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番外編 先生

 あの人は突然村に現れた。


 アルカ姉ちゃんが山で拾ってきたという。

 だが本当に一人で山に入れたのか?と思うほど貧弱だった。


 薪を割ろうとするも斧が当たらず

 運ぼうとするも持ち上がらず

 ならば他のことをと色々挑戦したようだが、結局どれも失敗していた。


「あの無駄飯ぐらいの虫が…!」

 そう言いながら歩くカルサを何度も見かけた。

 普通なら追い出されているだろうに、村長やジェンガがずいぶんと気にかけているようだ。


 何か理由があるのだろうか?

 その疑問はすぐに解決する。


 あの人は、先生だったのだ。



 自分みたいな人間には読み書き計算なんて一生縁がないと思っていた。

 村長のような立派な人

 おしてアルカ姉ちゃんやカルサみたいなその家族

 そんな人だけが身につけるものだと思っていた。


 でも、違った。

 辺境の子どもたち、そんな俺達にあの人は勉強を教えてくれたんだ。


 文字が書けると色んな記録ができた。

 全てのことを頭で記憶しておく必要がなくなった。

 新しい世界が開けたような感覚だった。


 計算がこんな楽しいものだって初めて知った。

 今まで商人に頼ることしかできなかったお勘定だって、自分ですることができた。

 それだけではない。

 ふとした数字の疑問も、先生が教えてくれた数式ってのを使えば、簡単に解決することができた。


 それはまるで魔法だった。

 魔法の才能のない俺でも使える、不思議な不思議な魔法だ。


 もう誰もあの人が役立たずだなんて思っちゃいない。


「先生!」

「先生、お疲れさまです!」

「先生、うちの畑で採れたものです。食ってやってください!」


 あの人は、村人全員から尊敬されるようになったんだ。



 ---



 あれから、色々あった。


 反乱軍の形成

 村長の死と反乱の勃発

 奇跡のごとき勝利の連続

 そして、偽王の最期


 その中心には常にあの人がいた。

 言葉では言い表すことができないような激動の中、あの人は常に前を見据え皆の先頭を走っていった。

 私は反乱軍の一員だった父親についてきただけだった。

 でも、間近で見るあの人は、いやあの御方は、ただただ大きかった。


 そして私は知ったのだ。

 あの人は先生ではなかったのだと。


 あの御方は、王者であったのだと。



 ---



 反乱軍に参加した村人たち、その多くはそのまま軍に残った。

 もちろん村には愛着があるが、それ以上にあの御方の近くにいたかったのだ。

 私の父親もその一人で、幸運にも近衛に入隊することができた。

「陛下のお側でお仕えできる!!」

 そんなふうに喜んでいた父の姿は、面映ゆかった。


 そして幸運は俺にも連鎖する。

 都に住むことになった私は、なんと都の学院に入学することができたのだ。

 本来は貴族や大商人の子弟しか入れない名門。

 しかしあの御方から直々に指導を受けたという実績を買われ、特例として入学が許されたのである。


「落ちこぼれになってあの御方の顔に泥を塗ることになったらどうしよう…」

 そんな不安は初日で払拭された。

 あの御方が俺たちに教えてくれた学問は、学院を遥かに凌駕するものであったのだ。


 私は教えを請うどころか、むしろあの御方の知識を皆に広める役割を与えられた。

 自分の実力ではないが、とても嬉しかった。


 だって、当然だろう?

 あの御方の桁違いの偉大さを、またも目の当たりにできたのだから!!



 その後、たまたま宮殿に訪れたときあの御方と廊下ですれ違う機会があった。

 当然俺は道を譲り、廊下の端で頭を下げていた。

 そんな私に、なんとあの御方はお声をかけてくださったのだ。


「あれ?もしかしてケアル?」

「…!?は、はい!

 ケアルでございます!」


 自分のことを、覚えててくださった!?


「最近何してるの?

 今も勉強頑張ってるの?」

「もちろんでございます!

 精進を欠かしてございません!

 今は陛下よりご教示いただいた教えを皆に広められるよう、微力を尽くしております!」

「あ、へー、そうなんだ…

 ま、まあ、頑張ってるのはいいことだ!

 これからも頑張ってくれ!!」


 陛下直々の激励

 天にも昇る心地とはこのことだろうか

 しかもそれだけでは終わらない。


「そうだ、このペンあげるよ

 けっこう書きやすいから、ガンガン使って勉強してね」


 そう言って手づから私に御身の筆を下賜くださったのだ。

 震える手で受け取る私を優しい見つめる優しい微笑みを、私は一生忘れることはないだろう。



 あの日から、私は一日の最初は必ずあのペンで文字を書いている。

 本来なら家宝として厳重に閉まっておきたいが、使うようご指示いただいている以上は使わざるをえなかった。

 だが、今ではこのペンで文字を書くのがとても楽しみになっている。

 ペンを手に持った瞬間、陛下の微笑みが脳裏に浮かぶ。

 一日のやる気が出てくる。


 前日にどんな落ち込むことがあっても

 今日どんなに嫌な予定があっても

 あの御方が私に勇気を与えてくださるのだ。


 私のような、本来は辺境の村人として一生を終えるはずだった男

 それがあの御方との出会いだけでここまで人生が変わってしまった

 変えていただいてしまった


 その幸運に感謝しつつ、少しでもその恩返しをするため

 私は今日も励むのだ


 偉大なる我らが王のために




 ---




 いやー、びっくりした。

 村で先生やってたときの生徒と会うことができるとは。


 あの頃は自分にもできることがあるのだとずいぶん張り切っていた。

 調子に乗って微分積分や三角関数まで教えてしまったが、それについてこれたのはあのケアルくらいだ。

 元々地頭が良かったのだろう。

 俺の教えることをスポンジのように吸収し、あっという間に教えられることなどなくなってしまった。

 途中からほぼ自主勉ばかりしてもらっていたものだ。


「俺の教えを広める」って言ってたが、たぶんそれはケアルの教えだと思う…。

 でも


「兄様、ずいぶん嬉しそうね?」

「ん?ああ、懐かしい顔を見たからかな」

「ケアルのこと?

 学院で教授やってるらしいけど、あのはなたれ小僧がね…」

「教授!立派になったもんだなあ」

「そのことで喜んでたんじゃないの?」

「それも嬉しいけど、さっき喜んでた理由とは違うな」

「ふーん…」


 俺が答えなさそうなのを感じ取ったのだろう

 カルサの問いかけはそこで止まった。


 仕方ない。

 聞かれても答えるわけにはいかないのだ。



 当時俺を虫扱いしてたお前が妹になってくれた現状に喜んでるだなんて

 恥ずかしくて本人には言えないよ

ずいぶん間が空いてしまい、申し訳ありません。

忙しくて時間がない、でもお待たせしてるからクオリティ上げないといけない、そのためには時間がかかる、と悪循環に陥ってました。

このままではまずいと考え、一気に書き上げた短編となります。


リクが先生やってたときの生徒の話です。

頭の中にはずっと構想があったのですが、一話にするには微妙かと思ってお蔵入りしていたものです。

これのおかげで少し頭が小説を書くモードに戻ってきました。

次回はなんとか本編の方に戻りたいと思います。


お待たせして申し訳ありませんが、今しばしお待ち下さい。

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