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91話 アルカの力

「わざわざ来てくれてありがとう」

「とんでもない。今のリクさんは王様なんですから、呼ばれたら飛んできますよ?」

「やめてくれよ。命の恩人にそんなこと言われたらたまんない」


 それに


「王様になっても俺は俺だよ。王様なんだから、なんて言わないでくれ アルカ」

「はい。わかりました」


 そうやって笑う姿はいつも通り。

 金髪金目の文字通り輝くような美女。

 女神というのはこういう外見だろうかと思ってしまうほどの美しさ。


 だが、その神髄は戦闘力にこそある。

 素手で鋼を捻じ曲げ

 巨大な化け物を一撃で屠る

 この地上に並ぶものなき強者

 彼女より強いやつなど存在しない、そう信じていた。


 トルストイの言葉を聞くまでは。



「魔王ではあなたには勝てません。だが、大魔王様は違います」


 アルカの魔力が込められた魔法の首飾り

 これを身に着けた俺は、アルカ同等の魔力を持っている。

 その俺に勝てる可能性があるということは、すなわちアルカに勝てる可能性があるということ。


 …認めたくない。

 だが、無視することもできない。

 だから、確かめなければならない。


「アルカ、単刀直入に聞く」

「はい」


 アルカの表情が少し引き締まる。

 この顔も、文句なく美人だ。


「この世界に、君より強い存在はいるのかい?」



 ---



「さあ…?」


 思わず椅子から滑り落ちる。


「だ、大丈夫ですか!?」


 アルカが慌てて駆け寄ってきてくれた。


「お、俺がどれだけ意を決して聞いたかと…」


 抱き起こしてくれた。

 いい匂いがするな。


「いや、でも、リクさんだって、自分がこの世界でどれくらいの強さかなんか知らなくないですか?」


 不服そうな顔をしている。

 そしてその意見には一理ある。

 でもそれは


「そんなの、俺なんて一般人だもん。どれくらい強いかなんてわかりようがないし、わかる必要もない」

「私だって、一緒です。私だって、一般人です…」

「えー、アルカがぁ?」


 アルカが俺と同じ?

 アルカが一般人?

 そんなことあるわけがない。

 生物としての格が違う。


 だが、そんな俺の意見は


「私、ただの村娘だったんですよ!?」


 アルカの大声にかき消される。



「私、自分は村で一番強いぐらいにしか思ってなかったんです。おばあちゃんの付き添いで遠出したときも護衛みたいなことやってましたけど、村で一番だからだと思ってました。魔物だろうが夜盗だろうが簡単に撃退できてましたけど、それは運良く弱い相手にしか遭遇してないからだって思ってました」


 いつもいつも笑顔だったアルカ

 どんなにつらいときも笑いながら俺たちを支えてくれた


「もちろん今ではわかってますよ?私の強さが異常だって」


 でも今はその顔に今までにない感情を宿している

 それは、悲しみ


「私、ジェンガとの一騎打ちで勝ちました。あのときは知りませんでしたけど、今では知ってます。ジェンガは人類でも指折りの強者だって。そんな人を、いとも容易くねじ伏せた自分はいったい何者なんだろうって、すごく悩みました。自分の力がいったいなんなんだろうって、すごくすごく悩んだんです。化け物なんじゃないかって、そんなことすら思いました」


 不安だったのだろう。

 目に涙を浮かべながら、溜まっていた想いをあふれ出してくる。


「リクさんの魔法国での活躍、聞きました。私の魔力で、大陸をも寸断したって。私、攻撃魔法って使ったことありません。でも、別に使えないってわけじゃない。もしも自分が攻撃魔法を使ったら、同じように大陸を割っちゃうようなことが起きるんじゃないかって、みんなの住む場所を壊してしまうんじゃないかって、すごくすごく不安になりました。世界最強の魔法使いである魔法王陛下。あんな伝説の存在すら畏敬する魔力って、いったい、いったい、なんなんですか…?」


 最後は言葉になっていなかった。

 そしてとめどなく流れ出る涙。


 慰めないと

 でもいったいどうやって?

 そんなこと、したことない


 だが、そんな心配は杞憂で終わる


「そもそも、全部リクさんのせいなんですからね!?」

「お、俺?」


 涙を流しながら怒りだしたのだ。


「そうですよ!リクさんを助けてから、全部変わっちゃったんです!」


 思い当たりは…ありすぎる。


「王族の方々が同居人になって、リクさんは反乱軍の総帥になって、おばあちゃんが死んじゃって…」


 村長

 アルカとカルサのかけがえのない祖母

 彼女が逝った瞬間を思い出し、言葉に詰まる


「あのとき私は憎しみに取りつかれそうになりましたが、おばあちゃんが止めてくれました。それから起きた偽王との戦い、本当なら私が活躍できる場面はいくらでもあったと思います。でも、リクさんは私の力を使わなかった」

「アルカはたくさんみんなを助けてくれたじゃないか」


 アルカの治癒魔法で命拾いした人間は数えきれないだろう。

 だからこそ彼女は皆から心から慕われている。


「違いますよ」


 お、


「でも、今の言葉がリクさんの本心ですよね。ありがとうございます」


 ようやく笑ってくれた


「本心も何も、事実じゃないか」

「ええ、事実ですよね。私を治癒にだけ専念させて、()()()()()()()()()()()()()()。私が戦えばもっと簡単に反乱は終わったはずなのに。ギーマン砦も都も、力づくで陥とすこともできたのに。でも、リクさんはそれをしませんでした」

「…いや、別にアルカの力を借りなくても大丈夫だったしね」

「あんなにいつも、不安そうだったのに?」


 図星である。

 趨勢が決まるまでは不安で不安で仕方なかった。

 結果的にあっさりこちら側が優勢になったが、あいまいな状況が続いていたらあっという間に胃に穴が開いていただろう。


「それでも、リクさんは私を戦闘には参加させませんでした。そしてそれは、今起きている連邦との戦いも同様です」


 再びアルカに抱きしめられた。

 頭がとろけそうな匂いがする。


「リクさんは王様になっても、何も変わりませんでした。私だけにじゃなく、みんなに対して。いつでもみんなのために、人々のために、身を粉にして頑張ってくださってる。本当に、本当に、お疲れ様です。そして、ありがとうございます」


 女神のような美女に優しく抱きしめられ

 天上の心地がする香りが鼻腔をくすぐる


 そんな夢心地を破ったのは、その美女本人だった。


「で、何の話でしたっけ…?」



 ---



「つまり、リクさんは大魔王が私よりも強いかもしれないって不安だったんですね」


 ふむふむと頷く姿がかわいらしい。


「それって、そもそもリクさんは私が大魔王よりも強いって思ってたってことですよね?」

「まあ、うん…」


 俺にとっては自明の理

 だがアルカ的にはかなり心外だったらしい。

 一転してむすっとした顔になる。

 そんな顔もかわいらしい。


「言いたいことはたくさんありますけど、今はいいです。そしてどっちが強いかなんて私は知りませんし、自分の方が大魔王よりも強いなんて想像したくもないです」


 強大な大魔王をねじ伏せるアルカ

 実に絵になると思うのだが…


「…変なこと、考えてます?」

「と、とんでもない!」


 全力で否定する。

 笑顔が超怖い。


 しかしそうなると


「アルカの強さの理由って、謎なんだね」


 本人が知らない以上、誰も知らないんだろう。

 てっきり深い事情があると思っていたのだが、わからないとは残念だ。


 アルカこそ真の大魔王じゃないかと思ってたことすらあるというのに

 それはさすがにあれだが、大魔王は倒してくれると信じてた


 アルカの力の源泉は謎

 アルカが大魔王よりも強いかも謎

 つまり魔界との決戦は勝てるかどうか全くの未知数


 正直アルカがいてくれれば余裕だと思ってた

 それが根底からひっくり返されたとなると、正直言って痛い

 痛すぎる


 悩みぬく俺を心配して、アルカがいろいろ言ってくれる。

 悩みすぎてあまり耳に入ってこないのだが


「おばあちゃんが生きてれば、わかったかもしれないんですけどね」


 今のは聞き捨てならない


「村長は、知ってったって、こと?」

「え?はい、もちろん」


 そして続く衝撃の一言


「そもそもおばあちゃんからもらった力ですし」


 む、村長ああああああ!!!??

いつも笑顔のアルカですが、本人はけっこう無理していました。

次回に続きます。

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