第5話 SAN値直葬再☆来
「うぅ~ん・・・。ン?」
何か温かなモノに包まれているような気がして、俺は目を覚ました。
目を開けた時に入ってきたのは見知らぬ、けれど暖かな雰囲気がある木で造られた天井だった。
「知らない天井だ・・・」
こういうときの有名なセリフを言いつつ、柔らかでフワフワとした感触がするベッドの中で、天井と同じく木で造られている部屋を見渡しながら何故ここに寝ていたのかと、記憶を辿ってみるがよく思い出すことが出来ない。
「そういや世界樹の中に入ったのは確かだ・・・。そのあと何か・・があって気を失ってここに運ばれたんだろうなぁ・・・」
気を失う前に何か絶対に見てはいけないもの(クトゥルフ神話の異形な者達ばりの)を見てしまった気がするが、背筋に冷たいものが這うような感覚がしたので考えることをやめた。
「とりあえず、所持品は・・・」
ジジイからの贈り物が入ったくすんだ鼠色のずだ袋を探してみるとベッドの横にある机--これも木で作られている--の上に置いてあった。
中を確認してみると、手紙・服・剣・臙脂色の財布の4つは全部あり、何も盗られていないようだ。
「うん、全部あるな」
これらがないと全くの無一文なので安心しつつ、どうしようか悩んだのち誰か居ないか呼びかけてみることにした。
「すみませ~ん!誰か居ませんか~!」
しばらくして、カチャリと音がしてドアが開いた。
開いた先にいたのはウェンティとウェルティの二人だった。
こちらがベットから起き上がっていることを確認したウェンティ。
「どうやら目を覚ましたようね。吃驚したんだからね?精霊王様を見て急に倒れるんだから」
と言ってきたが、俺の記憶の中にはそんな人物は居ない。
「俺、精霊王様には会ってないはずだけど?」
「何バカなことを言っているの?さっき会ったじゃないの。あの大きくて筋肉に覆われた逞しい体、とてもユニークな髪形をしているけれど、溢れんばかりの女らしさを感じさせる乙女で、私達にとって偉大なお方よ」
その言葉聞いて気を失う前の事を段々思い出していく奏翔。
「・・・アレが精霊王なのか・・・・・・・・・?バケモノじゃなくて?」
その言葉を聞いたウェルティは苦笑したが、ウェンティは心底意外そうにしていた。
「あのお方のどこがバケモノなのよ。奏翔、貴方頭大丈夫?」
「・・・ウェンティお前こそ頭大丈夫か?アレが乙女な訳ないだろう!?いや、ある意味漢女なんだろうけどさ!感受性に何か問題があるんじゃねぇか!?」
「まぁ!奏翔、随分と酷いことを言うのね!いいわよ、貴方のことなんて知らないっ!フンッ!」
自分だけではなく、おそらく尊敬または好意を持っている人を侮辱されて怒ったウェンティはソッポを向いた。
「ご、ごめんウェンティ。俺が悪かったよ」
「フンッ!」
謝ったが、けんもほろろな返事(返答?)しか返ってこなかった。
ウェンティがこうなった以上、聞きたいことがあってもそれはウェルティに聞くしかなく、しかしウェルティは無口だ。
一応、返答してくれるのではないかと期待して質問してみる。
「あ~と、ウェルティ、精霊王様はどこに居るんだ?初対面で姿を見て失神するって滅茶苦茶失礼な事だから謝りたいんだが・・・」
ウェルティは意外そうにしながら俺の後ろを指差した。
後ろを振り返った俺が見たのはバケモ、精霊王の姿だった。
しかも俺の顔と精霊王の顔が非常に近いところにあり、今にもキスしそうな感じだった。
「ウアァァァァァァァァ!!「ドシンッ!!」ぐえっ!」
叫びながら全力でウェルティ達の方へと移動しようとして、ベットから床へ落ち、背中を打った。
「あら、酷いわねぇ。乙女の美しい顔を見て悲鳴を上げるなんて。あ、分かった!悲鳴を上げるほど美しいってことね!私ったらなんて罪作りな女なのかしら!」
「「それはねぇよ!!(それはないです精霊王様)」」
有り得ないことをのたまう精霊王の言葉を、俺とウェルティが即否定する。
「あら、残念。それにしてもウェルティが喋るなんて珍しいことがあるのね」
ウェルティが赤面してまた黙り込む。
「なんなんですか、このコントみたいなやりとりは」
ウェンティが会話に入ってきた。・・・俺を睨みながら。
「奏翔、ちゃんとしてください。まず、挨拶すらしてないでしょう。精霊王様は私達、精霊の頂点に居るお方、謝罪するもすると言っていたではないですか。嘘だったんですか?」
「それは・・・ごめん、そうするべきだったな。精霊王様」
「何かしら?」
ウェンティとのやりとりを笑いながら見ていた精霊王が纏う雰囲気が、おちゃらけたモノから真面目なモノに変化したのを、俺は肌で感じ取った。感じ取りながら膝を床につき、
「今までの非礼お許しください」
土下座をした。
その瞬間、精霊王が纏う雰囲気がまたしても変化した。
重圧を感じるような感覚がするほど、精霊王の威厳は凄まじいものだった。
生真面目な性格をしているウェンティが慕う訳だ。
背筋に冷たいものが流れるのがハッキリと分かった。
「許す、面を上げよ」
「はっ」
精霊王は面を上げよと言ったが、ここで上げるのは駄目ではないか?いつの時代か分からないし、西洋の作法がするべきなのか。それとも東洋、日本の作法をすべきか。それも分からなかったが、日本の作法を基にするとしたら一度目で上げるのは良くない。二度目を待つ。
「我が良いと言っておるのだぞ?面を上げよ。もしや、汝が居た国ではそれが普通なのか?」
「そうですね・・・。私の居た国では一度目で上げるのは良くないのです。なので二度目で顔を上げさせてもらいました」
「そうか。だが、我が良いと言っておるのだ。それにね、こんな茶番をしたところで何の意味があるのかしら?」
精霊王の雰囲気が急激に変化する。威厳たっぷりなものから先程のおちゃらけた雰囲気へと。
口調も王のソレからオカマ口調に変わっていた。
何と言う、切り替えの速さ。 思わず苦笑してしまった。
「(これが精霊王。確かにウェンティが言うとおり、偉大な人だ。外見からは想像もつかない。面白い人だ)そう、ですね」
「です、ますなんてつけなくていいのよ。私は貴方が気に入った。私は精霊王ではなく、奏翔、貴方の友達として接したいのだけれど駄目なのかしらね?」
「いや、こちらの世界に来て初めて出来る友達だ。断ると思うか?よろしく頼むよ・・・そういや、名前聞いてなかったな」
謝罪はしても、自己紹介をしてなかったことに今更気づく奏翔。
精霊王は苦笑しながら、
「精霊王としての真名は、【レヴィステン・コールブラン】。だけど、出来れば愛称の【レヴィネラ】って呼んでほしいわね」
「分かったレヴィネラ。俺は「波多野 奏翔でしょ、知ってるわよ」・・・そうか」
自己紹介する前にあっさりと名前を言われ、今度はこちらが苦笑する番だった。
「う~ん、なんて呼んだらいいのかしらねぇ・・・そうだ!かななん、なんてどう?」
レヴィネラが女っぽい愛称を提案してきた。
「普通に奏翔でいいだろう?」
「え~良いと思うんだけどねん?」
「こっちが嫌なんだ」
「なら仕方ないわねん。で、も、かななんって呼んじゃう♡」
「こっちの意見は無視か、まぁいいや」
苦笑しながら受け入れることにする。
「そういえば、ここは世界樹の中なのか?」
「そうよん。でも完全に世界樹の中であるとは言えないわねん」
「世界樹の中にある別空間か、空間の狭間ってとこか?」
「あら?分かっちゃったかしらん。そうよ、正解」
レヴィネラの含みのある言い方に、適当に考えて言ったことが正解だったらしい。
「かななん、今はゆっくりしていて頂戴。後でちょっと来て欲しいところがあるわん。場所が分からないだろうし・・・ウェンティ、かななんをあそこに連れてきてちょうだい」
「はっ、分かりました精霊王様」
レヴィネラはウェンティに言いつけ、ウェルティを伴って部屋を出て行った。
「ウェンティ、俺はもうひと眠りしたい。今日は色々ありすぎて精神的に疲れた。時間になったら起こしてくれ」
「・・・もう、自分勝手な人ね。仕方ないわ、時間になったら起こしてあげるわよ」
「すまんな」
ベットに横になり、俺は目を閉じた。やはり疲れていたのだろう、すぐに眠りに落ちた。
「奏翔、時間だから起きて」
2時間くらい経った頃だろうか、ウェンティが俺を起こした。
「ふぁ~あ、さて行きますかね」
欠伸をしつつ、ベットから降りる。
「こっちよ、ついてきてよ?」
「了解」
ウェンティが先導し、ついていく奏翔。
「なぁ、一体どこに連れて行こうとしてるんだ?」
「秘密よ」
歩いて数分後、奏翔達は荘厳な大きな両開きの扉の前に居た。
「ここにレヴィネラ様達は居るわ。絡まれたり、敵対視されたら面倒くさい奴もいるから気をつけてね?」
「了解」
「精霊王様、奏翔を連れてきました。入ってもよろしいでしょうか?」
「入って、入って~」
扉の向こうから間延びしたレヴィネラの声が聞こえた。
「失礼します」
「失礼します」
部屋の奥にはレヴィネラとウェルティ、それと見知らぬ人物が3名居た。
奏翔はウェルティに何か違和感を感じたが、気のせいだと無視することにした。
そちらの方向へ進んでいく奏翔達。
レヴィネラ達の前まで来ると、ウェルティに感じた違和感の正体が分かった。
出会った時の体のサイズではなく、人間と同じサイズになっていたのだ。
どうしてそうなっているのか、と考えたその時、ウェンティがレヴィネラの傍に行き、発光した。
光が収まった時にはウェンティのサイズは俺より少し低いくらいの身長になっていた。
「・・・マジかよ」