺の部下だ」

「御意に」

「この戦い、味方同士で争って勝てるほど甘くはない。全軍でもって全身全霊で攻め入る。お前が俺の部下ならば、この決戦に参加しない理由など存在しえない」

「口さがない輩がおるかもしれませんが?」

「お前への不平不満は全て俺にまわしてこい。俺が直接話をつける。そしてお前も、人間だからと侮るなよ?」

「主様のお言葉、しかと承りました。全ては、大御心のままに」


 部屋中を流し見る。

 反論が出る様子はない。

 少なくとも、今は


 ならばこれ以上、俺が言うべきこともできることもないだろう。


「ならばよし!」


 そう言い残し、部屋を出た。



 パタパタとカルサが付いてくる。

 だが今日は足音が一つ多い。


 今俺が向かってる宮殿の奥、王の私室

 ここに出入りできる人間は多くない。

 思いつくのは数名。


 アルカは、むしろ奥の私室にいるだろう。

 ボードは、だいたい事前に連絡をくれる。

 ミサゴは、真っ先に部屋を出ていくのを目にした。

 ハイロは、ミサゴについて行ったに決まってる。

 馬路倉は、何やらワーズワースと相談していた。


 とすると残るのは


「リク様!」


 やる気に満ち満ちた声

 聞くだけでこっちまで気が高ぶってくる


 振り向くと、そこには予想通りの顔


 ジェンガ


「地の果てまで、お供いたします!」


 実に、心強い




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― 新着の感想 ―
[良い点] リクもちゃんと部下のこと(側近だけかもしれんけど)把握して、よく見るようになったな…。
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