表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/191

106話 解放王と英雄王

「以上が、私たちの旅の始まりと終わりさ」


 柊はふぅと一息つく。

 一仕事やり遂げたというように、ずいぶんすっきりした顔だ。


 だがカルサは今の話に満足していないようだ。


「おばあちゃんの姿は神との謁見直後で変わった。それは私の姿からお姉ちゃんの姿へと変わった、という理解でいいんですね?」


 それは俺も気になっていた。

 だがアルカとカルサの前で聞いていいものかと躊躇したのだが、本人がズバリ口にするとは。

 さすがカルサ。


 そして柊は意にも介さず回答する。


「その通りだよ」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに。


「正直、初めて見た時は驚いたね。初めて会った頃のルーちゃんと別れたときのルーちゃんが二人並んでるんだからさ」

「村ではよく言われました。私たち姉妹はおばあちゃんの生き写しだって」


 俺も聞いたことがある。

 正直眉唾だと思っていたのだが…


「私が保証するよ。まごうことなき生き写しさ」


 これは老人の思い出補正などではない。

 不老不死の英雄、解放王の証言だ。


「おばあちゃん。おばあちゃん。おばあちゃん…!」


 感極まり、カルサの目から涙があふれだす。


 会ったこともない母親に見た目の印象が全く異なる姉

 自分だけに受け継がれなかった治癒魔法の力

 常に感じていた疎外感


 そんな彼女にとって、若い頃の祖母の生き写しというのは心の拠り所だったのだろう

 今、それは証明された。


 愛する祖母が自分に宿っているという事実

 想像を絶するほどの喜びなのだろう


 これは悲しみではない。

 喜びの涙なのだ。


「よかったね、カルサ。本当に、よかったね…」


 優しくカルサを抱きしめるアルカ。

 二人とも、本当によかった。


 そんな雰囲気が場違いだと感じさせてしまったのだろうか。

 馬路倉はそっと部屋から出て行った。


 そして馬路倉が出て行った直後、今度はアルカが柊へと問いかける。


「私も知りたいことがあります。その、たっちーさん、タチバナさんが、私たちのおじいちゃんなんでしょうか?」


 先ほどの反応とは異なり、柊は目をつぶりながら静かに首を振った。


「それは、わからない。私たちは聞かなかったし、ルーちゃんも自分から言わなかったからね。君たちの祖父が誰かは、今となっては誰にもわからない」

「そう、ですか…」


 落胆するアルカとカルサ


「ただね」


 今度の柊は、笑顔だ。


「私とファルが聞かなかったのは、聞く必要がなかったからさ、私たちはルーちゃんとたっちーがどれだけ愛し合っていたかを知っている。あのルーちゃんが、他の男との間に子供をつくるなんて天地がひっくり返ってもありえないってね」


 二人の顔にも笑顔が宿る。

 それから、柊は帰りの旅について語ってくれた。



 大魔王を討伐してすぐに発覚した村長の妊娠

 身重で踏破するには魔界の環境は過酷だった


「私は経験があるから色々サポートできたけどね。でも何より、彼女自身の力一番役に立ったよ」


 村長の力

 握っただけで鉄を捻じ曲げ、強力な魔族も一撃で葬りさる腕力

 一振りで森を焼き払い、山をも消し去る魔力

 人知を超越し、自らでも制御できないほどの力


「変わってしまった彼女の姿と何か関係があったんだろうけどね。これについては直接聞いたよ。でも教えてはくれなかった。約束、なんだとさ」


 だがそれでも、魔界は魔界

 人の住む世界ではない

 決して楽な旅ではなく、命の危機も数度ではなかった。


 それでも決して諦めず、三人はついに人間界へと辿り着く。


 村長はつわりがひどく、旅の後半はほぼ寝込んでいたという。

 旅の終わりには臨月も近かった。


「そのまま聖王国に留まって生むことを提案したんだけどね。故郷で生むって断られちゃったよ。それならばとファルは都で生んだからどうかと聞いたんだけどね」


「あたしはね。決めてるんだ。あたしが生まれ育った村でこの子を産んで育てるってね」


「そう言って、二人とも振られちゃったのさ」


 いい笑顔だったよ。

 そう言って懐かしそうに柊は目を細めている。


 それから三人は村長について語りだす。

 アルカもカルサも柊も、みんなとても楽しそうだ。


 三人の笑顔を見て、俺はそっと部屋から出た。



 ---



「リク」


 そろそろ夕飯の時間だっけと思って廊下を歩いていると、ミサゴに呼び止められた。


「叔母上との話は終わったのか?」

「えっと、まあ、一応」

「そうか」


 さっきまでの困惑が嘘のようにすっきりした顔をしている。

 そういえば呼び方も叔母上に戻ってる。


「ミサゴは、大丈夫?」


 俺なんかに心配されるほど弱くはないとわかってはいるが、聞いてみた。

 すると嬉しそうに笑い返してくる。


「心配してくれて感謝するぞ」


 やっぱりミサゴには笑顔が似合うな。


「妾のことなら心配いらぬ。確かに困惑したが、妾は叔母上を慕っていたのは母上の妹だからでも何でもない。叔母上の人柄を妾は好いているのだ。それは始祖様であろうと変わりはない。多少時間はかかったが、それに気づくことができたよ」


 大好きなおばさんが尊敬するご先祖様だと知って、混乱してしまったわけか。

 しかもそのご先祖様は伝説の英雄ときたもんだ。

 まあ、無理はない。


「叔母上は、アルカとカルサと話を?」

「うん。村長について話してるみたい」

「そうか。では妾とはその後に付き合っていただくとしよう」


 そう言って、ミサゴは去っていく。

「またな、リク」

 いつものように太陽のような笑顔で。



 ---



 夕食は柊を客人に招いてのパーティーだった。

 挨拶等は他の人に任せ、俺は純粋に食事を楽しませてもらった。

 料理長は相変わらずいい腕をしている。


 まだ皆ワイワイやってる中、静かなところにと思ってきたら先客がいた。


「おや、リク君」


 パーティーの主役たる柊がいるではないか。

 解放王だということは隠しているが、聖王でも十分すぎるほどの大物だ。

 こんなとこに一人でいていいのだろうが。


「静かなところを求めて来たのかな?私はさすがにもう戻らないといけないから、どうぞ休んでくれたまえ」


 そう言って会場へと戻ろうとする。

 二人きりで何を話せばいいのかわからなかったから、正直助かる。


「でも、せっかくだから一言だけ」


 口調はいつものように軽かった。


「今日話した内容で、私は一つだけ嘘があるんだ」


 でも、目は今までにないほど真剣だった。 


「それは、私が"不老不死"だってこと。残念ながら、私は不老であっても不死ではないんだよ」


 人は死ぬ。

 当り前のことであるはずなのに、まるでその言葉が鉛のように重く感じる。


「神は人を生き返らせない。同時に、不死にすることもできない。だから私は不老不死にはなれなかったんだよ。そして今まで、それで問題なかった。自慢じゃないが私は強い。事実として、私を殺せるような存在は今までこの世界に存在しなかった」


 だから何柱もの大魔王を討伐してきたのだと

 まるで当然のように口にする。


 だが


「だが、今の大魔王は私より強い」


 それはつまり


「戦えば、私は死ぬ。聖王国は滅ぼされ、魔族は人間界に雪崩れ込むだろう」


 人類の英雄、解放王

 大魔王とは、そんな彼女が死を覚悟するような相手だという


「ゆえに私は貴方に服従するのです。あらゆる艱難辛苦を乗り越え、数多の奇跡を実現し、史上初の人類統一を成し遂げた英雄王に」


 流れるような動作で跪く


「この世界を、人類の未来を、貴方に託すのです」


 今度こそ、彼女は去っていった。


 誰もいないこの場所で、俺だけが取り残される。

 人類最高の英雄にすら、取り残されたのだ。




先週はパソコンの調子が悪く更新できず、申し訳ありませんでした。

いまだに数回に一回は電源つかないのですが、なんとかだましだまし使っております。

給付金はパソコンに使わざるを得ないのかと戦々恐々です…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ