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92話 村長と、アルカとカルサ

 アルカの力は村長からもらったものだった!


 衝撃の事実に言葉も出ない。


 力をもらうってどういうこと?

 遺伝とかではない?

 カルサは関係ないの?

 いったいぜんたい、過去に何があったの?


 頭に疑問が浮かんでは消えていく。

 疑問が多すぎて何から聞けばいいかもわからない。


「な、何があったの?」


 だから口から出たのは一番単純な質問。

 だがさすがに単純すぎたようだ。

 どう答えればいいかとアルカも困っている。


「何があったかというと、どこからどこまで話せばいいのやら…」


 いろいろと込み合った事情がありそうだ。

 長い話になるかもしれないが、それはしょうがない。


 むしろ全部聞かせてほしい。


「最初から話し始めて、終わったらやめればいいんだよ。知ってる限りでいいから、お願いアルカ」

「わかりました。では、私が知ってる限りで最初から最後まで、お伝えしますね」


 そうして、アルカの語りが始まった。



 ---



 子供のころのおばあちゃん、それはもうすごかったらしいです。

 一族始まって以来の神童だって。


 元々うちの家系、治癒魔法使いがよく生まれるんですね。

 でもおばあちゃんは別格だったらしいです。

 言葉を話すころにはすでに治癒魔法が使えて、しかも死の淵にいる怪我人すら全快させてたとか。


 え?それくらい私もできるって?

 それは確かにできますよ。

 でもそれは私が何年も鍛錬を重ねた結果であって、子供の時は全然でした。

 おばあちゃんの才能は、本当の本当にすごかったんです。



 あ、ちなみにこの話、全部おばあちゃんの幼馴染さんから聞いたものなんです。

 リクさんも知ってますよね。

 おばあちゃんって自分のことをほとんど話してくれなかったんですよ。


 でもやっぱり気になるじゃないですか?

 だから私、よく聞きに言ってたんです。

「しょうがないねえ」っていつもこっそり話してくれたんです。

 リクさんが村に来た頃にはもう亡くなってましたけど、存命の間はほぼ毎日でしたね。


 もちろんおばあちゃんにはないしょですよ?



 話を戻しますね。

 そんなおばあちゃんにとってあの村は小さすぎたんでしょうね。

 「旅に出る」って書置きを残してある日突然いなくなっちゃったそうです。

 直後に大魔王が出現したこともありみんなすごい心配したそうですが、探しに行くこともできず途方にくれてたみたいです。


 でもしばらくして大魔王が勇者様に倒されました。

 さらにもう少しするとおばあちゃんが村に帰ってきたんです。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()



 ええそうです。私と同じ金髪です。

 でもおばあちゃん、元々はカルサと同じで銀髪だったんですよ。

 瞳の色もです。

 帰ってきたら金色に変わってたそうです。

 ちなみに私も、昔は銀髪銀目だったんですよ。


 え?え?

 リクさん、大丈夫ですか?

 混乱させてすいません。

 話の順番が前後しちゃったからですね。

 ちゃんと話が進めばわかるから大丈夫ですよ。



 おおらかな村ですからね。

 疑問は色々あったようですが、帰ってきた村長一族の跡取り娘を大歓迎したようです。

 実はちょうど先代の村長、おばあちゃんのお母さんが亡くなる直前でした。

 不幸中の幸いですね。


 ひいおばあちゃん、最期に会えて良かったって笑って逝けたらしいです。

 本当に、よかった…。


 その後おばあちゃんは村長を継ぎ、そしてすぐに出産しました。

 絵にかいたような安産で、そこで生まれたのは私とカルサのお母さんですね。

 健康にすくすく成長したらしいですよ。

 ちなみにお父さんはわかりません。

 おばあちゃんだけの秘密なんでしょうね。



 村長として村を引っ張る役目になったおばあちゃん

 ここでようやくリクさんのお目当て、”力”が登場します。


 村を出るまで、治癒魔法の天才でおませさんな以外は普通だったおばあちゃん。

 でも帰村後は、大岩を軽々と担ぎ上げるようなとんでもない力を手にしていたそうです。


 お気づきですよね?

 私と、同じ力です。


 全てにおいて頼りになるおばあちゃんという存在をがいる村はおおいに発展、ということもなく、平和でちょっぴり豊かに成長しました。

 おばあちゃんはあまり急激な発展を好まなかったらしいです。

 でも冬で飢える村人はいなくなりました。

 貧しさで子供を売る家族はいなくなりました。

 周囲の村々が困ったとき、助けの手を差し出せる。

 そんな素敵な村になったんです。


 そうやって月日は経ち、お母さんが結婚しました。

 近所に住む幼馴染の男の子だったらしいですよ。

 おばあちゃんを除けば村一番の力持ちで、とっても頼りがいのある男の人だったらしいです。


 二人はみんなから祝福され、すぐに一人目の娘が生まれました。

 何を隠そう私です。


 生まれた時の私は今と違って銀髪銀目でした。

 はいはい、そう焦らないで。

 もう少し待っててくださいね。


 そして数年後、今度は二人目の娘が生まれました。

 もちろんカルサのことです。


 もちろん銀髪銀目。

 カルサは今と一緒ですね。

 私が赤ちゃんに戻った!?って思われるぐらい瓜二つの姉妹だったらしいですよ。


 とっても可愛い姉妹だって騒がれました。

 うっすらとしか記憶がありませんが、とても幸せでした。


 …そんな幸せの終わりが、この長いお話の本題です。



 カルサを生んだお母さんはなかなか体調が戻らず、寝込みがちになりました。

 心配で付きっきりになったおばあちゃん。

 でもお母さんがそんな心配しないでと送り出し、段々と日常が戻ってきました。


 ある日、周囲の村ではやり病が出始めたという話が舞い込んできました。

 それでこれ以上広まる前にとおばあちゃんが治療をしに行くことになったんです。

 お父さんとお母さんとカルサの四人で見送ったこと、今でも覚えてます。


 見送り後、お父さん以外の三人は家に帰りました。

 お父さんは畑に行ったんですが、昼には戻ってくるはずでした。

 でも昼が過ぎても戻ってこず、どうしたのかと近所の人が見に行きました。


 そして、畑で倒れているお父さんが発見されたんです。


 お父さんは、すでに息をしていませんでした。

 朝まで元気だったのにと思いましたが、よく考えると違うんですよね。

 寝込むお母さんのため、村長であるおばあちゃんのためと気を張り続け、体調が悪くても誰にも伝えずどんどん重症化し、そのまま逝ってしまったんです。


 それにいち早く気づいたお母さんは、今度こそ完全に寝込んでしまいました。

 おばあちゃんが帰るまではと私が看病をしましたが、しょせんは子供の手です。

 何もできません。

 むしろ今度は私も寝込んでしまいました。


 小さかった私の病状はどんどん悪くなり、発症から半日程度で指一本動かせなくなりました。

 走馬灯のように今までのことがよみがえり

 まだ赤ちゃんのカルサはどうしよう

 お母さんが私の事心配するかな

 お母さんは大丈夫かな

 でも死んだらお父さんに会えるかな

 そんなことを考えていました。


 そんなときです。

 おばあちゃんが帰ってきたのは。



 おそらく村の誰かが知らせに行ってくれたんでしょうね。

 おばあちゃんは飛んで帰ってきて、私とお母さんの状況に愕然としたようです。

 娘婿だけでなく最愛の娘、そして孫の命まで失おうというおばあちゃんは狼狽しきっていたようですよ。

 そんなおばあちゃんを見たのは、後にも先にもあのときだけだったそうです。


 おばあちゃんが帰ってきたのを見たお母さん

 先ほどまでの苦しんだ顔が嘘のように安らかな顔になり

「お母さん、アルカを助けてあげて。カルサのことも、お願いね」

 と言って、そのまま息を引き取ったそうです。


 そしておばあちゃんは寝込む私の顔を覗き込んでいました。

 苦渋に満ちた顔で独り言を呟きながら


「アルカ、今からあんたにあたしの力をあげるよ」

「これであんたの命は助かるさ」

「だけど、あんたが手に入れる力はとんでもないものだ」

「あたしが背負った業そのもの」

「だが、そうしないとあんたは助からない」

「あの子と一緒に、あんたまで死んじまう」

「あんたまで失うなんてあたしには耐えられない」

「これからやることはあたしの身勝手だ」

「一生恨んでくれてもかまわない」

「それでも、あたしはあんたを助ける」


 当時、意味はわかりませんでした。

 今でもわからないんですけどね。


 ただ事実として、この直後に温かいもので体が満たされていくのを感じました。

 そのまま意識は蕩けていき、次目覚めたのはあの世ではなく清々しい朝です。


 体はすっかり良くなっていました。

 ただ髪の毛が金色になっていたのに驚きました。

 周りから瞳も金色になっていると聞いたときはもっと驚きました。


 それに対しておばあちゃんは髪が真っ白で、目が銀色になっていました。

 それまではおばあちゃんは白髪はありましたけど金髪でした。

 そして瞳はもちろん金色。

 記憶にあるおばあちゃんにそっくりなのに色だけが違ってずいぶん驚いたものです。


 まあ、その後はお気づきの通りもっと驚く羽目になります。


 丸太の束を片手で担ぎ上げ

 鉄の塊を握りつぶし

 邪魔な大岩を拳一つで粉砕

 村を襲う野獣や魔物を一人で殲滅する


 そんな力を手にしていたのです。


 最初のころには日常生活をおくるのも困難でした。

 でもおばあちゃんが一生懸命手伝ってくれたおかげで何とかなりました。

 ときにはおばあちゃんを傷つけてしまうこともあったのに、根気強く親身に教えてくれたんです。


 そして私はこれが自分の力だと受け入れました。


 おばあちゃんがくれた大事な力。

 私の命を救ってくれた力。

 ちょっとだけ人より強い、不思議な力。


 それがちょっとだけでないことに気づいたのはずいぶん先になりましたけど…。



 ---



「これが、私の力についての全てです」


 ふう、とアルカが一息つく。

 力の話が両親の死の話に結びつくことまでは想像していなかった。

 つらい記憶を思い出させてしまったようで、申し訳ない。


「…ありがとう、アルカ。そしてごめん。不躾な質問だったね」


 でも、アルカはいつものように笑ってくれる。


「お母さんとお父さんのことですよね?大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございます。それに両親に会えないって話でしたら、リクさんも一緒じゃないですか」

「いや、俺は…」


 俺は両親に、家族に、そんな思い入れなどなかった。

 そんな俺とアルカをとても同列にはできない。


 でも、これ以上言ったら逆に困らせてしまうだろう。

 表情筋をフル活動させ、なんとか笑顔をつくりあげる。


「ありがとう」

「リクさんも、心配してくださってありがとうございます」


 なんとか成功したようだ。


 一息つこうと、自分でお茶を淹れてみる。

 アルカやカルサのようにうまくはないが、まずくもないだろう。

 何しろ葉っぱがいいからまずくなりようがない。


「リク王陛下直々のお茶なんて、光栄ですね」


 そんな風に笑いながら茶化されてしまった。

 二人で飲んでみるが、うん、悪くない。


「しかしあれだな」

「?」

「結局、アルカの力の由来とかは不明のままなんだな」

「おばあちゃんの力ですからね。たぶんおばあちゃんが生きてても教えてくれませんよ?」

「それを言われると…」


 八方塞がりではないか。

 とりあえずわからないということがわかっただけでも儲けものか。


 下手に期待して、ここぞというときに裏切られるより百万倍いい。


「まあ、何はともあれ今後ともよろしく」


 そういって乾杯のようにカップを掲げる

 アルカは一瞬キョトンとするがすぐに意図に気づき、同じようにカップを掲げてくれた。


「よろしくお願いしますね、リクさん」


 カチンと子気味良い音がする。


 そのアルカの笑顔は、やはり女神のように美しかった。



 ---



「ずいぶんと、お熱いことで」

「ひえっ!?」


 突然カルサが現れた。

 驚きすぎて変な声が出る。


「カルサ、いつからいたの!?」


 アルカも驚いたようだ。

 驚いている顔も可愛いね。


「べつにー。あたしが兄様の部屋にいつからいて、お姉ちゃんに何か問題あるの?」

「勝手に人の部屋に入ったらダメでしょ!?」

「今までそんなこと言われたことなかったのになー」

「いいから!」

「…兄様がお姉ちゃんのためにお茶を淹れ始めてるころから」


 しぶしぶ答えるカルサ。

 なるほど、肝心なところは聞かれてなかったか。

 アルカは乗り越えられててもカルサがどうかはわからない。

 少しだけ安心する。


 ただそれにしてはずいぶんと視線が痛い。


「…あたし、兄様には何百回、下手すると何千回もお茶淹れてるよね?」

「へ?う、うん」


 口をとがらせている。

 もしかして、拗ねてる?


「あたし、一度も兄様の淹れたお茶飲んだことないのになー」


 そこか!

 そこがポイントか!


「か、カルサも飲むか?ってかもう冷めてるよな。新しいの淹れなおすからちょっと待っててくれ!」


 カルサの椅子を準備する。

 そして一転して機嫌のよくなったカルサが飛び乗るようにそこへ座る。


 若干手元が狂いながらも、新しいお茶を三カップ準備した。

 これも、決してアルカやカルサのお茶ほどは美味しくはない。

 それでも


「ありがとう、兄様!」

「ありがとうございます、リクさん」


 こんなお茶でも、喜んでくれる


「とっても美味しいよ!」

「すごく美味しいですよ」


 最高の笑顔で


 村長が守った笑顔で

ほぼアルカの語りの話でした。

リクが合いの手を入れてますが、そこは省略で。めちゃくちゃ驚いています。


次回はまた連邦との戦いに戻ります。

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