第十六話 聡、千夜vsゴーレム
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俺は千夜と一緒なのは安心したが、浩介と夕陽の二人と分断されたことに焦りを覚えた。
ゴーレムは硬い。かなり硬い。その硬さだけで討伐には最低でもCランクは必要と言われている。
「聡君。あのゴーレム普通じゃないよ」
「ああ。魔法を使える時点で普通じゃないのは確定だ。胸の中心にある玉を壊せば止まると思うけど……」
「普通じゃないからね。それを壊しても動きそう。ゴーレムから攻撃を仕掛ける気はなさそうだけど、私と聡君が動けば、攻撃して来そうだね」
そう。ゴーレムは土の壁を造ってから、腕をクロスさせた状態でその場から動こうとしないのだ。
それが不気味と言えば不気味だ。
壁を壊そうとしたり、近づいたりすれば動きがあることは想像に難くない。
なら答えは一つだ。
「夕陽ちゃんと浩介君と合流するためにも早くゴーレムを倒さないとね」
「そうだな。浩介と夕陽はあの強そうな人と戦ってる。早く加勢に行かないとな」
俺と千夜はそれぞれの武器を構えた。
足下に魔法陣が浮かび上がる。
「”付与・全能力上昇„」
千夜の支援も十分だ。やってやる!
足の裏の魔力を爆発させ、加速しながらゴーレムに迫る。
ゴーレムは目算で体長4m前後。
だからこそこれを使える。
「血駆!」
俺はゴーレムの両足をすり抜け様に斬りつけるが、弾かれた。
アダマンタイトで作られたこの剣で傷つかないとは。
「聡君っ!後ろ!」
「しまっ」
一瞬の隙にゴーレムの右拳が目前まで迫っていた。
俺は咄嗟に左腕を掲げ、名称を言わない簡易的な防御魔術を発動。
防御能力は1/10まで下がるが、魔力を倍以上消費することでそれを上げる。
「ッッ!」
ゴーレムの拳が接触した瞬間に、その拳の振り抜く先へと自ら跳ぶことで、可能な限り受け流すが、上手く体勢を制御出来ず、そのまま地面に激突した。
追撃を仕掛けようとしてきたゴーレムは、連続して起こるウインドボムによって、足止めされていた。
直後に千夜の回復魔術が俺の傷を癒す。
すぐに調子を確かめる。問題ない。まだやれる。
今のでやられたら、浩介に見せる顔がない。
虚空から出現した鎖がゴーレムをその場に縛り付けた。
千夜の捕縛の鎖だろう。
「千鶴!」
ゴーレムに駆け寄り、左足の同じ箇所に三連突きを放つが効果は無さそうだ。
「これならどうだ!」
左拳に魔力を溜め垂直に殴る。
衝突した瞬間に溜めた魔力を解放。魔力を伴った衝撃を内部に浸透させることで、内部から崩壊させる。
ゴーレムは左足が崩壊したことで体勢を崩しそうになるが、鎖に縛られていて倒れずにいる。
右足も同じように殴ろうとすると、
「かはっ!」
千夜の悲鳴が聞こえた。
慌てて見ると、地面に描かれた魔法陣から突き出た、何本もの細い棒に腹部を強打され、そのまま宙へと打ち上げられる千夜の姿が見えた。
「千夜ッ!」
縮地で近寄り、地面に体を打ち付ける寸前の千夜を左腕で抱きとめ、その場を離れる。
千夜は苦しそうにしている。
右手に持った剣を地面に起き、右手を千夜の腹部に添える。
「”ヒール„」
右手の先から回復魔術を使うことで、腹部を集中的に癒す。徐々に痛みが取れてきたのか千夜が薄く目を開いた。
「”ウォール„」
何故、と思ったが、千夜が展開した障壁に遅れて何かが当たる音が聞こえた。
「ゴーレムが……けほっけほっ……ロックカノンを使おうと……けほっ……してたから」
「ありがとう」
「ううん……聡君もけほっ……ありがとう」
その間にもゴーレムの魔術が障壁にぶつかる音が聞こえる。
痛みが消えたのか立ち上がろうとする千夜に手を貸し、ゆっくり立ち上らせた。
ゴーレムを振り返ると、千夜の集中が切れたためにバインドの効果が切れているのは分かっていたが、既に左足が再生していることに驚きを隠せない。
ただでさえ硬いのに、再生能力まであるとは……やはり玉を破壊するしかないみたいだ。
それでも動いたら、その時はその時でどうにかしよう。
一度剣を鞘に戻し、右手の先に魔力を集める。
光り輝く魔力が集まりスフィアが生成された。そこに更に魔力を流し込み、
「”ホーリーレイ„」
スフィアから放たれた光線が砂埃を巻き上げながらゴーレムの玉に向けて直進する。
玉に直撃した光線だが、遠くからでは傷を付けることが出来たのか分からない。いや、少し動きが鈍い。多少は傷つけることが出来たみたいだ。
となると玉さえ破壊すれば動かなくなりそうだな。
「この距離だと破壊出来ないんだね」
「近づいて撃つしかないな」
「そうだけど……」
突然、俺と千夜の真上が暗くなる。疑問に思い真上を見ると、巨大な岩石が落ちてくる所だった。
「”円形魔力盾„!」
千夜が咄嗟に魔力盾を真上に構築し、落下して来た岩石を防ぐが、魔力盾はミシミシと音をたてている。長くは持ちそうにない。
千夜を横抱き……俗に言うお姫様抱っこをして、全力でその場を離れる。
背後からパリンという音が聞こえた。意外と早い。
大地に落下の衝撃が伝わり、転びそうになったが踏みとどまる。
さっきのは上級に分類される魔術だ。
「”ミラージュ・ハイド„」
千夜の魔術で俺たちの姿が周りに溶け込むようにして消え、前方に俺たちと全く同じ姿をした幻影が生み出された。
「これでひとまず大丈夫だな」
「そう……思いたいね」
一応ゴーレムは幻影に向けて魔術を撃っている。何度も言うがあのゴーレムは普通じゃない。そう長くは隠れられないだろう。
今気づいたが、抱っこしてそのままだったから、千夜の顔が近い。こんな時に何言ってんだと思われるだろうが……まあ可愛い。
黙ったままの俺を変に感じたのか、千夜が顔を向けてきた。視線が合う。今の状態に気づいたのか千夜の頬がほんのりと赤く染まる。
「下ろすな」
「うん」
そっと下ろす。
恥ずかしい。……いやいやいや、こんなことをやってる場合じゃない。
幻影の方に顔を向けると、岩に貫かれる姿が目に映った。が、次の瞬間、また別の幻影が出現し、ゴーレムを引き付けている。
「ふぅ。千夜、援護頼む」
「分かった。気をつけてね」
多くを言わなくても千夜は分かってくれる。だから俺は千夜に安心して背中を任せられる。
ミラージュ・ハイドはまだ切れていないのを確認してゴーレムへと両手の先にスフィアを生成し、魔力を集束させながら駆ける。
「”チェイン・バブル„」
千夜の声と共にゴーレムの周辺に幾つもの泡が漂い、そして、弾けた。一つが弾けるとそのまま連鎖していき、全ての泡が弾けた。
「”捕縛の鎖„」
チェイン・バブルによってゴーレムに生み出された隙を付いて、再び縛り上げる。
この間、僅か10秒と少し。
千夜のおかげでゴーレムの抵抗にあわずに済んだ。
四つん這いの状態にされたゴーレムの背に飛び乗り、核の前に両手を突き出し、俺は魔術を撃つ。
「”ホーリーレイ„!」
零距離からのホーリーレイ。
確実にゴーレムの核を削って行っているが……ダメだ!核の修復機能が予想以上に早い。
修復機能に押し切られないよう、更に魔力を注ぎ込む。
「ウォォォォォ!!」
よしっ!
核の修復機能を上回り、早いペースで削り取っていく。ただ、この魔術は元々魔力消費が多い。こうしている今もガリガリと俺の魔力は消費されている。
浩介と夕陽も心配だし、時間はあまりかけられない。
「ォォォオ!!」
残りの魔力なんて気にせず、更に制御出来る限界ギリギリまで注ぎ込む。
それが功を奏し、核を完全に削り切り、消滅させることに成功した。
「はぁはぁ」
やばい。
魔力を短時間で大量に消費し過ぎたせいで物凄く疲れた。身体がダルい。
「聡君!やったね!」
千夜が近寄って来るのが見えたから、千夜の近くに飛び降りる。
「わっ!ととと」
「だ、大丈夫?」
「ふぅ。ありがとう。ちょっと疲れただけだ」
飛び降りたのはいいが体勢を崩して、正面にいた千夜の胸に顔を埋めるようにして倒れ込んでしまった。離れようとするが、そうすると倒れ込みそうになり、肩に手を回して支えてもらう。
さっきもあったが、俺は千夜の顔が近くてドキッとした。
上気して白い肌が僅かに赤くなっている。汗をかいているみたいだけど、しっとりとしていて嫌な気はしない。それに、髪からはえも言われぬ良い香りがする。
「さ、聡君!」
「な、ななな何でしょうか!?」
「どうしたの?じゃなくて!壁が崩れ始めてるよ!」
土の壁が崩れ始めているのを見て、ゴーレムを倒したんだと実感できた。
そんな最中、向こう側から飛んでくるものが見えた。あれは……魔術だ!
「”ルミナスシールド„!」
俺が展開した光の盾に飛んできた魔術が着弾。
防ぐことができた。
急いで浩介と夕陽の状況を確認する。二人とも魔力をそれなりに消費してそうだ。
俺は疲れた体に鞭を打ち、
「千夜は二人を頼む」
「うん!」
千夜は二人のもとへと駆けて行く。
俺は鞘から剣を抜き、敵へと向けて構える。
「聖王流……初の型」
一歩踏み込むと同時に足裏で魔力爆発を起こし、
「迅雷一閃ッ!!」
"ホーリーレイ„
光・聖属性混合中級魔術。
射程は最大でも中距離。一応、長距離でも使用は可能だが威力が減衰する。
スフィアを生成。そこに魔力を集束させるという二段階の工程を踏んだ後に撃つ。
高威力の貫通砲として使用されることが多い。
事実、この魔術は貫通力に優れており、零距離であればSランクの魔物すら戦闘不能に陥れることができる。
その分、魔力消費量も多い。
この魔術にはバリエーションが幾つかあり、そのうちの2つが最上級魔術法として登録されている。それは魔力と魔素の同時操作・制御を必須とする。
血駆
聖王流剣術番外。
相手の股下を通り過ぎながら両足の健を斬る。
縮地
一歩。たったの一歩で離れた距離を詰めることができるという技術。魔術ではない。
ただ、直線でしか移動出来ないため、間に障害物があったり、作られたりすると止まれずに突っ込むことになる。
聡は幼少の頃から休日に父から教わっており、愚直に努力を積み重ねることで使用出来るようになった。
ただし、連続では出来ない。