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幕間 ある転移少女視点

 私はごく平凡な家に生まれ、ごく平凡に育った。

 一つ違うとすれば、昔から男の子のおもちゃが好きだったということだろうか。

 お姫様ではなくヒーローに憧れる

 そんな娘を両親が少し困ったような目で見つめてみたのを覚えている。


 その後特筆するようなことはなく、平凡な人生を歩んでいた。

 だがある日、私の人生は一変する。


 私は、異世界へと転移したのだ。




 何が起きたのかはよく覚えていない。

 ただただ目の前に現れた人智を超えた存在に圧倒されていた。

 何かを話していたが、耳に入ってこなかった。


 いっそそのままでいればよかったのだが

 あろうことか、私の頭は別のことでいっぱいになっていた。


 異世界転移で神より授かった巨大な力

 その力を持て余しつつも、旅で出会う信頼できる仲間たち

 彼らとの冒険は新しい発見に満ち、希望に満ち溢れている

 ときにはトラブルもあり、大きな挫折も経験するだろう

 だがそれらを跳ね除け、最後は大いなる栄光を手にする

 私は、本物のヒーローになるのだ!


 そんな妄想で頭がいっぱいになっていたのだ。



 目の前の存在、女神

 彼女はそんなこちらの思考を全て悟っているかのように言い告げた。


「あなたの望み、叶えましょう」


 次の瞬間、全身に力が満ちていた。

 今なら何でもできる気がする。

 妄想が現実になると、さらに感動は増していた。


 そんな私に気づいているのかいないのか、女神は淡々と言葉を紡ぐ。


「この世界を、正しい方向に導いて」


 次の瞬間、視界が光に包まれた。



 ---



「ここは…?」


 気づいたのは森の中だった。

 街中に突然出現したらそれはそれでたいへんだろうが、逆に人がいなさすぎるのも困る。

 下手すれば野垂れ死にしかねない。

 だが、そんなことにはならないだろう。


「私には、女神様の加護があるんだからね」


 ふと思いつき、一本の木の幹に手を当ててみた。

 そして、力を込める。


 次の瞬間、その木は軽々と押し倒された。


 一抱えはする大木が根本から倒れているその姿

 それを見て、私は興奮を抑えることができなかった。


「やった!やった!やったーーー!!!」


 自分は本当にとてつもない力を手に入れたのだ。

 きっとこの世界でヒーローとして大活躍できる。

 いや、もしかしたら勇者として世界中から尊敬されるようになるかもしれない。

 それどころか、もっともっと上の存在になれる可能性すらある。


 己を待つ輝かしい未来に、笑いが止まらなかった。


 ひとしきり喜んだ後、森の中を進んだ。

 その気になればいくらでも脱出できるだろうと、焦りはなかった。

 散歩でもするぐらいの気軽さで散策する。

 体力も段違いになっているようで、足場の悪い森の中を一時間以上歩いても全く疲れはなかった。


 そして少し開けたところに、彼らはいた。



 森の中の原っぱ。

 その中心にいるのは数人の男女。

 だがそれ以上に目を引くのは、彼らを取り囲むものたち。


 狼、とは少し違う。

 狼よりも大きく、虎ぐらいありそうだ。

 何よりその赤くギラギラした目。

 こんな目をした狼はいないだろう。


 きっとこれがモンスターというやつなんだ。

 私は恐れるどころかワクワクしていた。


 彼女たちの姿はすでにボロボロだ。

 ところどころ血が滲んでおり、剣が持てなくなっている者もいる。

 モンスターたちは段々とその輪を狭め、狩りは最終段階に移っていた。


 早く助けないと。


 異世界に来たという実感、その非日常感で頭がいっぱいになっていたのだろう。

 負けるなどとは夢にも思わず、モンスターの群れに襲いかかっていた。


 結果は、圧勝だった。

 最初の一撃で群れのボスらしい一番大きなモンスターを蹴り飛ばして戦闘不能にすると、残りは戦意を失って蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。

 文字通り蹴散らしたわけだが、逆に怖がられたらどうしよう。


 せっかく初めて出会ったこちらの世界の人たちなのに。

 今更ながら不安になる。

 

 が、そんなことは杞憂だった。


「すごいすごいすごい!あなた、すっっっっごく強いのね!!」


 他のメンバーを盾となるような姿勢で抵抗してた少女

 彼女が絶賛しながら飛びついてきた。


 以前の私なら倒れるような衝撃

 今の私には子供が抱きついてくる程度にしか感じない


 その少女の勢いに引っ張られてか、他の二人も近づいてきた。


「本当に危ないところだったよ。ありがとう」

「命の恩人です~。ありがとうございます~」


 お互いに自己紹介をする。

 元気な少女はフェトラ

 唯一の男性である少年はヴァン

 語尾がのびるおっとりした少女はエリー


 ヴァンは左手にかなり大きな怪我をしていたが、命に別状はなかったようだ。

 エリーは治癒魔法の使い手らしく、一月程度あれば完治するらしい。


 魔法!

 剣と魔法の世界に来たのだと心臓がうるさいほど高鳴った。


「あたしたち三人は幼馴染で、旅をしてるの」

「連邦内なら余裕だろうと思っていたんだが、調子に乗って森の中を通ったらこのザマだよ。まさかルプスの群れに襲われるとは…」

「本当にね~。あなたが助けてくれなかったら、間違いなく三人とも死んでたわ~。何度も繰り返しになっちゃうけど~、本当にありがとう~」


 連邦というのはこの世界最大の国家

 ルプスというのはさっきのモンスターたち

 言葉は当たり前のように通じるのに知らない単語があることがワクワクする。


 もしかして冒険者なのだろうかと思ったが、そういうものではないらしい。

 だが旅をするのも冒険をするのも変わりはしない。

 これで仲間と旅立つという最初の目的は達成できるではないか。


 自分は記憶喪失になったから常識がないということにし、仲間に入れるようお願いする。

 断られることはないだろうと思っていたが、想像通り快諾された。


「むしろこちらがお願いしたいぐらい!よろしくね!!」


 こうして、私の異世界生活が始まった。



 ---



 彼女らとの旅ができたことは幸せだった。


 知らない街に知らない地方、どこも新鮮でどこも楽しかった。

 ときに戦いになることもあったが、私の圧倒的な力で敵がだれであろうと連戦連勝だった。


「本当に頼りになるね!!」


 そう言われる度に謙遜していたが、内心はすごくすごく嬉しかった。


 元の世界ではただの少女だった私。

 だがこちらの世界ではまるで違う。

 どんなモンスターも敵ではなく、ましてや相手が人ならば戦いにすらない。

 自分は無敵の存在なのだと、それを疑う要素などまるで存在してなかった。



 そんなある日、私達はある地方の村に立ち寄っていた。

 小さな村で宿もなく、村長の家に泊めてもらった。

 美味しいご飯に温かいお風呂をいただき、ふかふかの布団で寝かせてもらった。


 明日はどこに行くんだろう

 そう考えるとワクワクが止まらなくて寝付けなくなる。

 まるで毎日が遠足の前日のようだった。


 こんな気持ち、元の世界じゃ絶対味わえなかったな

 そんな幸せな考えは、村の中から聞こえてきた悲鳴で強制的に中断された。


「奴隷狩りだ!!」


 何事がと部屋を出ると、ヴァンの声が聞こえた。


「奴隷狩り?」

「最近戦争がないからって地方の小さい村を襲って奴隷にするやつらがいるの!まさか、出会う日が来るなんてね…」

「大王様が禁止されてるのにね~。よっぽどのコネがある連中なのかしら~」


 フェトラとエリーも部屋を飛び出してきた。

 普段おっとりしたエリーだが、ずいぶんと機嫌が悪い。


 それは安眠を邪魔されたからではない。

 奴隷狩りなどという輩への義憤だ。


 もちろん私も心から怒りが湧いてきていた。

 奴隷など、そもそもがありえない。

 しかもこんな優しい村の人達を襲って奴隷にする?

 絶対に許すことなどできない。


「みんな、行こう」


 私の問いかけに、皆力強く頷く。

 そして、戦いが始まった。


 いや、それは戦いなどではなかった。

 私の圧倒的な暴力でによる蹂躙。

 瞬く間に戦闘は終了。

 村に平和が戻った。


 はずだった。




「たまにいるんだよねえ。お前みてえな化け物がよ」


 男の下卑た声が頭の上から聞こえてくる。


「だから、俺みてえなのが重宝されるわけよ。臨時給金はずんでくれよ、お頭さん?」

「もちろんですとも!先生、ありがとうございます!」


 指一本たりとも動かせない。

 男が杖をかかげた瞬間、魔法にでもかかったかのように体に力が入らなくなった。


 そう、魔法。

 この世界で初めて受けた魔法攻撃。

 治癒魔法があるのならば攻撃魔法もあることなど簡単に想像できた。

 ただ傷つけるだけでなく、このように動きを止める魔法の存在も。


 こうして敗北を喫して初めて気付けるなんて

 悔しくて涙が出そうだった。


 次は絶対に遅れを取らない。

 そう誓った、そのとき


「さあ、その女も連れていきなさい」


 私は大男に抱えられて馬車に投げ込まれ、そこで手かせ足かせをつけられた。

 さらに口枷もつけられ、馬車が出発する。

 周りには見知った顔があった。


 何が起きているか理解できなかった。

 自分が奴隷狩りに捕まったということに理解が追いつかなかった。


 奴隷狩りに捕まった人間が何になるか、頭が理解することを拒否していた。




 ---




 それからの何が起きたかは割愛しよう。

 仲間を害した奴隷を、奴隷商がどのように扱うかなど言うまでもない。



 最初、私は神に助けを求めた。

 この世界に神は存在するのだ。

 そして私は実際に出会った。

 当然、助けてくれるものだと思っていた。


 だが、助けは来なかった。


 次になぜ助けてくれないのかと問いかけた。

 だって、神はいるのだから。

 どうして助けてくれないのか。

 そもそもあなたが呼んだのではないか。

 私は勝手に連れてこられただけなのだ。

 なぜ私を見捨てるのかと。


 だが、答えはなかった。


 そして、私は考えるのをやめた。


 神のことも、仲間たちのことも、自分のことも、

 何も考えず、ただただ生きていた。

 心臓が止まっていなかったから、死んではいなかった。



 捕まってからどれほどの月日が経っただろうか。

 もしかしたら数日だけかもしれない。

 実は数十年経っているかもしれない。


 時間の感覚など当然なく、意識することもなかった。

 ただその日突然、私は建物の外に出された。


 もちろん自由になるわけではなく、ただ外でぼけっと座っているだけだった。

 どこか場所を移動する途中だったのかもしれない。

 単に日光浴をさせられたのかもしれない。

 なにか理由はあったのだろうが、全てがどうでもよかった。


 私は、ただ死んでいないだけの存在なのだから。



「あなた、黒髪黒目なのね」


 まるで鈴を転がすような声だった。


「絵本で読んだ解放王と同じね!とっても素敵!」


 ずいぶんと久しぶりに興味がひかれた。

 しかし今の私の目に陽の光は強すぎて、目に映るもの全てが霞んでいた。


「あなたのお名前は何?何というお名前なの?」


 名前。そう、私には名前があった。

 いったいどんな名前だっただろう。


「カ............ン.........]


 口から出てきたのはかすれた音だけ。

 回答にもなっていないのに、その声の主の口調は弾んでいる。


「カーンというのね!でも可愛らしくないわ。私がもっと可愛らしい名前を考えてあげる!そうねえ…」


 いったい名前などつけてどうするのか。

 今の私はただの奴隷なのだ。

 名前をつけられても何ともならない。


 ほら、向こうからやってくる。


「おいおいお嬢ちゃん。いったい何し…」


 いつも偉そうにしている奴隷商が絶句した。

 少女の後ろから現れた男たちに土下座し、必死で命乞いをしている。


「そうだ!エキドナ!今日からあなたはエキドナ・カーンよ。エキドナ、私のおうちにいらっしゃい。あなたは今日から、私のもの」


 少女の声が近くなる。

 陽の光が少女の体で遮られ、私の目に初めてその姿が映った。



 そこには、天使がいた。



 この日、私は運命の人と出会った。

 そして、エキドナ・カーンとなったのだ。

長らく更新が止まっており、申し訳ありませんでした。

そもそも自分の体調が悪いところに親族の体調も色々ありまして、更新ができる状態ではなく…。

久々に時間がとれ、ようやくの更新となります。

こんなに更新が途絶えていたのにブクマや評価をいただき、ありがとうございました。

突然更新が止まることがありますが、必ず復活するのでお付き合いいただければと思います。


次回もエキドナ視点となります。

楽しんでいただけますと幸いです。

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