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幕間 ジェンガ視点(84,99話)

 自分は人と違う。


 そう気づいたのは、いつだっただろうか。



 圧倒的な剣の才。

 幼い頃から負けることなどなかった。


 俺のもつ才能に狂気した父。

 思い出されるのは彼が倒れ伏す姿だけだ。


 数えきれない敵を屠ってきた必殺の初撃。

 それを可能にしたのは、神速を超えた踏み込み。

 二の太刀要らずの我が剣を受け、なお倒れなかった者はわずかに二名。


 一人目は、俺が初めて勝てなかった女。

 いつか倒すと心に誓った、人類最強。

 聖王、アオバ・オウル


 二人目は、俺が初めて敗北した女。

 世界の高みを教えてくれた、世界最強。

 アルカさん


 井の中の蛙だった俺は、この二度の敗北で世界を知った。

 この二人のおかげで、少しだけマシな人間になれた。

 だからこそ、真の偉人に出会えることができた。


 誰かなんて聞かなくてもわかるだろう。

 もちろん、リク様さ。



 ---



 リク様は聖王やアルカさんのように強いわけではない。

 そもそも強ければ、魔獣に殺されかけたりしない。


 世界最強の魔法使いの件も、アルカさんの魔力を借りてのものだ。

 二人の間で何か取り決めでもあるのだろう。

 俺には想像もできない何かが、裏にあるのだ。


 リク様のすごさは、強さなどという次元にはない。


 圧倒的強者さえ膝をつく何か

 民衆を熱狂させる何か

 言葉にできない何か


 人知を超越した、何か

 これこそ、リク様の()なのだ



 それを改めて実感した出来事がある。


 忘れもしないあの朝、俺は中庭で鍛錬を行っていた。

 まずは素振りで体を温める。

 そして次に打ち込み。


 全神経を集中し、空間を把握する。

 中庭だけでなく、城全体を。

 武器を持つ者全ての位置を把握し、それら全員が敵と想定。


 …問題ない。

 一瞬でケリがつく。


 もちろん実際は皆俺の可愛い部下たちだ。

 手を出すはずもない。


 打ち込む相手は、目の前の巨木。

 年老い、朽ちかけたこの巨木の息の根を止める。


 全身全霊を込めた一刀。

 長い年月を生きた老木への敬意を払い、今の俺の全力を叩きこむ。


 ズズン


 完璧だ。

 人であれば自分が死んだことにも気づかなかったろう。

 巨木が倒れる音を後ろに聞きながら、再度構える。


 さて次はどうするか

 新たな狙いを定めようろ再度空間把握を開始する。


 すると目の前に、リク様がいらっしゃった。


「リク様じゃないですか!?」


 全く気配を感じなかった。

 帯刀しているにも関わらず、俺に気配を感じさせない。

 相変わらずの底知れなさだ。


 だが、問題はここではない。

 言及すべきは、この次。


「そうだ!リク様から見て俺の剣技、いかがでした?ぜひご指導、お願いいたします!」


 正直、自信があった。

 リク様に褒めていただけると思った。

 指導するところなどないと言われ、そんなことはないですと謙遜する。

 そんな未来を予想していた。


 だが俺にかけられた言葉は、それとは対照的なものだった。


「踏み込みが甘い」


 今まで数多の敵を打ち倒してきた俺の踏み込み。

 絶対の自信をもっていた踏み込み。

 それが、否定された。


 目の前が真っ暗になるとはこのことか。

 自分の信じていた世界が音を立てて崩れていくのを感じる。

 リク様の一言で、俺は絶望の淵へと追いやられた。


 だがこの絶望から引き揚げてくださったのも、リク様だった。


「確かにお前の踏み込みは天下一品だろう

 世界広しといえど、人間界魔界を含め、お前以上の踏み込みができる男はいない」


 よかった。

 俺の踏み込みは認めていただけている。

 ほっと一息つく。


 だが、リク様の言葉はそこでは終わらない。


()()()()()()()()()()()()()()?」


 頭から氷水をかけられたようだった。

 寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。


 その通りだ。

 俺は一体何に満足していたのだ?


 今の俺の踏み込みなら、斬鉄剣があれば、聖王に勝てるかもしれない。

 だがアルカさんには敵わない。

 大魔王は言わずもがな、ヤツにも勝てるかどうかはわからない。


 にもかかわらず、俺は何故満足していたのか。

 何が”完璧だ”だ。

 ただの自己満足。

 

 リク様が朝日を見上げ、手をかざす。

 太陽すら掌中に収めるかのごとく。

 俺が目指すべきはあそこだとおっしゃるかのごとく。


「ジェンガ、高みを目指せ。誰も到達したことのない新世界へ。お前だけがたどり着ける頂きに」


 そして、己の予想が正しかったことを確信する。

 リク様は、俺の慢心を看過されていたのだ。

 ゆえに、俺が最も自信をもつ踏み込みを指摘された。


 何故か?

 答えは一つ。

 俺に、更なる成長を促してくださるため。


 慢心し、見捨てられてもおかしくなかった俺に、今一度機会をくださったのだ。


「お前ならば、それができる」

「はい…!」


 そう口に出すので精一杯だった。


 肩に置かれた手は、まるで剣など握ったこともないように柔らかい。

 だが俺は知っている。

 この手は、戦うための手ではないと。


 あらゆる人を救う、この世で最も優しい手なのだと。



 ---



 エキドナは、強かった。


 剣の腕では俺にもハンニバルにも及ばない

 魔法の使い手としては魔法王の遥か格下

 この四人の中で最も優れたところなど、探す方が難しい


 ただそれでも、俺たち三人の猛攻を耐え抜いたのだ。


 ハンニバルの流れるような剣術。

 全てが必殺である幾百幾千の剣筋、それら全てを捌きかえした。


 そして放たれる反撃。

 威力は弱くとも、確実に肉体を傷つけてくる魔法。

 人を殺めるべく洗練された魔法の数々。


 敵ながら、見事なものだ。


 次には魔法王の攻撃。

 肉体強化によって生み出された、人を超えた力と速度。

 当たれば一発で肉体が弾け飛ぶであろう拳と脚が乱れ飛ぶ。


 だが、それも当たらない。

 体捌きで全てを受け流す。

 完全に死角をついた攻撃も


「ちぃっ!」


 瞬間移動の前では形無しだ。

 渾身の一撃は空を切り、逆にエキドナの反撃に襲われる。


 魔法王が何とか逃げ切ったとき

 そろそろ、俺の番だ。


 俺の自慢の一撃

 リク様に鼓舞された一撃

 渾身の踏み込みで放たれた一撃は、易々と避けられた。


 そのまま二手三手と次々に攻撃を放っていく。

 それら全てが空振りとなると理解しながら。



 俺の一撃で倒れなかった聖王とアルカさん。

 二人とも、避けたわけではなかった。

 その鎧に、肉体に、俺の刃が通らなかったのだ。


 だからこそ、俺は踏み込みに対する自信だけは揺るがなかった。

 武器さえ変えれば

 この斬鉄剣があれば

 今度こそ、俺の刃は届くのだと思えたから。


 だが今、そんな思いはどこにもない。


 瞬間移動

 この力の前には、俺の踏み込みなど問題にもなりはしない。


 もしリク様のご指摘を受ける前だったらと思うと、恐ろしくなる。

 茫然自失となった俺はこの場で最初の敗退者となっていただろう。


 ゆえに、リク様の偉大さを心から痛感する。


 俺の敗北は、決して刃が通らなかったからなどではない。

 決して、武器のせいなどではない。

 全ては、俺自身。


 己が未熟さにより、敗北した。


 この戦いの前に

 それに気づかせてくださったのだ。



 三人の攻撃がまた一巡する。

 即席の連携は稚拙さばかりが目立ち、誰一人エキドナまで届くことすらできていない。


「どうした?三対一だというのに、貴様らはこの程度か?」


 ご指摘通りで返す言葉もない。

 魔法王が何か言っているが、どうでもいいことだ。

 瞬間移動が例え何かしらの道具によるものだとして、それがどうしたというのか?


「全く同意見だね。例え負けても、道具の差のせいにするつもりなんて毛頭ねえ」


 敗北の責を道具に押し付けて足踏みした日々。

 二度と同じ轍は踏まない。


 勝つも負けるも、全ては己次第。


 勝利の栄光も

 敗北の恥辱も

 全て俺のもの

 誰にも譲るつもりはない。



 一対一の戦いが始まった。


 一撃目

 万全な体勢から放たれた必殺の太刀

 瞬間移動であっさりと避けられ、為すすべもなく空を切った。


 二撃目

 息もつかせず返す刀で襲い掛かる

 だがエキドナはもう同じ場所にとどまることがなかった。

 踏み込んだ時には、すでに消えていた。


 三撃目

 また避けられた。

 そして今度の移動先は、俺の背後。

 無防備な背中へと放たれた剣を紙一重で避ける。


 面白く、なってきた。


 床へ、壁へ、天井へ

 配置も場所も関係なく、広間中が俺たちの戦場となる。


 どちらも決め手を欠いていた。

 俺の剣はエキドナに届かず

 エキドナの剣は俺を倒すまでには及ばなかった


 何度避けられただろうか

 もう数えるのもやめてしまった

 無心で放たれる一撃


 刀の先に、かすかな感触があった。


 それは、永遠に届くはずのなかった壁の向こう

 瞬間移動という人の域を超えた存在へと至る道筋


 俺は、無我の境地へと至ったのだ



 全身が歓喜する。

 勝利したわけでもないのに、圧倒的な達成感に包まれた。


 ついに殻を破ったのだと。

 壁を乗り越えたのだと、喜びがあふれ出てきた。

 もう、それはとめどなく。


 今にも自分が殺されそうとしているにもかかわらず

 俺は、歓喜していた。



 ---



 ここから先の話はご存じの通りだ。


 俺の戦意喪失を悟ったリク様は、御自らの手でこの戦いを終わらせられた。

 エキドナの瞬間移動などものともせず

 まるで移動先を知っていたかのように、ただの一手間で。


「さすがリク様!!」


 自分の主の偉大さが、心から嬉しかった。


 俺が大きな一歩を踏み出したその直後に

 俺たちがこれだけ手を焼いた相手を、わずか一瞬で


 更なる高みを見せつけられた。

 更なる高みを見せていただいた。



 かつて自分こそ世界最強だと奢っていた若き頃の俺に早く教えてやりたい

 世界は広いぞ、と

 こんなにも偉大な御方ががいるのだぞ、と


 ああ、リク様

 あなたの下でなら、俺は百万の敵とも戦いましょう


 あなたと一緒なら、俺は大魔王へも立ち向かいます


 全ての壁を乗り越え、全てへと辿り着くのです。




ジェンガ視点の話でした。

結構頻繁に書いてるからなーって思ったのですが、前回のジェンガ視点は一年以上前でした…。このため躊躇せずに書けたのですけどいいのか悪いのか…。なかなか話が進まずすいません。


次の話からは新章へと入ります。

できるだけお待たせしないようにできるよう、頑張ります。


皆さんもどうか、本当の本当に健康にお気を付けください。

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