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幕間 大将軍視点

 大将軍に就任した私は様々なことを行った


 軍の権力掌握

 姫様の支持基盤確立

 敵対勢力の撃滅および牽制

 大陸中央に残る残存国家の併呑


 これらは当然として、一番最初に行ったこと

 それは、復讐だ。



「へへ、へへへへへ…。今をときめく新大将軍様が、いったいぜんたいどうしてこのような汚らしいところに…」


 卑屈そうに笑う男の言葉とは裏腹に、そこは贅を尽くしたか場所だった。

 きらびやかな調度品に様々な芸術作品。

 訪れた人間に見せつけるかのように飾られている。


「その花瓶は東方産か?」

「さすが大将軍様!ご慧眼でいらっしゃる!それはイヅルから取り寄せたものでして…」


 イヅル

 世界最古にして大陸中の王族の祖たる国家

 この戦乱の時代にあっても彼らを中心とした大陸東方は被害が小さく、芸術や文化の命脈が残っていた。


 ゆえに東方産といえばそれだけで第一級品の芸術となる。

 しかもそれが持ち運びに難のある陶器類となれば、その貴重性は言うまでもない。


 そのような品を手にできる自分のすごさ

 自分ならば必ず大将軍たる私の力となることができる

 男は期待に満ちた眼差しでこちらを見つめながら、そんなことを語っている。


「私の持つツテは東方だけではございません。大陸中にございます。私ならば、必ずや大将軍様のお力になれること、請け合いでございます!」


 だが



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「お前は、今まで手にした奴隷のことを覚えているか?」

「へ?」


 突然の質問にポカンとしている。


「今まで捕まえたり売り払ったりしてきた奴隷たちのことを覚えているか、と聞いている」


 男の顔が再び媚を売る下卑たものとなった。


「つ、捕まえるなんて…。奴隷狩りはご禁制でございます。とんでもございませんとも。それより大将軍様、この部屋の中で何かお気に召したものはございませんか?どうぞお手に取り、お持ち帰りくださいませ!」


 自分たちの奴隷狩りを取締りに来たと思ったらしい。

 隠そうともせず賄賂を贈ろうとしてきている。


 笑わせてくれる。


「お前は、お前の奴隷が、自分を許してくれるなどと思っていたのか?」


 男の顔面を蹴り飛ばす。

 本気を出しては首ごともげるため、殺さぬよう丁重に。


 それでも効果は十分だった。

 男の叫び声が耳に心地良い。


「すでにお前と連なる者たちは全て捕らえている。すぐに会えるよ」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ、、、ひ、ひえ…」

「そして安心しろ。断頭台に送ることなど決してしない」


 そう、決して


「貴様らに、死など生ぬるい」


 そんな安寧、決して与えない


「この世には死よりもつらいことがあると、その身に刻み込んでやろう」


 これは、貴様が私に教えてくれたことだ


「ああ、あ、あああああああああああ!!」



 ---



「復讐は、甘美だった?」


 女王の顔は、まるで恋バナを聞く少女のように期待に満ちていた。


 ここは女王の寝室。

 彼女はすでにベッドから立ち上がることもできなくなっていた。

 だがいまだその威光は衰えることなく、ベッドの上から連邦全体を支配している。


 そして、私の前ではずいぶんと違う表情を見せるようになった。

 弱さを見せたのはあの一度きりだったが、そもそも感情を表に出すことがなかったお方だ。

 今のように興味津々ということ自体が、本来珍しい。


「ずいぶんと、楽しそうですね?」

「それはそうでしょう。私があげた情報をあなたがどうしたのか、どう感じたのか。それを聞くのを楽しみにここ数日過ごしていたのだもの」


 愛する娘が拾った女の素性を探るためだったのだろう。

 彼女は私の過去について調べ尽くしていた。

 そこには当然あの奴隷商たちの情報が含まれており、大将軍への就任と同時にそれは私に授けられた。

「好きにするといいのよ?」という彼女の笑顔に導かれるまま、思う存分大将軍という権力を振りかざし、復讐を実現したのだ。


「で、どうだったの?私にはそれを聞く権利があると思うのだけど」

「そうですね…」


 そもそもこの女性に実現できないことなど連邦内では存在しない。

 むしろ命令でなく質問してるという点で、彼女がいかに私を重要視しているかがわかる。


 だから、正直に答えよう。


「最高の気分です。私はこのために生きてきたのだと、そう思えるほど」


 復讐は虚しい

 よく聞く言葉だが、私には当てはまらなかった。

 むしろ復讐が達成できなかったことの方が、想像するだけでゾットする。


 達成感、高揚感、充実感、幸福感、満足感、勝利感

 言葉に尽くせぬような最高の感情で、今の私は満たされている。


「なるほどね…」


 女王は興味深く、満足そうに聞き入っている。

 そして、実に面白そうだ。


「じゃあ、あなたはもう満足してしまったのかしら?」

「いいえ、とんでもない」


 女王の口が笑みを浮かべる。

 私の口にも、笑みが浮かぶ。


「あとは、我が愛するあの御方のため、この生命を燃やし尽くす所存です」

「何度聞いても素敵な言葉。あなたがいるから、私は安心して死ねる」


「でも、本当にそれだけ?」

「いいえ、恐れながらもう一つ」

「知ってる。でもあなたの口から聞きたいの」

「さらなる復讐のため。私をこの世界に連れてきて見捨てた、あの女への復讐です」


 人には決して手が届かないであろう超常の存在

 それへの復讐を口にする私を、彼女は笑う


 馬鹿にするのではない。

 ただ楽しくて、笑っているのだ。


「あなたは本当に素敵ね、エキドナ。私の可愛いクレス、そしてあなた。二人がどのような道程を歩んでいくのか、あの世で楽しく拝見させてもらうわ」



 それからまもなくして、彼女は永遠の眠りについた。

 彼女の言葉の通り、実に安らかな顔をしていた。



 ---



 姫様、私の愛するクレス様。

 彼女は大王となり、新たなる絶対者となって連邦に君臨した。


 だが残念ながら、彼女は祖母と母とは違った。

 非凡な才能を持ち、統治者としての才能に満ち満ちていた二人とは違い、彼女は悲しいほどに、普通の少女であったのだ。



「どうして、どうしてうまくいかないの!?」


 彼女の命令は、一言一句違わず官僚達によって実行された。

 そしてそれらはほぼ全てが失敗し、散々たる結果を生み出していた。


 決して無能なわけではない。

 だがこの巨大な連邦という国家を統治するには、平凡な才能では無理があるのだ。


 だからこそ官僚たちがサポートし、彼女を学ばせ成長させねばならないのに…。


「申し訳ございません。陛下のご命令は過不足なく実行したのでございますが…」


 いまや官僚の最大派閥のドンとなったドルバル。

 心底申し訳無さそうにそんなことを言う。


 やつらの考えはわかっている。

 陛下に自分の命令では失敗してしまうと諦めさせ、自分たちに一任するよう仕向けているのだ。

 事実、最近はその傾向が強くなっている。


 天真爛漫だった陛下。

 最近はその笑顔に影がさすことが増え、癇癪を起こす回数は激増している。


 これ以上、陛下に負担はかけさせない。


「陛下、恐れながら」

「エキドナ!どうしたの?何か意見があるの?」


 陛下、あなたのためならば

 私はどんなことでもいたします。


「状況は常に変化します。ゆえに陛下のご命令どおりにしか動けず、臨機応変に対応できなかった官僚の責任は大かと存じ上げます」

「「な!?」」


 官僚たちが眉毛を釣り上げ、反論しようとする。

 だが


「そうね!そうよね!」


 喜色満面な陛下の声が全てをかき消す。

 これに反論するものは、命を無駄にするだけだ。


 そのまま場は一気に官僚達の責任を追求する場へと変貌し、多くの大物官僚たちが地方へと追いやられた。


 軍と官僚の勢力バランスは一気に崩れ、軍による政治主導が始まる。

 それは、連邦による世界統一戦争の幕開けでもあった。



 ---



 連邦軍のトップである大将軍。

 それはすなわち、現在の連邦における絶対的なナンバー2である。


 私のもとには様々な情報が集まるようになった。

 そして、様々な情報を得られるようになった。


 私が求める情報。

 それは、超常の存在がこの世界に呼び寄せた者たち。

 つまり、私の同郷たち。


 異世界転移者だ。




 大賢者


 この世界へ統一言語と文字をもたらした者。

 魔族すら尊敬の念をもつという規格外の英雄。

 魔界にあるという彼の墓には、極寒の地にも関わらず花が絶えないという。


 伝説では、ありとあらゆる生き物と意思疎通を可能にしたという。

 おそらく、これが彼が与えられた権能だ。



 解放王ヒイラギ・イヅル


 人類の解放者。

 初代に次ぐ力を持つと言われる当時の大魔王を倒し、人類を魔族の支配から開放した大英雄。

 この世界のほぼ全ての王族がヒイラギ・イヅルの子孫という点で、その偉大さは知れて取れるだろう。


 斬れぬものなき剣を帯び、あらゆる攻撃を防ぐ盾を持っていたという。

 最強の盾と矛を与えられ、この世界に降り立ったのだ。



 魔法王ランシェル・マジク


 魔法使い達の現人神。

 迫害されていた魔法使いを率い、国まで作り上げた女。

 数百年に渡り世界で唯一解放王の血を引かない王として君臨していた。


 史上最大とも言われる魔力をもち、杖の一振りで国をも滅ぼしたという。

 この魔力と杖こそ、彼女が与えられた力だろう。



 勇者ユウキ・タチバナ


 先代大魔王を滅ぼした男。

 イヅルの末裔、そして世界最高とも言われる癒し手と共に世界を救った男。

 平凡だった少年は超常の存在から身に余る力を与えられ、自壊したという。



 最初の三人はこの世界では子供でも知っている。

 対してはユウキ・タチバナはその功績にも関わらずそれほどの知名度はない。

 そして、彼のように他にも多くのあまり知られていない英雄たちがいる。


 おそらく、それら全ては私の同郷。

 さらに、もっと多くの名も知れぬ犠牲者がいるのだろう。


 もしも陛下に助けていただけなかったら

 私もその犠牲者の一人になっていたのだ。



 そして、最後の一人。



 英雄王リク・ルゥルゥ

 世界最古の国家イヅルを滅ぼした、最も新しい英雄。


 伝説の後継者

 百戦百勝の智将

 救いの導き手

 慈愛の裁定者

 これらは彼の二つ名のごくごく一部にすぎない


 中でも特に目を引くのは、”神々の黄昏”

 神をも滅ぼすと言われながら神のごとく民に慕われる、そんな男だ。


 与えられた権能は全くの不明。

 寡兵にしてイヅルの反乱を成功に導いた軍事的才能

 瞬く間に東方を統一し、繁栄へと導く政治的天才

 魔法王すらひれ伏す個人的武力

 西方と南方の怨念を解決した手腕に至っては、もはや理解の範疇を超えている。




 本当に異世界転移者なのだろうか

 やつはもっと別の存在なのではないだろうか


 それらの疑問が湧いて出てくるが、どうでもいい。


 何者であろうと私の前に立ちはだかるならば、叩き潰す。

 ただそれだけだ。



 全ては陛下の大陸統一のために。

 この世界を陛下に捧げるために。


 そして、我が復讐を果たすがため。



 私は、戦い続けるのだ。

以上でエキドナ編終了となります。

本当はもっと色々詰め込みたかったんですが、長くなりすぎたので断念しました。


次回からはリクの話に戻ります。

気づいたら二ヶ月ぶりなんですね…。すいません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そこまで面白くないのに、エキドナ視点長すぎ。 [一言] 本編はとても面白いので、はやく物語を進めてほしい。
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