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96話 連邦首都ラング

 人間界の中央に位置するヒュドラ連邦

 更にその中央にあるのが中央平野

 そこに鎮座する場所こそ、連邦首都ラング


 ここが、最後の戦場だ。



 ---



「ここよりラングに至るまでの各都市は、全て降伏済です」


 連邦領の地図を示しながらボードが説明してくれている。


 地図はわかりやすく色づけしてあった。

 赤が連邦領で青が我がルゥルゥ軍。

 連邦首都ラングの周りだけが赤く、それ以外はほぼほぼ青色。

 四方を青に囲まれた赤色は、もはや風前の灯火か。


「理想を言えば三方から攻め入りたかったところですが、東からのみの侵攻となります」


 西方と南方の軍は進軍ができない。

 被害があるとかサボタージュとかでは全くなく、単純に仕事がパンクしているのだ。


 ヒュドラ連邦西方方面軍と南方方面軍

 それぞれが自軍が同じかそれ以上の規模の組織を吸収合併することになったので、てんてこ舞いなのである。


 まあ、たいへんとは言っても戦争ほどたいへんではない。

 事務処理部隊は悲鳴をあげているようだが、嬉しい悲鳴のようだ。

 戦いになって仲間が死ぬよりよっぽどいい。

 過労に気を付けつつ頑張ってもらいたい。


 そういうわけですでにヒュドラ連邦軍が壊滅している東方からのみの進軍である。


 なお、北からは進軍しない。

 人類圏に残る三国の最後の一つ、聖王国を刺激しないために。


「だけど、なかなか進まないねえ」

「返す言葉もございません。お館様のご期待に沿えず、まことに申し訳ございません」

「ああ、いやいやいや、責めてるわけではないんだよ?本当だよ?」


 ボードを恐縮させてしまった。

 彼のせいでも何でもないのに。

 進軍速度が遅いのは単に降伏した各都市で足止めされるからだ。


 抵抗があるわけでもないのに足止めされるとは意味がわからないが、事実そうなのである。


 歓迎されたり

 大歓迎されたり


 都市に入るごとにそんなことが起きしまっている。

 最近の連邦中央の統治は聞きしに勝る酷さのようで、むしろ我が軍が解放軍扱いされてしまっているのだ。

 中央から派遣されていた官僚たちがその憎しみを一身に受けており、生きた彼らと遭遇することはほとんどなかった。

 率先して都市の門を開けでもしない限りは。


 民も官も諸手を挙げてこちらを歓迎してくれる。

 それを無下にもできず、必然的に進軍速度は低下した。

 しかも官僚機構が崩壊した都市には代わりの統治機構をこさえる必要もあり、更に時間と人手が費やされる。


「まあ、いちいち戦うよりはよっぽど早いやね」


 事実そうである。

 それもハンニバルが仲間になってくれたおかげだ。


 戦死者は出ないし、連邦領の被害もないし、進軍速度も戦うよりはよっぽど早い。

 遅いというのはあくまで敵のいない場所を進軍するには、というだけ。

 自軍領でもないのにこの速度はもはや規格外と言っていいだろう。


 あまり贅沢言ってはいけないな。


「対策として、先遣隊を派遣し現地の官僚機構が破壊されないよう働きかけを行っております。一部手遅れの都市もありますが、大半は、大丈夫でしょう」

「…被害が最小限になるように、取り計らってくれ」

「承知いたしました」

「ん。頼んだ」


 退出するボードの背中を見送り、盛大にため息をつく。


 早く人間同士の戦いなど終わらせたいのに、なかなかうまくいかないもんだ。



 ---



 開戦当初の予定よりはずっと早く

 ハンニバルが仲間になったときの期待よりは少し遅れて


 俺たちは、ついに連邦首都ラングへ到着した。



「でけえな…」


 初めて見たときは思わず感嘆の声が漏れた。

 それぐらい桁違いにでかい。


 女王が治める城などと聞くと、一般市民な俺は壮麗なイメージを浮かべてしまう。

 だが実態はそんな予想を大きく裏切ってくれた。


 目の前に聳え立つのは戦国時代の覇者が君臨した城

 壮麗とは真逆、実用のみに特化した武骨な外観

 籠城しても百年持ちこたえられると謳われる城塞都市


 守るのはエキドナに心からの忠誠を誓った精兵達


 城を枕に討ち死にすることと覚悟した彼らに、もはや死の恐怖など存在しない

 和平はなく、降伏もなく、全滅するまで終わらない戦いが待っている


 力任せに戦えばこちらも甚大な被害が想定される。


 ”如何にしてこの城を陥とすか”

 それについて、我が軍の知恵者達が会議を開いている。


「定石ですが、緊急脱出路からの侵入は?」

「初代大王がつくるのを許さず、存在しておりません。ラング最後の日が連邦最後の日、というのが大王家の家訓でございます」


「水路等、外部と結ばれる場所は?」

「緊急時には全て遮断されます。水・食料等は全て城内で賄えます。百年の籠城というのは決して誇張でもなんでもございません」


「いっそ力技で攻め入って、落とせますか?」

「無論不可能ではございません。ただその際は、万能の天才とも呼ばれた初代大王ヘラス・ヒュドラの生み出した戦闘防壁の恐ろしさ、我が軍の兵士の命が湯水の如く消費されることで思い知らされるでしょう」


 おそらく世界で最もラングの守備を熟知する男

 ハンニバル


 誰かが案を提示するたび、彼がそれを否定する。

 どんな作戦に対しても何らかの対策が取られているわけだ。

 その周到さに思わず感心する。


「あなたが、攻めたら落とせますか?」

「誰が攻めてこようと耐えられるよう、この数十年心血を注いで参りました。儂が思いつく手は、最初に全て潰してございます」


 いやいや、感心してる場合ではない。

 せっかく追い詰めたのに、最後の最後で勝てませんでは笑い話だ。

 だが力技で攻めて被害を増やすのは笑うこともできない。


 場を重い空気が支配する。

 誰も口を開かず、みんなで考え込んでいる。


 これはいかん。

 こうやって悩みの袋小路にたどり着くとろくなことにならない。

 こういうときこそ、俺が率先して場を和ませねば。


「いっそ、放置してしまうのはどうだろう?」


 そして沸き上がる大爆笑

 場の雰囲気は改善され、再び活発な議論が行われる。

 そして出てくる妙案。

 いやあ良かった良かった


 というのが俺の理想だったのだが


「ラング包囲に必要な戦力は?」

「数万といったところでしょうか。訓練中の兵を動員すれば、訓練と示威活動が同時に可能かと」

「ラングは交通の要衝、兵站は問題ございません」

「敵が攻め出てきた場合は、周辺からすぐ増援も可能でしょう。むしろ飛んで火にいる夏の虫といったところかと」

「万一魔軍との主戦場がこの中央平野になったとしても互いがすりつぶしあってくれるでしょう。一石二鳥ですな」


 むしろラング放置論が真面目に議論され始めてしまった。

 和やかな雰囲気にはなってるが、俺の想定とはだいぶ違う。

 やばい


「や、やはり皆もそう思うか」


 焦りながら口を開く。

 何とか軌道修正しないと。


「だが、人類の統一者として大魔王と相対するには連邦の陥落は必須条件。皆と思いが一つになったのは嬉しいが、この案を採用することはできない」


 もっともらしい理屈を言ってみた。

 どうか皆さん納得してください。


「そして皆の口が再び開いたこともまた嬉しい。引き続き、活発に論議してくれ」


 俺の言葉について思考を巡らせないよう、議論を促す。


 この電撃作戦が功を奏したのか、誰からも問いかけなどなく再び議論が再開された。

 そう、再開されたのだ。

 さっきまで黙りこくっていたのが嘘のように、喧々諤々の議論が始まっている。

 素晴らしい。


 怪我の功名というやつか。

 ちょっと違うな。



 ---



 馬路倉の破壊魔法で都市ごと破壊するか

 夜分に飛行魔法で侵入し、少数精鋭で攻め入るか


 この二つの案を中心に議論が行われている。

 どうかその少数精鋭の中に俺が入りませんようにと思っているとき、会議室に突然の乱入者があった。


 乱入者はトトカ


 反乱軍時代から俺に付き従ってくれ、今は近衛兵の一員としてミサゴの手足となって働いてくれている。

 非常に寡黙で焦る様子などめったに見せない彼女が、こんな闖入してくるとは珍しい。


「いったい何事だ?」


 直属の上司であるミサゴが問いかける。

 寡黙なトトカは口を開くことなく、身振り手振りでそれに何かを答えている。

 ミサゴが何かに驚いているか、周りは誰も理解できていない。

 俺も理解できない。


 だが、俺もトトカとは長い付き合いだ。

 そろそろ理解できた方がいいのではないだろうか。

 何とか読み取りに挑戦してみよう。


 …何かが、来たと言っている?

 …ラングの中から、来た、と言っている


 つまり、連邦軍が攻め入ってきたという報告か!


 興奮する俺の視線に応えるように、ミサゴが大きく頷いた。


「リク。その顔は、トトカの言うことがわかったという顔だな」


 さすがミサゴ

 俺の考えすら読み取ってしまうとは

 しかもそんな具体的に


「皆にも伝えよう。トトカが持ってきた報は、連邦より使者が参ったことである」


 俺の予想とは全然違った

 予想の中身が読み取られなかった恥かくとこだった


「使者の主の名は、ドルバル」


 空気が一気に張り詰めた

 なぜならその名は、現在の連邦の事実上のトップの名


 連邦国民を同士討ちさせ、疲弊させた元凶

 悪魔のごとき男が、使者を出してきた


 内容を聞き漏らさんと全員がミサゴに集中する

 その驚愕の内容を



「連邦は、降伏するという」


 誰もが息をのむ


「大王と、大将軍の首を差し出して」



ヘラス・ヒュドラは本当は娘のラクス視点で1話書こうかと思っておりました。

今となってはお蔵入りですが、個人的に気に入っています。


無事本編更新できました。

連邦との決着までもう少しですので、頑張ってまいります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 あ、ドルバルって奴は売国奴なんだな Σ(´□`;)
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