表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legend of kiss4 〜太陽の王子編〜  作者: 明智 倫礼
5/23

強い霊力

 煌彩こうさい高校、本校舎の二階の廊下。

 金髪のふんわり天使は、暮れ始めた空を眺めている。


 ホームルームが終了して、二十分も経っていないのに、学校は不思議なほど静まり返っていた。まるで、他の誰かが入ってこないように。未来が変わらないように。


 2ーCの教室には、亮が一人、席に座ったまま、ぼんやりしていた。彼女は小さい頃から見ている、自分が死んでく夢を今日も見た。だが、今日のはいつもと違って、呪いの解き方を教える声が聞こえてきたのだ。


 長い廊下に一人たたずむルーは、流れてゆく雲をサファイアブルーの瞳に映し、


(Is it still?(まだかな?)

 亮ちゃんは、教室にいるけど……ずっとthinking(考えてる)。

 ボクは、waiting(待ってる)。

 Distant(遠くの)声が聞こえて、close(近く)に誰かが……あ、appeared(来た)


 生まれてきて、今日始めた会った人の気配。それなのに、前から知ってるような慣れ感じで、ルーは春風のように微笑んだ。


(お帰りなさいさん♪)


 ルーにしか聞こえない声が、ため息まじりに文句。


『もう、今日一日で、一生分働いたって感じ〜』


 何かを一生懸命やってきた様子だった、相手は。ルーは純粋無垢な瞳で、


(Thank you)


『あと、で・ん・ご・ん♡』


 ねっとりと言って、なぜかルーと内緒話を始めた。話が終わったところで、ルーは可愛く小首を傾げ、


(ふふふっ、楽しみさん。

 she show &day she〜〜♪)


 摩訶不思議な呪文を唱えたミラクル天使。ここで、見えない気配が気だるそうにツッコミ。


『それは、師匠と弟子ね。もう、ルーちゃんったら〜。それに、あんた、喜ぶところじゃないわよぉ〜』


 ルーは全然気にせずに、教室の中へ静かに入っていく。


(キミと彼のcontact(接点)は、他の人よりも少ない。

 五年間、会ってなかったって、this morning聞いたよ。

 その上、彼とはラピスラズリで、しばらく会えない可能性がhigh.

 だから、today,meetした方がいいとボクたちは思ったんだ)


 

 亮はカバンを机の上に置いたまま、頬杖をついていた。ルーが近寄ってきていることとも知らず。


(んー……わからないなぁ。

 どういう意味?)


 そこで、ふと、今日の五時間目、数学の授業を思い返して、


(八神先生に叱られちゃったね、今日は。

 授業中に考え事は、いけなかったね)


 叱られたのではなく、優雅な策略家に、罠を仕掛けられたと気づいていない、ボケ少女。珍しくため息をついて、手元を見つめ、


(でも、どうして、今日だけ声が聞こえてきたのかな?

 何でだろう?)


 亮はもう一度、言葉を思い出してみた。


『なんてことでしょう。……とは、私は許せません。……。自ら、この呪いを解く意思があるのなら、その機会と方法を与えましょう。今から五千年後に出会うでしょう。彼の者ともう一度、真実の愛をはぐくみ、十八の誕生日までに、その心を持って……』


(『真実の愛をはぐくみ』……?

 『十八の誕生日までに』……何なんだろう?

 誰かに聞いてみようかな?)


 亮はキョロキョロとあたりを見渡そうとして、ミラクル天使が背後から降臨。


「亮ちゃん?」

(会いにいって欲しいさん♪)


 純粋さいっぱいの声に、亮は振り返って、


「あっ、ルー」


 ルーは可愛く首を傾げ、


「考えごとさん?」

(彼は、今、家を出たよ。

 商店街の天照庵に向かうらしい)


 また、混在している、ミラクル天使の性格が。表面上はふんわりだが、心は皇帝のようになっている。

 イギリス国籍の整った顔立ちを見上げ、亮は、


「うん。ルーは、どうしたの?」

(まだ残ってたんだ)


 ルーはサファイアブルーの瞳に、呪いのかけられた姫を映して、


「ボクは、大事なA promiseさんなの」

(五千年前からの、A promise)


「約束?」

(誰かと、待ち合わせなのかな?)


 亮は不思議そうな顔をした。ルーは独特の雰囲気があり、それに人は惑わされてしまう。それが起きないような言い方を、ルーはしているのだが、ボケ少女には難しすぎなのかもしれない。


 ルーは可愛くうなずいた。


「うん、ずっと前から、A promiseさん♪」

(ボクが、キミたちを助ける役目なんだ、ここでは)


 これが、スメーラの部下、覚師の危惧していたことなのだ。守護する者がルーなのだ、シリーズ4は。


「そうなんだ」


 亮は何も気にせず、うなずいた。ルーは純粋という宇宙が広がる瞳で、くりっとしたブラウンの瞳をのぞき込み、


「どうしたの?」

(呪いの解き方を、look for(悩んで)るさん?)


 気になって仕方がない亮は一瞬、躊躇して、


「あぁ……」

(ルーに聞いてみた方がいいのかな?)


 おっと、このままでは違う人に聞いてしまうことになる。シリーズ始まって以来、呪いの解き方の話は、守護される人ーー呪いを解ける人にしか、亮はしてこなかった。当然、ルーは強引に、亮の心を変更させる。サファイアブルーの瞳を、亮の右隣へちらっとやられ、


「何?」


 ボケ少女に話を続けながら、


『彼に聞かせた方が、ボクはいいと思うけど……。キミはどうだい?』


 ルーにしか聞こえない声が、


『そうなるようにするわよ〜』


 ここが腕の見せ所と言うように応えた。亮はルーたちのやり取りには気づかず、言葉を続けようとして、


「夢で声を聞いたんだけど……」


 彼女の魂、潜在意識に、誰かの声が響いた。

 

【愛 追憶】


 すると、亮の感覚は急に鋭くなり、


(あれ?

 あの夢の人、どこかで会ったことあるような……?

 どこでだったかな?)


 ルーは知らない振りをして、彼女の言葉を待った。


(ボクも見たよ、今日初めて。

 彼は死んだキミを抱きしめて、珍しく泣いてたよ)


 まだ、動かない亮の魂に、彼女自身には聞こえない声が響き、


【彼の者 巡り合う】


 亮は窓の外に目を向け、


「えっと……」

(何だか、あっちが気になるなぁ)


 こうやって、シリーズ通して、みんなは操られていた。ルーは不自然にならないように、窓へ視線を向けて、


「どうしたの?」

(わかるんだね。

 その方向には、今、キミのloved(大切な)人がいる。

 『彼の者』は、heだからね)


 見えない存在、さらに頑張って、亮の魂に呼びかけ。

 

【呪い解きし者】

 

「んー……?」

(あっちに何かあるのかな?)


 暮れ始めた街の建物が、亮のくりっとしたブラウンの瞳いっぱいに広がっていた。菓子屋の御曹司、ルーは、高級腕時計を見て、


「亮ちゃん。そろそろ帰らないと、遅くなるさん」

(時間がずれて、未来が変わっちゃうの)


 もう、勝負は始まっている。緻密に計画は決まっているが、選ぶ選択肢で未来は変わる。今日、会わないと大変なことになってしまう。燈輝と亮は五年も会っていなかった上に、今日の夜、ラピスラズリに移動してしまうのだから。


 スタートが出遅れれば、巻き返すのが難しくなる。


【呪い解かれし者】


 亮ははっと我に返って、腕時計を見て、大声を上げた。


「あっ、本当だ!」

(五時、過ぎてる!

 六時に、櫻井さん来るから、あんまりのんびりは出来ないよ)


 ルーはあらかじめまとめてあった荷物を左手に持って、亮に右手を差し出し、


「一緒に帰るさん、ふふふっ」

(大丈夫、カータ ソフィアンスキーが来るまでに、家には着くよ)


 いつも通りの、ミラクル天使の幼稚園生ごっこに、亮は何のためらいもなく、ルーの手を握った。


「あ、うん」


 そして、ふたりは教室から、廊下へ歩き出した。



 夕暮れに染まる校庭に出て、手をつなぎながら、ルーと亮は正門へ向かう。ルーは自分たちの後ろからついて来る誰かに、心の中で、


(仲良しさんは、ふたりきりじゃないとね。だから、ボクは今日は、彼に会わない)


『あたしは会うからぁ、危険なラブトライアングルに突入ねぇ〜♡』


 ふたりの恋を邪魔しそうなことを言う人物が登場。ルーは気にせずに、ふんわりと、


(楽しそう、ふふふっ)


『だから、喜ぶところじゃないでしょ。三角関係になって、どうすんのよぉ〜』


 見えない人がルーに突っ込んだ時、亮たちは人気のない正門に着いた。ルーは立ち止まって、自分の両手で、呪いをかけられし姫の左手を優しく包み込み、


「亮ちゃん、いいこと教えてあげるさん」

(仲良しさんになる方法)


 夕日をバックに立っているルーの、サファイアブルーの瞳を見つめながら、亮は不思議そうに、


「いいこと?」


 ルーはふんわりうなずいた。


「うん」


 純粋という名の宇宙が広がる瞳の奥を、亮はじっと見つめ、


「何?」

(何だか、ルーが、いつもと違う気がする)


 ルーは春風のように微笑みながら、


「亮ちゃんがさっき、ボクに話そうとしたこと、これから帰るまでに会う人に話すといいよ」

(彼は、必ず、キミの居場所を突き止めてくる)


 五千年前のことをやり直そうと生まれ変わったのだ、みんな。しかも、『彼』は修業バカだ、絶対見つけてくる。異能力者が多いチームなので、直感だけの亮には、かなり強引な話。そのため、ボケ少女は、目が点に。


「えっ?」

(帰るまでに、会う人?)


 ルーは手を離して、小首を可愛く傾げて、


「Shopping districtを必ず、歩いて帰って。バイバイさん♪」

(今から行けば、すぐ側を通るはずだから)


 ルーは亮の返事を待たずに、背中を向けて、金髪天使は歩き出した。学校近くに待たせてあったリムジンまで、歩きながら、暮れゆく夏空を仰ぎ見て、


(また明日、ラピスラズリで)


『じゃあねぇ〜♡』


 誰かが応えて、気配がルーから遠ざかっていった。ルーは背中で、明日に再び人魚姫になる、亮を感じる。


(リエラちゃん、早く彼のこと愛してるって、気づいてね。

 それが、ボクの心からの願い。

 そして、キミとみんなの願いでもある)


 そこで、サファイアブルーの瞳は、全ての人々をひれ伏させるような威圧感のあるものに豹変。


(そのために、ボクは何でもする。

 キミのことを、愛しているボクがいるから)


 ルーは特殊な存在で、シリーズ1から、亮を愛している自分がいると知っている。それなのに、他の人の手助けをずっとしてきた。シリーズ3で、八神が可能性から導き出し、ルーはそれにイエスと応えている。だが、同時に否定もしている。矛盾しているが、世界の仕組みを知っていれば、筋が通っている。


 亮は去っていく、180cmもあるルーの後ろ姿を見送りつつ、


(Shopping district?

 商店街に何かあるのかな?)


 さっきから気になっている、その方向へ顔を向けて、


(パーティまでには、少し時間があるし、本屋さんにでもよって、呪いのこと調べてみようかな?

 どうしようかな?

 気になるは、気になるんだよね。

 んー……?)


 早く行かないといけないのに、いつまでも、ぼんやり立ち尽くしている彼女の魂に、誰かの声が、


【時は満ちた】


(何だか、わからないけど……重要な気がする)


 亮はそう思って、ルーに言われた通り商店街へ向かって、先走り少女は走り出した。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ