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88話 予期せぬ来訪者・前

 アルカとカルサに姉妹説教をされつつ、怪我は完治した。

 意外と重症で、あと少しで大事な神経が傷ついてたとのこと。

 本当に、あんな無茶はするもんじゃないな…。



 俺の怪我には関係なく連邦攻めは順調だ。

 新しい州も陥落間近。

 それに伴い本拠地としている城を変更することにした。


 別に今の城でも支障はないのだが、やはり少しでも前線に近くにいたい。

 俺は戦えない分、兵士のみんなの近くに寄り添いたい。

 そうすればきっと士気も上がるのではなかろうか。


 そんな俺の提案は快諾され、移動が始まった。

 まあ、快諾どころか必要以上に絶賛されてしまったのだが。



 そして段々と連邦の事情もわかってきた。

 ボードがちゃんと調べてきてくれたのだ。


 曰く、「連邦中央の政治バランスが崩壊している」とのこと。


 前大王の時代、ヒュドラ連邦の体制は盤石だった。

 絶対君主たる大王の元、大王が官僚と連邦軍のバランスをとりながら政治の舵取りが行われていた。

 お互いがときに牽制し、ときに協力し、連邦は人間界最大の国家へと上り詰めていったのだ。


 だが、現大王の治世でそのバランスは崩壊する。

 大王の寵愛を一身に受けたエキドナ・カーンにより、前大王時代に力を持っていた官僚たちは失脚、良くても地方へと追放されてしまった。

 その結果、お飾りとなった大王を掲げ軍が全てを決裁する体制が出来上がった。

 事実上の軍事独裁政権だ。


 だがダラスの戦いの大敗によって、軍の権威は失墜する。

 かつて官僚達がされたように、軍の中心人物達はことごとく断罪されてしまった。

 寵臣であるエキドナ・カーンは敗戦の直接的な原因ではないため地位を保っているが、発言力は失われてしまった。


 現在、大王の周りから軍はほぼ一掃された。

 周囲を固めるのはかつて失脚し追放された大物官僚たち。

 軍への復讐と権力の確保に血道を上げる彼らは、戦争以上に内紛に力を注いでいる。



 ---



「で、カルタゴ州での成功例をひたすら踏襲してるってことね」

「はい。ハンニバルが西部、南部の両方面軍を統合して迎撃してきたら厄介なことになっていたでしょうが、やつは消息不明です。処刑はされていないようですが、将軍職を含む全ての地位を剥奪されたというところまでは情報が得られました」


 移動の馬車の中で報告を聞いている。

 今回も立派な馬車で、俺とカルサ、ボード、馬路倉、ウェルキンと5人も乗ってるのに広々としている。

 素晴らしいね。


「西部方面軍は我々西方諸国が、南部方面軍は南方の戦士団が釘付けにしてますからね。心配ありませんよ。ね、ウェルキン?」

「如何にも。英雄王陛下のため、人類統一の聖戦のためと、戦士一同奮い立っております」


 ウェルキンと馬路倉が並んで座ってるが、大きさが倍ぐらい違うな。

 過去の遺恨は水に流し、仲良く話してくれてて俺は嬉しいよ。


「”罠を恐れるな。食い破ってでも勝利を掴み取れ”。英雄王陛下の至言、恐れ入ります。その場にいなかったことが、悔やんでなりません…!」

「全くですね。お館様のお言葉通り、こちらの快進撃は連邦の罠どころか自壊によるものでした。あそこで恐れて手を緩めていたら敵に体制を整える時間を与えるだけでしたよ。己の臆病さに、恥じ入るばかりです」


 俺の言葉が少しずつ変わってきているような…。

 それに何の根拠もなく適当に大丈夫と言っただけなんです。

 そんな褒めないでください。


「いや、みんなの慎重さこそ、とっても大事だと思うよ?突っ込んでばかりだといつか痛い目見るしね?」


 などとフォローを入れるが、「お館様…」とか「英雄王陛下…!」とか変に感動された。

 本音なんですよ!?


 カルサもフォローしてくれと横目で合図するが、馬路倉と魔法談義に花を咲かせている。

 こちらなんて見もしない。

 楽しそうでお兄ちゃんは嬉しいよ…。



 ---



 突然けたたましい馬の鳴き声が辺りに響いた。


「な、なんだ!?」


 馬車が大きく揺れて傾く。

 ウェルキンが動いたのはそれと同時だった。


「ご無礼!」


 全員を両手で抱えあげ、ドアを蹴破り外に飛び出す。

 着地とほぼ同時に、馬車は横転した。


 あのまま乗っていたら重なり合って怪我をしていたかもしれない。

 アルカは治癒のために前線にいってるから、また治すのに時間が必要だ。


 いや、そんなことより

 いったい何が起きたのか?


 気づけば、馬車を見つめているのは俺だけだった。

 みんな、逆方向を見つめている。


 全員が、それぞれの武器を構えながら


 ボードが剣を抜いた姿を見るのは、偽王との直接対決以来だろうか

 ウェルキンはあの鉄をも砕く拳を、血が出るほど握りしめている

 馬路倉が掲げるのは魔法王の杖

 魔軍をも薙ぎ払うその力を、今にも解き放とうと構えている


 彼らの視線の先にいるのは、二つの影

 一人の男と一匹の獣


 馬路倉の口から漏れ出す、彼らの名


 ”魔人貴人”トルストイ

 ”狂魔獣”アズラット


 それは”名有り”と呼ばれる存在


「お初にお目にかかります、リク・ルゥルゥ陛下」


 慇懃に挨拶するその姿は、まさに貴公子

 だが、やつこそ正真正銘の魔王


 一人で一国を滅ぼすと言われる存在が、今目の前に

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


正月早々続きものになってしまってすみません。

年末から体調崩しており、全部完成してからだともっと時間がかかりそうだったのでここで切らせていただきました。


年明けからブクマや評価がいただけており、喜んでおります。

今年も皆さんが楽しんで評価していただきたくなるような話を書いていければと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかここで魔王が出てくるとは、 この先がどのようになるのか、楽しみです。 [一言] あけましておめでとうございます。 新年早々作者のお話が読めてうれしいです。 やはり、前大王は優秀でし…
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