表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/191

105話 村長の過去

 さて、では何を話そうか。


 どこからどこまでってのは簡単なんだよ。

 最初から話し始めて、最後になったら終わればいいんだ。

 今回なら私とルーちゃんとの出会いから別れまでを語ればいい。


 ただその間の話もなかなか濃厚でね。

 なにせ大魔王を倒す英雄譚さ。

 話題が尽きないどころか、一大叙事詩になってしまう。


 でもまあ、そうだね。

 むしろ今回大事なのは最初と最後かな。


 ではそこらへんを、さくっと語ろうか。



 ---



 私とルーちゃんとの付き合いは、そんなに長くはない。

 彼女が魔界に突入する直前、たっちーとファルと一緒に聖王国に来たとき初めて会ったんだ。

 四人のパーティーで、私が一番新顔だったんだよ。


 たっちーとファルが誰かって?

 たっちーはまだしも、ファルはミサゴとハイロの父親だよ?

 イヅルの先王、ファルコン・イヅル。

 名前は初めて聞いた?

 ふーん。国王の本名なんて、普通は知らないもんなのかね。


 まあ、ファルはいいんだ。

 問題はたっちーの方だ。


 ”名もなき剣士”なんて呼ばれてる彼の本名は、カイト・タチバナ。

 立花海斗。


 想像通り、私たちのご同郷さ。


 彼は、戦いの天才だった。

 だけどそんな才能、向こうの世界じゃ宝の持ち腐れ。

 こっちに転移してくるときに神様に教えてもらわなかったら、一生気づかなかっただろうね。


 彼の戦いの才能ってのは面白いもんでね。

 一番得意なのは剣だったが、おたくのジェンガよりは遥かに劣る

 魔法も使えたが、馬路倉ちゃんの足元にも及ばない

 素手で戦うのだったら私の圧勝さ


 そういう風に突出した技術はないが、なんというかね

 鼻が利く、っていうのかな?


 戦闘において、彼には常に勝利への道筋が見えていた。


 あとはその道筋に従って戦えばよかった。

 自分にできなくても、仲間の力を借りて。

 彼にとって戦闘とは、手順通りに行えば必ず勝てるもの

 そういうものだったのさ。


 あんな優しそうな顔をしてるのが、まさか戦闘の天才とはね。

 いざ戦ってみなきゃ、とても信じられなかったよ。


 そんなわけで、たっちーはすごかった。

 でもパーティーのリーダーはファル。

 だってたっちーとルーちゃんはどう見ても恋仲だったから


 どっちかをリーダーになんかできやしないだろ?

 二人が痴話げんかで仲たがいなんかしたら目も当てられないよ


 お、二人ともずいぶん食いつくね?

 ルーちゃん、おばあちゃんの知らない一面に興味津々かい?

 色々教えてあげたいが、ルーちゃんに怒られそうだからこれぐらいにしておこう。

 他はまた、別の機会にね。


 まあ、そんなあぶなかっしい三人が大魔王を倒すなんて言ってるわけだ。

 それで、私も参加したのさ


 当時はちょうど代替わりしようかなーってとこでね。

 王家の一人を聖王の影武者にして寝込んでもらってた。

 私はその影武者の王の娘、ファルの妻の妹として参加したのさ。


 あぶなかっしいからってのは本当さ

 そして、一緒にいたら楽しそうって思ったのも実はある

 でも一番大事なのは、世界のルール


 もし彼らが負けたら、大魔王は神へと謁見する。

 大魔王の願いが、かなえられる。

 すなわち、人類の安寧が終焉する。


 それを止めるために、私は彼らと旅に出たんだよ。

 大魔王を倒す旅へとね。



 旅は楽しかったよ。


 魔界は過酷な環境だが、ルーちゃんの魔法のおかげで生活には困らなかった。

 ワーズワースなんかはあれがちょうどいいらしいけどね。

 正直、特殊な例だと思ってるよ。


 旅では色んなことがあったよ。

 つらいことも楽しいことも、いっぱいね。


 本当は話してあげたい。

 むしろ私が話したいぐらいだが、今回は省略しよう。

 伝えるべきことはそこにないから


 だから飛ぶよ、大魔王との決戦へね。



 ---



 魔界ってのは当たり前だけど魔族と魔物の世界さ。

 私たちの味方なんていやしない。

 そんな中進んでいくわけだから、当然私たちのことは噂になる。

 強い力をもった人間が、魔界にきてるってね。


 当然大魔王は警戒する。

 大魔王の居城は防備を固めてる。

 そんなところに侵入するんだから、当然一筋縄ではいかないさ。


 全員で協力して突き進み、一緒に大魔王に立ち向かう。

 そんなことはできっこない。


 さっき馬路倉ちゃんが言ってたよね。

 彼女は仲間たちを先に進めるために足止めしてたって。


 大魔王を倒しに行くなら、それが王道の戦法なんだよ。

 仲間の誰かが命懸けで雑魚を足止めし、他の仲間たちが大魔王を倒すのに懸ける。

 私たちも全く同じことをして、大魔王へと立ち向かったんだ。


 …前置きが長くなったね。

 大魔王との決戦の話をするって言ってたのに、なかなか始められなくてごめんよ。

 やはり、嫌な話をするときは、口が重くなるもんだね。



 結論から言おう。

 大魔王には勝った。

 だが、こちらにも被害はあった。


 被害なんてあいまいな言葉はよくないね。

 はっきり言おう。


 私たちは、仲間を失った。


 たっちーが、死んだ。



 ---



 足止めは、私とファルがやった。

 たっちーなら、たっちーとルーちゃんなら、大魔王を倒せると信じて送り出したんだ。


 大魔王を倒せる自信はあるかと聞いた私にね

 たっちは笑顔で返してくれたんだよ。

「もちろん!僕には、ちゃんと見えてるから!!」

 って。


 それが、自分の命と引き換えに倒すことだなんて、私には想像もできなかったよ。

 彼がそんな力を神様からもらったってことも、知らなかったんだ。


 解放王は神に等しいなんて言われてるけど

 私はやっぱり、ただの人間なんだよ。


 私とファルが追い付いたとき、全ては終わっていた。

 大魔王は倒され、たっちーはその傍らでこと切れていた。

 私がすべてに気づいたのは、そのときだったのさ。


 ルーちゃんは、泣き叫びながらたっちーにすがりついてたよ。

 そしてそのまま、ルーちゃんは神に呼ばれていった。


 ルーちゃんが何を望んだかは私は知らない。

 私は聞かなかったし、ルーちゃんも教えてくれなかった。


 帰りの旅は、言葉少なだったよ。

 せっかく大魔王を倒して私たちは新しい伝説になったのにね。

 もっと大事な何かを失ってしまったんだ。



 ただ一つ、厳然たる事実がある。

 神への謁見の後、彼女は変わった。


 彼女のまるで魔界の雪原のようだった銀色の髪と目が

 金色になっていたのさ


 女神様と同じ、金髪金目にね



さくっと書けると思っていたのですが、なかなかに迷走して時間がかかりました…。すいません。

考え込んでしまうのが遅筆の原因ですね。

ガンガン書けた連載当初が懐かしい…。


家でじっとしてると体によくないのか、最近体の調子が悪いです。

運動って大事なんだなと実感しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ