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Legend of kiss4 〜太陽の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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慌ただしい転生

 パステルカラーを基調にした謁見の間。

 その奥の立派な椅子にスメーラ神は座っていた。彼女の前には、一人の小さな人ーーパル プレインがひれ伏している。


「そうですか」

(そちらまで成長する可能性は76.24%でしたからね)


 誰かの話の報告を、スメーラはパルから聞いていた。パルは顔を上げて、少し困ったように言葉を続ける。


「しかし、五千年前の肉体に戻ると……多少問題が生じるかと、存じます」


 スメーラは落ち着いた声で、


「そちらも、あの者にとっては、良い心の成長となるでしょう」

(本人も覚悟は出来ています)


 転生の輪は、きちんと本人の了承を得て、生まれ変わっている。パルは新たな問題を提示しようとして、


「それから……」

(そちらよりも、重要な問題が浮上してるかと存じます)


 スメーラは心配させないように、にっこり微笑んで見せた。


「知っていますよ」

(そちらの可能性は99.78%ですからね。

 五千年前から、予測はしていました)


 パルは、今この部屋にいない、スメーラの部下の名を口にする。


覚師かくし様は?」

(ご存知なのでしょうか?

 何もおっしゃっていませんでしたが)


「知ってはいますが、そちらの問題から生じる全ての可能性は、把握していないようですよ」

(今の彼女にとって、あの者の感性は、未知の領域かも知れません)


 予測不可能な人が、今回は全面的に参加する。そのため、いつ何がどこで、進路変更してしまうかわからない状態に。


 ここでいう、『あの者』は、摩訶不思議な呪文を唱える、ふんわり天使のこと。複雑な思考回路の上、性格に二面性があり、混在する時も。しかも、無意識下でやってくる。神でも完璧な予測が難しい人物。


 スメーラの部下、覚師は可能性全部を把握できないままで、時は再び動き出す状態に。スメーラの中では、『あの者』に対する予測はできている。


 神を前にして、パルはただただうなずいた。


「さようでございますか」

(スメーラ様は、すべてご存知の上で、何もおっしゃらないのでございますね)


 全ての長である、スメーラは静かに、


「こちらで、今はよいのです」

(自ら気づかなければ、心は成長しません。

 そちらは人でも、神でも同じです)


 神の世界にも、組織というものは存在する。上司が部下の成長を見守るのも、ひとつの愛の形。


「はい。己を磨くということは、そういうことだとわたくしめも存じております」


 うなずいたパルに、スメーラは急に真剣な顔つきになり、


「あちらが狙ってくる可能性が、こちらの世界には十分あります。おそらく、あの者たちも何か手を下すでしょう」

「あの者とは……!? アメシスの……者たちでございましょうか?」


 パルは珍しく驚いた。スメーラは一度うなずき、


「えぇ」

「…………」


 事実を突きつけられたパルは、言葉を失くした。そこへ、一旦言葉を切った、スメーラの声が慎重に、


「総攻撃を受ける可能性があります。30.56%ですが……」

「さようですか……」


 パルは力なくうなずいた。


 総攻撃。シリーズ1〜3とは比べ物にならないことが起きるということだ。このチームは異能力者が大勢いる、そのため、相手も本気で打って出てくる可能性大。


 いつ、どのタイミングで仕掛けてくるかは、スメーラはだいたい予測はできている。避けることは簡単だ、神の力ならば、しかし、それはしない。 


 この世界だけではないのだ、守らなくてはいけない場所は。一時どこかに、攻撃を集中させないと、世界が成り立たない。そのため、シリーズ1〜3も狙われてきた。非常に複雑な世界観が、神の元には広がっている。


 スメーラは優しく微笑んで、


「あの者のことを頼みましたよ」

(あなたにとっても、よい心の成長になるでしょう)


「かしこまりました」

(どのような状況になろうと、自分のすべきことを果たすのみでございます)


 パルは深々と頭を下げ、謁見の間から出て行った。


 スメーラは一人、遠くを見つめ、


(あの者を、最初に襲うのは、苦痛、困難、孤独。

 しかし、それに動じず、喜びに変えてしまうのが、あの者の強さ、個性なのです)


 人それぞれ違う。ここでいう、『あの者』も、非常に個性的な強さを持っている。



 しばらくすると、淡い緑色の髪をした部下ーー覚師が入ってきた。スメーラは落ち着いた様子で、


「どうしましたか?」

(彼らが来る可能性は、97.87%を超えていましたからね)


 なぜ、部下が訪れたのか、スメーラは知っているようだ。覚師が資料を両手で抱えながら、


「あの者たちも、是非ということなのですが、いかがなさいましょうか?」

「幾つになりましたか?」


 スメーラは転生させる条件を満たしているかどうかを問うた。


「48と49です」


「では、行かせましょう」

(そちらならば、問題ありません。

 あの者たちも、心がずいぶん成長したのですね)


 スメーラは即答。覚師は少し戸惑い気味に、


「一週間前、話したポジションで、転生ということでよろしいでしょうか?」


「えぇ。ですから、急いでください」

(時間がありません)


「わかりました」

(これで、あとはあの者の……)


 覚師の脳裏には、ふんわり天使が浮かんでいた。


 バタンと閉まった扉を見つめて、スメーラは少し微笑む。


(覚師さんは、あの者に対して、どのような対応をするのでしょうか?)


 覚師にとっては、ふんわり天使はかなり予測しづらく、対処法を今でも練っていた。



 その後、スメーラはいくつかの仕事をこなした。


 ほっと一息つくと、別の人がやってきた。その人は、背丈が二メーター近くあり、髪はふんわりした金色ーーミラクル天使だ。慣れた感じで、


「そろそろ、ボクの番?」

「えぇ」


 にっこり微笑んだスメーラに、背の高い人は、ある人のことを質問。


「彼はどう?」

(しばらく、会ってないけど)


 スメーラはゆっくり首を横に振った。


「心配いりませんよ」

(対処法はかなり学んだようですよ)


「そう」

(大丈夫みたいだね)


 ふんわり天使は、春風のように微笑んだ。スメーラはひとつ忠告。


「計画を変更する時は、必ずレイト ザキレイを通して連絡するようにしてください。どちらの世界でも、話すことは出来ますよ。よろしいですね?」

「うん、わかった」


 背の高い人は微笑んで、扉へくるっと向き直り、スキップし始めた。


(ボクはみ〜んなとは少し違〜うさん♪

 だから、誰かが困った時は〜助けるさん。ふふふっ)


 誰もいなくなった謁見の間で、スメーラははるか遠くーーまるで別の宇宙を見るかのように、急に真剣な顔で、


(神の力を持つ者。

 あの者が、彼の者たちを狙ってくる可能性は97.83%でしょう)


 彼女は目線を戻して、きりっとした瞳に変わる。


(すべての者たちのために、あの者の攻撃をも利用します)


 シリーズ通して、世界は敵に常に狙われている。1では、カーバンクルの元老院に手を貸している。2では、セリルが直接殺されかけている。3では、ヒューの家族親族が犠牲になった上に、さらに何度か危機に陥れられた。


 スメーラ神はひとつでも負けることが許されていない。そのため、わざと、攻撃を見逃すことも戦略のひとつ。



 背の高い人が謁見の間を出て、廊下を歩き始めると、隣に、突如、紫色の髪をした人が現れた。月のように透き通った美しい肌。紫の髪は眉の上で、ぱつんと切られていて、腰のあたりまでの、サラサラのストレート。きちんとブラッシングされているようで、天使の輪が頭上に輝いている。


 ロングブーツに、細身の剣を腰に、細いパンツとフリフリの白いブラウス。いわゆる王子服。

 背の高い人は立ち止まって、親しみのこもった様子で、


「ボク、もう行くの」

「あら、そう〜」


 紫の髪の人は、気のない返事を返した。背の高い人は、嬉しそうな顔で、


「お話さん、出来るって♪」

(キミと話するの、大好きさんなの)


 紫の髪の人は、うんざり顔で、


「あの子の十七の誕生日まで、会えないわよ」

(あんたと話すと、頭の中がお花畑になるのよねぇ〜)


 この人物も、シリーズ1からきちんと転生している。だが、ある事情があって、亮の十七歳の誕生日まで、彼らのそばに来れない。


「楽しみさん♪ ふふふっ」

(みんな、仲良しさん♪)


 背の高い人はスキップしながら、去っていった。紫の髪の人は、その後ろ姿を胸キュンで、見送りつつ、


(変わらないわね、本当に。

 五千年経っても。

 子供みたいで、か・わ・い・い〜♡

 でもぉ〜……、196cmの身長で、スキップするの、やめなさいよ。

 お笑い担当になってるから。

 他の子にやらせなさいよ、あんたの可愛さが半減しちゃうわよぉ〜)


 悩ましくため息をついて、紫の髪の人は、廊下を美しく歩き出した。

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