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111話 先導者

 会議の間へと足を踏み入れる。


 主な面々は揃っており、席は全て埋まっている。

 むしろ椅子の数は足りないぐらいで、立っている人間もいるほどだ。


 だがそれもつかの間。

 俺の入室と同時に全員が立ち上がり、深く頭を下げる。


 そう、全員が

 一指も乱れずに


 出自も経歴も違い、ついこの間まで戦争もしてた間柄

 にもかかわらず何故こうも統一した行動がとれるのか

 いったいどんな魔法を使ったのか


 さっぱり理解できないが、これが現実

 俺に向けられた敬意だということも、現実


 何度やられてもしり込みするが、ぐっと我慢

 胃に穴が開きそうな重圧を耐えながら足を進める。

 椅子までの数歩がなぜこんなにも長いのか。


 ようやく椅子に到着し、重力に引き寄せられ座り込む。

 これだけで一仕事終えた気分だが、まだ始まってすらいない。

 できるだけ大物っぽく、鷹揚に手を上げる。


 それを合図にして椅子のある人間は席に座る。

 椅子のない人間は立ったまま。

 当然のように微動だにせず。


 これでもまだ始まってすらいない。

 準備がようやく整っただけ。


 なんの準備か?


 もちろん、魔界侵攻作戦の概略を傾聴する準備だ。


 誰がするのか?


 もちろん、俺だ。

 なにせ人類史上初の魔界侵攻を宣言した張本人なのだから。


 ではその作戦の内容とは?


 もちろん、何も決まっちゃいない



 ---



「皆、やる気に溢れてるようで嬉しいぞ。実に頼もしい」


 誰も彼も目を輝かせながら俺を見ている。


 ただ例外としてカルサだけは心配そうに

 そしてジェンガだけは俺の隣へと視線を向けている。

 二人の気遣いが申し訳ない。


 どの目もやる気と期待に満ち満ちている。


 それらは全て今から俺が説明する魔界侵攻作戦へと向けられている。

 人類史上初の魔界への大攻勢

 それを実現する神の一手


 一言たりとも聞き逃すまいと、全員が真剣そのものだ。


 ここで「実は何も考えずに口に出してました。ごめんね!」と言えたらどれだけ楽だったろうか。

 それができていたらそもそも俺が玉座になんか座っていない。


 勘違いで期待され

 その期待を裏切るのが怖くて虚勢を張り

 ついには人類の頂点に立ってしまった。


 今さら後戻りはできない。


「では、そろそろ本作戦の概要について語ろうか」


 だが、俺の口から説明できることなどありはしない。


 ゆえに、俺はある一つの策に全てをかける。


 俺の口から説明できないのならば


 別の口で説明してもらえばいいのだ!!


「なあ?ワーズワース」


 ワーズワース

 それはかつて魔法国で出会い、俺への心中を誓った魔王の名

 魔王ならば魔界に詳しくないはずがない


 かつては魔法国の結界をなんなくすり抜け、馬路倉に気配も感じさせず俺のそばに侍っていた。

 ならば今回もそばにいてくれているのでは?


 そう期待して、それを願って、その可能性に全てを賭ける。

 カジノで全財産をチップにして一点張りした気分。

 生きた心地がしない。


 現実にはまたたきほどの一瞬

 だが俺には永遠にも感じられた静寂


 会議の間に、声が響く。


「さすがは主様。またもや気づかれてしまいましたか」


 声は俺の横から聞こえてくる。


 さっきまで何もなかったはずのその空間に

 いつの間にか、やつはいた。


「魔王ワーズワース、おそばに」


 君はやってくれる男と、信じていたよ!!



 ---



「「「ワーズワース!!!」」」


 殺気に満ちた声

 素人の俺でもわかるほどに


 柊、ハンニバル、ゲンシン、ナーラン、ウェルキン

 名だたる武人だちが戦闘態勢をとる。


 当然それは俺に向けられたものではない。

 なのにその対象が横にいるだけで、蛇に睨まれた蛙のように体は動かなくなる。


 これが彼らの本気なのか

 こんな人々が俺に忠誠を誓っているのかと改めてゾッとする。


 だが、だからこそ

 俺が止めないと


「静まれ」


 蚊の鳴くような声

 今の俺には精いっぱいの大声


 そんな声でもみんな聞き逃すことはなく、戦闘が始まることはなかった


「正気かい、リク君?そいつはワーズワースだよ?大魔王の親衛隊長、魔王の中の魔王だ。私たち、人類の敵そのものだ」


 柊が口を開く。

 剣を構えたまま、全身から殺気を放ちながら


 伝説では、この二人は三日三晩死闘を繰り広げたとか

 因縁の相手というわけか


 だが


「ワーズワースは、今は俺の部下だ。そして柊、お前は俺の何だ?」


 柊の殺気で喉も押しつぶされそうだ。

 それでもなんとか、声を絞り出す。

 できるだけ淡々と

 可能なかぎり冷静に


「…君の、部下だ」


 そう言いながら柊は剣をおさめ、不承不承も席に着く。

 それにならって、他のみんなも構えをといていった。


 一瞬即発の危険は過ぎ去った。

 もちろん、剣呑な雰囲気は充満したままだが。


「ワーズワースは、俺に忠誠を誓っている。これは大陸中で周知の事実だと思っていたのだがな?」


 かつて、俺はワーズワースと戦った。

 戦ったというかアルカに借りた魔力で圧倒しただけなのだが、勝ったは勝った。


 そのとき臣従を誓われたわけだが、ちょっとした手違いでその会話は大陸中に聞かれてしまっていたのだ。

 本当は魔法国の民を安心させるために彼らにだけ聞かせようとしたのに、カルサが魔力の調整を間違えて大陸中に聞かせてしまったのだ。

 今思うと間違えたってレベルではない気もする。


 聞いてはいても、知ってはいても、現実に目の前にすると違うというわけか。

 なかなか難しいものだ。


「ワーズワースは、俺の部下になった。過去に何があろうと、今後は協力してもらう」

「もちろんです、主様」

「…了解。これも君の力だと、納得するよ」


 柊もとりあえずは納得してくれた。

 馬路倉はすでに顔を合わせてるので戦闘態勢もとらなかった。


 ワーズワースと直接因縁があるのはこの二人ぐらいかな?

 何とか場がおさまりそうでよかったよかった。


「しかしさすがは主様ですな。またしても我が隠形を看破されるとは」


 ワーズワースが俺に尊敬のまなざしを送ってくる。

 むしろいてくれてありがとうと泣きながら御礼を言いたいぐらいなのに


「主様以外では、そこの狂犬だけでしたな。我の存在に気づいていたのは」


 狂犬?


「同じ部屋に入るまで気づかなかったからな。別に褒められるほどじゃねえよ」

「貴様以外の者は同じ部屋にいても気づかなかったぞ。我も日々精進しているが、貴様もまた腕を上げたようだな」

「もちろん。試してみるか?お代はお前の首になるがな」

「ぬかしおる」


 ジェンガ

 俺から視線をそらしていたのではなく、ワーズワースを見ていたのか


 再び一瞬即発の緊張感が押し寄せる。


 いかんいかんいかん

 場を和ませないと!


「二人とも、実に頼もしいな」


 注目が俺へと移る。


「そのやる気を、大魔王との決戦に向け昇華してくれると期待しているぞ」

「もちろんですとも、リク様!」

「お任せください、主様!」


 二人とも本当の敵を思い出してくれたようで何よりだ。


 一難去ってまた一難

 とりあえず最大の危機は乗り越えたが、これからは部下の人間関係でいろいろ悩まされそうだ。


 考えただけで胸がいっぱいになる。

 だが、まずは


「ワーズワース。お前の策を、聞かせてもらえるか?」

「御意にございます、主様」


 本題に、入ろうか




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