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幕間 エキドナ視点・前

 綺麗な部屋

 柔らかく清潔な布団

 温かく美味しそうな食事の数々


 悪夢のような奴隷の生活から全ては一転した。


「エキドナ、ご飯食べられないの?」


 だが、今の私にそんなものは意味がなかった。


 強大な力を持つ奴隷

 反抗はおろか逃げ出すこともできないよう徹底的に壊された。

 自由に動くことはおろか、固形物を満足に口にすることもできない身体となってしまっていた。



「どうしてエキドナはちっとも良くならないの!?」


 少女が私を治療してくれている医師たちに当たり散らしている。

 外観上はずいぶん回復したが、この程度では不満らしい。


 少女の喚起に震え上がる医師たち。

 その後ろから優しい声が聞こえて来る。


「クレス、あまり我儘を言うでない。侍医達が困っておろう」

「お母様!」


 救い主が現れたかと思ったが、医師たちはより一層体を縮こまらせる。


「私のエキドナがちっとも治らないの。お願いお母様、どうか治してあげて?」


 無邪気な声

 天使のような笑顔

 それらを受け止め、声の主はより一層優しい声で語りかける。


「しようのない子。大丈夫。母に任せなさい」

「本当?やったあ!お母様大好き!」

「ほほほ。おねだり上手ね。誰に似たのかしら」


 まるで絵に描いたように幸せな姿

 だがそれより、その隣で顔を真っ青にしている医師たちの姿が目に焼き付いている。


 この日以降彼らの姿を見ることはなくなった。

 顔を見せるのは少女と世話係の数名だけ。

 私の体は一向に改善の兆しを見せなかったが、少女は「まだかなまだかな」とずいぶん楽しそうにしている。



 ---



「さて、これで終いさ」


 聞き慣れない声だった。

 久々に医者が派遣されてきたのだろうか?

 そんなことを思いながら目を開けると


 そこには、女神がいた。


 私をこの世界に連れてきて

 私に強大な力を与え

 そして、私を見捨てた

 ()()


 あらゆる感情が爆発した。

 体が跳ね起き、全力で襲いかかる。

 久々に動かす筋肉が悲鳴を上げるが、そんなことはどうでもよい。

 今すぐ目の前の存在をくびり殺すことしか考えられない。


 だが、


「それだけ動けるならたいしたもんさ」


 実際にそこにいたのは、一人の老婆。

 女神とは似ても似つかぬ、深く皺が刻まれた顔。

 威厳はあるが、当然女神とはレベルが違う。


 なぜこんな老婆を女神と見間違えたのか。

 むしろ後ろに控えている金髪の少女の方がよっぽど女神らしい。


「お...まえ...は...?」

「よしよし、声も出るようだね」


 私の問に答えることもなく、老婆は一人で納得している。

 そしてさっさと荷物をまとめ始めた。


「じゃあ、帰るとするかね。早く帰らないと冬の準備が遅れちまうよ」

「おばあちゃん、もういいの?」

「さっきの動きを見たろ?あたしよりもよっぽど動けるさ。それに声も出る。今はまだかすれちゃいるが、すぐに良くなるよ」


 手を開き、そして握りこぶしをつくる。

 指が動いている。

 もちろん腕も動く。

 脚も問題なさそうだ。


 いったいどんな奇跡が起きたのかと再び老婆に目をやる。

 だが、衝撃とともにそれが阻まれた。


「エキドナーーーーー!元気になったのね!体が動くのね!?やったーやったー!」


 衝撃の正体は私を拾った少女だった。

 そのままベッドに押し倒され、体をいじくり回される。

 くすぐったくて止めたいが、恩人だと思うとそれも躊躇してしまいなすがままとなる。


 その横で、少女の母と老婆が話をしていた。


「依頼は達成した。あたしたちは帰らせてもらうよ」

「礼を言います。あなたでなければ、できなかったでしょう」

「大王様にそう言ってもらえるとは光栄だねえ。大陸東端の辺境からこんなとこまで足を運んだかいがあるってもんさ」

「…むしろ、なぜあなたほどの人間がそんな辺境にいるのかがわかりません」

「あたしにすりゃ、あんたが大王やってる方がよっぽど不自然さ。噂で聞いてた大王様は全くの別人同然だったが、久々に会ってみりゃあなんだい。昔と全然変わっちゃいないじゃないかい」

「私を変わってないなどというのは、あなたぐらいですよ」

「ずいぶんと見る目がないやつらに囲まれてるみたいだね。心中お察しするよ」

「…もう一度聞きます。ここに残る気はありませんか?」

「身に余る光栄ってやつだよ。あたしには辺境の村の村長で精一杯さ。今回のご褒美のおかげで当分村人を冬の寒さで怯えさせずにすむと喜んでる、その程度の人間だよ」

「そうですか…。残念です。ですが、約束しましょう。私の目が黒いうちは、あなたが存命でいる限り東方へは侵攻しないと」

「本当に変わってないねえ。でも、礼を言うよ。長生きしなきゃいけない理由が増えたさ」

「ええ、お互いに」

「ああ、またね」


 そう言い残し、老婆は去っていく。


 それが、私の命の恩人との最初で最後の出会いだった。

久々のあの人登場でした。


短くてすいません。

本来はエキドナが大将軍になるころまで書く予定だったのですが、そこまで書くと今日中に更新できないので一旦ここで切っての更新となります。

この一週間、ずいぶんとブクマが増えてとても励みになりました。これがなければ今日の更新する危うかったと思います。本当にありがとうございます。

体調はぼちぼち良くなっておりますので、評価もいただけるよう頑張っていきたいと思います。

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