閑話 逸史のその後
この話は割り込みでぶち込んでいる閑話です。
「なんでだ・・・。なんで俺達を庇って逝っちまったんだよ、奏翔・・・」
先ほど命の恩人であり、親友でもある奏翔の葬式が終わった。
奏翔の両親は事故で亡くなっており、弟や妹はいない一人っ子で、祖父母も既に寿命を迎え亡くなっていた。
葬式は親戚がとりおこなっており、皆悲しげな表情を浮かべていたが、内心は真逆だっただろう。
奏翔の家は裕福であり、両親が亡くなった時の保険金も入ってきたので、資産は物凄いことになっていた。
それを継ぐ権利があったのはもしもの時のために用意してあったらしい、両親の遺言で資産は全て奏翔の総取りとなっていた。そのため、親戚には奏翔のことを疎ましく思っていたのだ。
その時だ、奏翔が俺たちを庇って亡くなったのは。
これで資産は親戚たちが相続することが出来る。
おそらく、この後、凄まじい修羅場が起こるだろう。
裁判に次ぐ裁判。もし勝ち残ることが出来れば莫大な資産が自らの物となるのだ。
「「「チャンスが巡ってきた」」」
それが親戚たちの思っていたことなんだろうな、逸史はそう思っていた。
血が繋がった人たちは誰も奏翔が亡くなったことを悲しんでいない。
奏翔を知ってるクラスの連中の方が親戚らしいと言われても納得できるほどに。
あの時を振り返る。
奏翔は、俺達の前で勢いよくはね飛ばされ、近くにあった建物の壁に叩きつけられた。慌てて駆け寄り、首元を触ってみたが、脈が完全に止まっていた。
即死したようだった。
だが、諦めれるはずが無く、彼女に救急車を呼ぶように言いつけて、自分は人工呼吸をした。
人工呼吸をした時には愕然とした。
普通ならば肋骨の固い感触があるはずなのに、全く無いのだ。
ただ、胸を押す時にベコベコと、空気が少し抜けた大きなゴム製品を押しているように思えた。
しばらく時間が経った頃、何処からか救急車のサイレンの音が聞こえ始めた。
人工呼吸を繰り返していたが、意識が戻りそうな気配は全くなかった。
彼女はただ、泣いていた。
俺はソレが腹立たしかった。
何故、動かない?
何故、泣いてばかりいる?
何故、何も解決策を出そうとしない?
コレが八つ当たりだと気付いていたが、消えることは無かった。
俺の心を、その八つ当たりがグルグル回っていた。
数分後、救急車とパトカーが来た。
警察官は無線で何かを言っていた。
多分、応援の要請でもしてたのだろう。
救急隊員2人が、担架を持って降りてきた。
2人は奏翔の姿を見て、息を飲んだ。
俺が必死に見ないようにしていた部分を見て、だ。
奏翔は、手足が本来曲がらない方向に曲がっていた。
酷い所では、グルリと捻れられ千切れかけてすらいた。
一言で表すならば、凄惨。
そう表現するしかないような状態だった。
救急隊員達は、何かを喋っている。
そして、首を横に振った。
「既に手遅れだ」
その言葉が耳に入り、俺は呆然とした。
そのうち、サイレンの音に導かれたのか、野次馬も来た。
野次馬達は凄惨な現場を見て息を呑む者、目を伏せる者、写真を撮ろうとする馬鹿野郎など、様々な反応を見せた。
俺は、野次馬達に対してブチ切れる寸前だった。
友人の遺体を好奇心で見ようとするのだ。
誰だって怒るだろう。
ましてや、自分達を庇って亡くなったのだ。
自分自身に対しての怒りが野次馬に向かいそうになるが、堪える。
そのうち、応援の警察官がやって来て野次馬達を現場から離そうとし始めた。
写真を撮ろうとする野次馬に対しては、「写真を撮らないでください」と注意を促していたが、それでも撮ろうとする野次馬に俺はキレて、殴ってしまった。
すぐさま警察官が間に入りそれ以上何もする事が出来なくなったが、俺はソイツを睨みつけ続けた。
最初は殴られて怒って、怒鳴り散らしていた野次馬は周りの冷たい目線に気付き、そそくさと退散していった。
その後、奏翔の遺体を救急車に積んだ救急隊員は、俺と彼女に、どうしますか?と訊ねてきた。
どうしますか?と訊ねられても知るか、がその質問を聞いた俺の心境だった。
が、どうやら、一緒に乗って病院へ行くか?そんな感じの質問だったらしい。
もう一度、今度は乗っていくかと問われ、先ほどの質問の意味を理解した。
「はい」
そう答え俺は救急車に乗るが、彼女は弱々しく首を横に振る。
「家に帰りたい」
そう彼女は答えた。
奏翔の事がかなり心に負担をかけているようで、顔色は白く、体は小刻みに震えていた。
その後、色々あって警察官が彼女を家に送ることになり、俺は救急車に乗って病院へ向かった。
病院について、1時間ほど待たされた。
体の状態を聞いた。
全身の骨が完全に折れており、酷いところは粉砕されていたらしい。
血管は千切れ、筋肉は断裂。跳ね飛ばされた時に地面に転がったため、皮膚が抉れているところもあった。
医師は言った。
「ここまで酷く損傷しているのに、原型を留めているのが不思議」
と。
普通であれば、トラックにぶつかった時にぺしゃんこになり、地面のシミのようになってもおかしくなかったらしい。
そう医師に言われて俺は、ただ泣いていた。
しばらくして、警察官が俺を訪ねてきた。
事件起こった時の事を知りたいらしい。
俺は淡々とあの時の状況を説明して言った。
2時間くらいで事情聴取は終わり、警察官はご協力ありがとうございますと言い、帰って行った。
◆◇◆
数日たった。
未だに奏翔の事故の様子が頭から離れない。
何度も夜中に夢を見た。
奏翔が何故俺が死なないといけなかったんだと、睨んでいるような夢だった。
その時は必ず飛び起きるような感じで眼を覚ます。
背中には冷たいものでじっとりと濡れていた。
今日も学校に行く前に奏翔が亡くなった場所へ足を運ぶ。
花を添え、黙祷する。
黙祷を終え、しばらくそこに佇んでいると思うことがある。
こうなったのは俺のせいなんだ、と。
何度も何度も自分を責めた。何度も何度も後悔した。
毎日こうしてここに訪れ、黙祷を捧げ、懺悔しても心がどんよりと曇るような気しかしない。
あの時居た彼女とも別れた。辛かった。
顔を合わすだけで奏翔の事故が脳裏に浮かんでしまうから。
それは彼女も同じだったんだろう、自然と関係は消滅した。
これからどうしよう。奏翔への償いは何をしよう。何をすればいいんだろう。
そんな思いが心を支配していた。
その時だ、奴が俺に声を掛けてきたのは。
奴は黒かった。
黒を基調とした執事服を着て、黒い手袋をはめており、黒い山高帽を被ったおかしな格好をした男だった。
奴は言った。
「奏翔君を生き返らせることが出来るかもしれない。ただ、君が努力をすればね」
それを聞いたときに思ったことは、こいつはキチガイか?それとも厨二病なのか?からかっているのか?
だった。
「キチガイでもないし、厨二病患者でもないよ?からかってるわけでもない。僕は君が可哀そうで仕方がないんだ。君はいつまでも奏翔の事を引きずるだろうからね。解決策を提示してあげよう思っただけさ。ま、君次第なんだけどね」
心を読まれたんじゃないかと思うほどに、心に浮かべていたことに対する返事がきた。
そして、解決策というものに興味を抱いた。
「どうすればいい?」
「君を異世界に送るんだよ」
至極当たり前のことを言ってるかのようにおかしなことを言う執事服の男。
「(こいつは神なんだろうか?)」
「そうだね、君たち風に言うなら神様なんだろうね」
また、心を読まれ返事をされた。
「そうか、なら聞く。俺が異世界に行ったとして、確実に奏翔を生き返らせることが出来るのか?」
「さっきも言ったけど、君の努力次第だよ?君が頑張れば頑張るほど生き返らせる事が出来るようになるかもしれない。でも、君がそれを選ばないなら・・・」
最後辺りで執事服の男は肩をすくめた。
数分間、いろいろ考えて、決断する。
「・・・分かった。俺を、異世界に送ってくれ」
「そういうと思っていたよ。君に対するちょっとした贈り物がある。異世界に行ったら身の回りをよく調べてね」
俺の張りつめている表情を見て、笑顔で執事服の男が言った。
「今すぐ送ってもいいんだけどさ?家族に何か伝えたいことがあるのならそれを言ってからでも構わないよ?それと、伝え忘れていたけど、異世界に行ったら君の存在は無かったことになる。勿論、こっちの世界に帰ってきたら君の存在は元に戻るけどね。どうする?」
「構わない、今すぐ送ってくれ」
おそらく最終確認なんだろう、その質問に即答する。
「OK。じゃ、いっくよぉ~」
気が抜けるような掛け声を執事服の男が発した瞬間、俺の足元に直径2mほどの魔法陣の様なものが現れた。
段々意識が遠のいていく。
最後に思い浮かべた思いは・・・
「(俺が絶対に生き返らせてみせる。それが俺の罪滅ぼしだ)」
そして、目の前が真っ暗になった。
お読みいただきありがとうございました。
レビュー、ブックマーク等頂ければ嬉しいです(笑)
よければ、Twitterのフォローお願いします。
@Ishiyama_kakeru
更新した際の報告、小説に関わる報告等をしていく予定です。
アンケート等を行うことがあると思います。(例:クリスマスとかの季節的な閑話を作るか、どのキャラの閑話を作るかなど)
様々なアンケートを行おうと思っていますので、していただけたらなと(汗)