表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/191

93話 ハンニバル再来

 結局アルカの力の詳細はわからずじまい

 唯一知ってたであろう村長は天国に行ってしまった

 にもかかわらず、魔界の脅威は目前に迫っている


 魔王はまだいい

 馬路倉が一対一で勝てる相手なのだ

 やりようはいくらでもあるだろう


 だが大魔王は違う

 アルカが勝てるかどうかわからないということは

 人類が勝ちえない存在である可能性があるのだ


 勝てないならどうすればいいんだ

 唯々諾々と人類は魔族の奴隷に戻る?

 それを否定して全滅覚悟で戦う?

 他の手段を考える?


 そんなものが簡単に思いついたら苦労はしない

 そもそもそんな全人類の命運がかかったような戦いの指導者が、なぜ俺なんだ

 絶対もっとちゃんとした適任者がいるだろう


 悩みは深い

 まあ、連邦に快勝し続けていることが唯一の救いというところか



 そう、快勝だ。


 連勝に次ぐ連勝

 毎日のように新たな都市が陥落し

 次々と新たな州が併合されていく


 連邦が赤で自軍が青で染められた司令部の地図

 まるでオセロの如くどんどん青へと塗り替わっている


 気づけば連邦の首都がある州までは目と鼻の先。

 このまま一気に攻め入ろう



 と、思っていたのだが



 ---



「ハンニバルが、出現いたしました」


 緊張しつつ深刻な顔で報告してくるパトリ。


 彼女は俺を過大評価しているため、直の報告というものがいまだに慣れないらしい。

 だが今現在ボードやジェンガ達は併合した連邦領土の対応で各地を飛び回っている。

 ここに残っている主要メンバーはミサゴ、パトリ、ズダイスといったところか。


 ハイロもいるが、あいつはミサゴとセットだからな。

 むしろいなかったらおかしいレベル。


 そんなことを考えて話半分だったのだが、さすがに聞き逃せない言葉が耳に入ってくる。


「補給路が幾か所も寸断され、所々で兵站に支障をきたし始めております。ですが、いまだにやつらの足取りがつかめず…」


 まずいじゃん

 腹が減っては戦はできぬですよ

 しかし


「生きていたのか、ハンニバル」

「はい…」


 ダラスの戦いにおける連邦軍の大敗

 あれ以降、ハンニバルの名が表に出てくることはなくなった。


 戦争の趨勢を逆転させるほどの大敗

 その責任をとらされ処刑されたのだろう

 そういった意見が大勢を占め、以後やつのことは我が軍の戦略から除外される。


 当初は警戒する声もあったが、なにせ全く登場しないのだ。

 さすがに憶病がすぎるということで今では誰も声をあげなくなっていた。


 だがついにその懸念が現実のものとなったわけではあるのだが


「なぜ、今なんだ?」


 純粋な疑問。


 ダラスの戦い直後ならば話は違っていた。

 再度決戦を挑まれて勝てるほど、あの頃の我が軍には体力がなかった。

 だからこそエキドナによって掃討戦が阻まれたことが痛かったのである。


 だが、結局決戦はあれ一回きり。

 我が軍はどんどん連邦領を侵食し、連邦軍はどんどん後退している。

 もはやほぼ勝敗は決したと言ってもいいだろう。

 あとは時間の問題だ。


 出てくるには遅すぎるし

 そもそも今さら出てきても意味がない


「その被害で、うちの行軍に影響はありそう?」

「いえ、すでに兵糧を現地調達できておりますので、そこまでではございません」


 だよねえ


 連邦の確固とした官僚制度はうちにもたいへん有用だった。

 そのまま組織を流用できて実に楽だ。

 無理やりさせられた督戦のおかげで一般市民も快く我々を受け入れてくれる。

 民の支持があり統治機構はしっかりしておりと、占領政策は実にうまくいっている。


 さっきはまずいと思ってしまったが、実はさほどまずくはなかった。

 ただ、問題はある。


「兵士たちへの影響が、大きいってことかな?」

「陛下のご懸念通りにございます」


 それなら納得だ。


 連邦軍の大黒柱、ハンニバル

 その名を聞けば連邦軍兵士は奮い立ち、敵兵は震えあがるとまで言われた男

 いまだにその影響力は健在ということか。


「あとは、西方と南方の国境に張り付いてるやつらが気になるな」


 連邦軍、西方方面軍と南方方面軍

 やつらが健在である限り油断はできない

 もはや負けることはないにせよ、連邦を延命させるには十分すぎるほどの戦力だ。


 ハンニバルがこの両軍を率いてたら怖いのだが…


「その両軍ですが、動きは見られないとのことです。ハンニバルはどうやらダラスの戦いの敗残兵達をまとめあげ、率いているようです」


 敗残兵の集合体か

 意味がわからない


 軍を温存したまま国が滅んだら意味がないだろうに

 いったいぜんたい何が起きているのやら


 まあ、正直意味は理解する必要はない

 意味がわからなくてもハンニバルを倒せればそれでいいのだ。


「ハンニバルの居場所は、わからないんだっけ?」

「はい。鋭意捜索中なのですが、神出鬼没で足取りが全くつかめておりません」

「出現場所はまちまち?」

「はい。つい先日はこの城の近郊に出没したほどです」


 ほほう


「そこでは捜索はまだやってるのかな?」

「はい。直近がその場所ですので」


 つまりそこも我が軍にとっては最前線と

 それならば


「じゃ、行こうか!」

「へ?」



 ---



「そなたはいつも突然だな」


 あきれたような感心したような

 腕を組んで胸を強調しつつ頷いてるのでやはり褒めてくれているのだろうか

 俺よりよっぽど王様らしい威風堂々とした姿

 そんなミサゴと同じ馬車に乗って現地へ向かう。


「王様だからって後ろに引っ込んでばかりじゃいかんでしょ」


 少なくとも俺はそんな王様を尊敬できない


「うむ!そこがそなたの良いところである!」


 輝くような笑顔

 気恥ずかしくて思わず目をそらしてしまう


「そ、そういえば今回は警備が厳重だな」


 そして話もそらす


「魔王が出現した直後ですからね。不測の事態に備えてリク殿の周囲は厳重に固めてありますよ」


 そう答えたのはハイロ。

 俺の隣で小窓から周囲に気を配っている。


「魔王にも勝てそうな布陣ってこと?」

「それができれば苦労はしませんよ」


 そんなジト目で見ないでくれ


「我らが誇る人類最強の面々は不在なので、現有戦力で最善といったところですね」


 馬路倉と、一応ジェンガのことか

 あの二人がいてくれれば安心だが、いないものは仕方ない


「東西南の最精鋭で再結成された近衛に加え、東方で三番目の強者がいるのだ。妾達とて努力しておるのだぞ?」

「三番目?」


 ジェンガとボードの次に強いってことかな?


「うむ。そなたとジェンガの次に続く男だ」


 一番は俺かよ!


「剣の使い手としてはボードに劣るが、戦えば負けることはない。のう?ハイロ」

「姉上にそのように認めていただけるとは…。今までの鍛錬、全てが報われた思いです」


 しかもハイロかよ!

 こいつイケメンで王族で強いって、凄すぎだろ!


 まあ、別にいいけどさあ



 再び馬車が静かになる。


 そういえばせっかくの機会だ。

 疑問に思ってたことを聞いてみよう。


「そういや、”人類最強”っていったい何なの?」


 よく聞く言葉だが、いまいちよくわからない


「何なのも何も、その言葉の通りだ。その時代時代に出現する、人でありながら人を超えた力を持つ者達のことよ」

「…意味がわからん」

「リク殿にも理解できるよう簡単に言いますと、聖王と魔法王、そして彼女たちに匹敵する力を持つ者のことを指すのです。聖王と魔法王は誰もが知る人類最強の存在。そんな彼女たちと同等の存在達のことを”人類最強”と呼称してるわけですね」


 ちょっと気になる言い方だが、ハイロのおかげで何となくわかった。

 聖王と魔法王は人の歴史において常に最強の存在である。

 魔法王は本人が不老不死で、聖王は代々力と武具を受け継いで最強であり続けている。

 時代によって彼女たちに匹敵する存在が現れた場合、二人に加えて”人類最強”と呼ばれてるわけか。


「当代はジェンガ元帥と連邦代将軍エキドナを合わせた四人が”人類最強”ですね」

「うむ。この二人が世に出る前は三人だったと聞くな」


 そんなやつがいたのか。

 対魔王のために勧誘したい。


「と、もう到着か」


 その言葉と同時に、馬車が止まる。

 もう少し話が聞きたかったのだが、残念だ。



 ---



 ハンニバルの襲撃現場

 いまだ焼け焦げた匂いが残っている。


 俺にできることは特にないが、調査してる面々を激励し一人ひとりに声をかけてまわった。

 みんな感激して奮い立ってくれて何よりだ。

 きっと調査も捗ってくれることだろう。


 長居するのも野暮というもの

 さっさと帰ろうか


 と思ったそのときだった



 焼け落ちた倉庫の瓦礫の中から、白い何かが飛び出した。


 次の瞬間、周囲が真っ赤に染まっていく。


 白いのに切られ、人がバタバタと倒れ始めた。


 東西南の精鋭と呼ばれた兵士たちが紙人形の如く切り捨てられる。


 俺を守ろうと人がどんどん集まってくる


 だが、その肉の壁は容易く切り裂かれ


 真っ赤に染まった白い男が突っ込んでくる。


 近くに来て、白いのは髪と髭だと気づいた。


 ああ、この男には見覚えがある。


 この老人を見たことがある。



 ()()()()()



「かつて人類最強と呼ばれた我が剣、昔取った杵柄とはいえ斬れぬものなし」


 研ぎ澄まされた切っ先が首へと迫る。


「英雄王、お命頂戴」

久々に連邦との戦いに戻ってまいりました。

そろそろ連邦編もクライマックスでしょうか。

なかなか進まず申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ