77話 開戦準備・前
来るべき決戦。
人間界の行く末を左右するその戦いに向け、全てが一気に動き出した。
もはや文官も武官も関係ない。
将軍から一官吏まで皆一丸となった総力戦。
国家総動員で準備が進んでいる。
ジェンガとボードが中心となった作戦会議。
彼らこそ、この連合軍を統率する頭脳そのもの。
その判断は一つ間違えれば即将兵の死につながる。
まさに死に物狂いの様で侃々諤々と議論が交わされていた。
そう、交わされていた。
なぜ知っているのか?
もちろん、直に見たからだ。
良かれと思って、皆を激励したくて、見に行ってしまったのだ…。
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「リク様!」
「お館様!?」
真っ先に気づいたのはジェンガとボードだった。
俺の正確な容姿を知っている人間は意外と少ない。
超絶美化された銅像やら絵画やらのせいで大きな勘違いをしている人々が大半なのだ。
…いつか是正される日が来るのだろうか。
この二人が直立不動となったので当然他のメンバーも俺の入室に気づく。
そして全員が俺を最敬礼で出迎える。
当然俺の顔は彼らに見えず、またしても真実は共有されなかった。
いや、そんなことより会議だ。
俺なんかのために中断してもらってはたいへんだ。
「俺に気にせず続けてくれ」
そう言おうとしたのだが…
「リク様、ご心配ありがとうございます!
最新状況をご説明させていただきますね!!」
心配になって来たのだと勘違いされてしまった。
ジェンガが、軍のトップが、この作戦会議でおそらく最も重要な人物が、わざわざ懇切丁寧に作戦内容を俺に説明し始めてくださっている。
ときどきボードが口を挟む。
補給やら予備兵力やら各国の連携やらを教えてくれる。
うちの国の宰相が、文官のトップが、この作戦会議のおそらくナンバー2が、俺のために時間を割いてくださっている。
そしてそれを真剣に傾聴する東西南連合軍の頭脳達。
中には知った顔もちらほら。
五天将の一人にしてジェンガの副官、ガルバナ
ボードの副官、パトリ
彼らも当然のように最敬礼している。
完全に作戦会議は中断され、俺のための説明会が開催されてしまった。
背中から嫌な汗が吹き出している。
現場にスーパー偉い人が現れたりしたら、作業が全て中断されるなんて当たり前じゃないか。
事前に来ることを伝えてたら、わざわざ専用の資料をつくってたかもしれない。
それはしなくて本当によかった。
いや、そもそも来なければよかったのだが。
しかも説明を聞いても全然わかんない。
”百戦百勝の知将”なんて言われてるが、戦争の指揮なんてしたことない。
ギーマン砦は実質ミサゴの手柄だ。
唯一俺の提案が成功したものといえば都攻略戦。
だがあれは元の世界のインスパイア。
有名な神話だから知っていただけ。
だから真似できただけ。
こんな大規模会戦なんて全然知らない。
天下分け目の決戦なんて関ヶ原ぐらいしか思い浮かばない。
「以上が、本作戦の概要となります!
なにかご意見等、お願いいたします!!」
そんなことを考えていたら説明が終わっていた。
期待に満ちた眼差しを向けてくるジェンガ。
神妙な面持ちでこちらを見つめるボード。
他の人々も物音一つたてず待っている。
俺の言葉を、待っている。
「よくできた作戦じゃないか」
とりあえず褒めてみた。
安堵のため息が聞こえてくる。
だが、肝心のジェンガとボード。
二人の視線に変化はない。
明らかに、まだ待っている。
何か訓示のようなものを聞けるのを待っている。
俺のほうが良い案を思いつくという間違った期待。
俺のほうが優秀だというとんでもない思い違い。
もはや修正することも諦めた勘違い。
修正することを諦めた以上、彼らの期待に応える責任がある。
それを実現する義務がある。
何か、何か言わないと。
「ただ、な」
関ヶ原といえば…
「我らはあくまで連合軍
各国との連携にはよく注意するように」
宰相殿の空弁当と小早川秀秋の裏切り。
この二つが決定打となった、はず。
だけど内通とか裏切りとか発言すると疑心暗鬼を生んでしまうから、ふわっとした表現で。
実際即席の寄せ集めなんだから、そこは注意してしすぎることはないだろう。
そう考えると結構的を射てる気がするぞ。
「承知いたしました、お館様
万事滞りなく準備いたしましょう」
「リク様のご懸念、よっく理解できました!
お任せください!!」
一人は沈着冷静に、一人は燃え盛る炎のごとく答えてくれた。
納得してくれたようで一安心。
我ながらいいこと言えたじゃないか。
「ならばよい
諸君らの働き、期待しているぞ」
「「「ははっ!!」」」
全員が一気に反応してくれてびっくりした。
なんだか闘志というかやる気が部屋全体に満ちている。
どうやら当初の目的である皆の激励は果たせたようだ。
では、邪魔者はさっさと退散しよう。
「あとは任せた」
いつもの決め台詞。
熱い眼差しを背中に感じつつ、逃げるように部屋を出ていった。
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そのまま人目を避けつつ自室へ戻ってようやく一息。
「やっぱ、慣れないことはするもんじゃないな…」
「そんなの、いつものことでしょ?」
独り言のつもりが返事をもらってしまった。
俺が出かけてる間に戻ってきてたらしい。
「いやいやカルサ
いつもの俺はそんな出しゃばらないよ?」
弁解したらジト目で見つめられた。
「そっちじゃなくて、慣れないことの方」
「慣れないこと?」
「そ。慣れてることをできる方が珍しいんじゃないの?」
言われてみれば確かに。
王様になったり人前で演説したり戦争に参加したり
どれも慣れてるどころか初めてのことばかりだった。
「でしょ?だからそんなこと、気にすることないの」
そんなもんかね
「そんなもんなの
兄様はよくやってるんだから、大丈夫」
そう言って笑いかけてくれる。
今回はちょっと失敗したけど
もう少し、頑張ってみようかな。
ブクマ1000到達しました!
書き始めたとき、いつかいけたら…と思っていた目標に到達することができました。
本当に本当に、ありがとうございます!!
今回はもう少し長くなるはずだったのですが、書ききれなかったので一旦切っての更新となりました。
五天将などルゥルゥ国の幹部については37,38話の任命式で紹介されていますので、ご参照ください。




