第十五話 浩介、夕陽vsアインス
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浩介と聡は少女が名乗っている間にアイコンタクトを取り、聡が少女を、浩介がゴーレムを受け持つことを決め、同時に動こうとした。
したのだが、
「参ります」
ドパンッ!ドパンッ!
浩介と聡の動きを制するかのように、二丁の魔導銃を二人の足下に撃った。
魔導銃の照準が今は浩介と聡の二人に向けられているため、二人は無理に動けない。
見かねて、千夜が魔法を、私が魔導銃を構えた瞬間、ファイティングポーズをとっていたゴーレムがその右拳を地面に叩きつける。
「うわっ!」
「危ない!」
浩介と聡の間に魔法陣が浮かび上がり、そこから土の壁が出来上がり、浩介と私、聡と千夜で分断された。
「私の担当は先程も言った通りです。ゴーレムの方に行かせるはずがない。あ、殺すつもりはありませんので大丈夫ですよ。安心してください」
「そう……なら!」
私は、構えていた二丁の魔導銃の銃口に小さな魔法陣を展開し、魔弾を媒介に魔法陣から魔術を放つ。
「"レーザー„!」
魔導銃から放たれた二条の光線が彼女へと突き進むが、彼女はそれを見ずに右手の魔導銃を向け、瞬時に魔弾を媒介にして同じ魔術を放った。
「”レーザー„」
彼女から放たれた光線は同程度の魔力が込められていたのか、私の放った二条の光線を相殺した。
(やっかい……魔導銃と魔力制御の技量も……どっちも確実に私より上……しかも魔力も多い……)
今ので彼女との実力差を感じ取り、額には冷や汗が滲み出る。
(目を逸らしたら……一瞬でやられる。どうする……?)
「来ないのですか?では、こちらから行きましょう」
目を逸らしたわけではなかった。気づいたら────目の前にいた。
「っ!」
「ふっ!」
「……かはっっ」
「夕陽ィィ!!」
反応が出来なかった。
感触から、彼女の蹴りが直撃したことが分かる。
浮かび上がった私の体は放物線を描きながら十数m先の地面に落下する。
痛い。なんの防御も出来ずに蹴りが直撃した腹部が凄く痛い。地面に落下した際の衝撃であちこちが痛い。かすり傷もある。
視界が滲む。
「”ヒール„」
でも、気休め程度の回復魔術をかけて立ち上がる。
前を見ると浩介が彼女にあしらわれている姿が目に映った。
「クソっ」
「筋はいい。でもまだまだですね」
「ブイスラッシュ!」
袈裟斬りから即座に逆袈裟に斬り上げる。
彼女は完全に見切っているのだろう。余裕の表情でそれを躱している。
「”ブースト„”アクセル„」
私は身体強化の魔術を使い、彼女へと近づく。
一歩で距離を詰めて、彼女にほぼ密着した状態で引き金を引く。
普通なら躱せない距離。どうにも出来ない距離。なのに、気づくと彼女はそこにいない。一瞬で移動したようだ。いったい……どこに?
後頭部に冷たいものが当たる。
それが魔導銃だと気づく。動くに動けない。私が何かをする前に、装填されている魔弾が私を貫通する方が早いから。
「私にあれを使わせるとは少々見くびっていましたね。さて、これが貴方達の実力ですか?」
「そうだッ!だから夕陽から離れろッ!」
「いいでしょう」
後頭部に当たっていた魔導銃が離れる。
振り向くと、彼女は数m先にいた。
簡単に解放されるとは思ってなかった。浩介は怪訝そうな顔をしている。多分、私も同じだ。
「引き返すなら今ですよ?」
何を言いたいのかは理解出来る。
私達が戦おうとしている終焉魔王は彼女と同等、いや、それ以上の実力を持っているのだろう。
だからこそ、船に乗って国に、家に帰るなら今だけしかないと、すぐに帰れるのは今だけだと彼女は言っている。
「引き返さない。確かに俺たちは弱い。だからって友達おいて帰れるかよ」
「友達のため……ですか。貴女もですか?」
私は……どうしたいのだろうか。
聡、千夜、浩介の三人は、小さい頃からの友達。初めての友達。
無口で無表情だった小さい頃の私には友達なんていなかった。
近づく人はいてもすぐに離れていった。
私が笑うようになったのは、誰かと話すようになったのは三人のおかげ。
三人はよく私を交ぜて遊んでくれた。
今の私がいるのは確かに三人がいてくれたから。
なら……決まってる。
私は────
「私も……私を受け入れてくれた……友達のために」
彼女は呆れている。
「友達のため……まあいいでしょう。当初の予定では貴方達の実力を判断するだけ、でしたが……気が変わりました。かかって来なさい。稽古を付けてあげましょう」
稽古を付ける。敵のはずの彼女の言葉には驚いた。でも、私達は弱いままでいられない。
浩介が私の隣に立つ。浩介の顔を見ると、浩介も私の顔を見た。
考えていることは同じみたいだ。
なんで稽古を付けてくれるのか、それは分からない。でも、付けてくれると言うのなら付けてもらうだけ。
「「よろしくお願いします!」」
彼女は何故か……笑っていた。
「このくらい突破してみせなさい」
彼女が展開した多数のスフィアから放たれ続ける数多の魔術弾。
それを前に私と浩介は防戦一方となっていた。
「最低限これくらいはどうにか出来るようにならないと、この先やって行けませんよ?」
「そうは言ってもっ!」
これを一掃するにはどうすれば……。あっ。一つだけある。
「浩介」
「分かった」
流石は浩介。名前を呼んだだけで私の言いたいことを分かってくれる。嬉しい。
浩介は私の前に立って、私に当たりそうな魔法弾を障壁で防いだり、剣で斬ったり弾いたりしている。
私は浩介を信じてやれることをやるだけ。
「第一のセフィラを守護せし天の使いよ」
一つ、また一つと純白の光を放つスフィアが宙へと出現する。
引き金を引く。
これは魔弾を撃ち出すわけじゃない。私だけじゃこの魔術を使えない。
「暗闇の中に指すただ一筋の光よ」
だから、魔弾に込められている私の魔力も使用する。
「主の代理として我が敵に神罰を与えん」
今の私が出現させられるのは十個にも満たない。
「均衡の柱。至高の大三角。象徴たるは王冠」
さっきよりも弾幕が激しくなっている。
浩介は私を背にして魔術弾を防いでくれているからボロボロだ。
「真実を記す者。正義の執行者」
今ここに、母さんから教わった魔術は成る。
「”正義と真実のみ記す第一の柱„」
スフィアから放たれた幾筋もの光線が魔術弾を撃ち続けるスフィアを貫き消滅させる。
彼女にも殺到したが、彼女はほとんどどうにかするだろう。
今ので砂埃が舞散り、前が見えない。
浩介は目の前にいるはずだけど……分からない。
風を起こして散らそうかと思ったタイミングで急に片腕で抱き寄せられる。
体格、匂い、この安心する感じからして浩介だ。
いつまでそうしていたのか。気づいた時には砂埃は晴れていた。
「今の魔術は凄いですね。発動出来ればそれなりに脅威となりますか。残念なのは、その真価を発揮しきれていない点ですが」
浩介は私を片腕に抱きながら、片手で持つには大きい剣を構えている。
彼女を見ると、埃ひとつ付いてなかった。
「私の使っていたバレットショット・ガトリングを使えるようになって欲しかったのですが、こちらもまあいいでしょう。今から特大のを撃ちますので……防御してください」
そう言うと彼女は多重魔法陣を正面に展開した。
「夕陽。力を貸してくれ」
「分かった」
「「”多重魔力障璧„」」
今の私と浩介が使える、大量の魔力と引き換えに、内側になるにつれ強度が増す魔術障壁を何層も重ね合わせ、全面に展開することでありとあらゆる攻撃を防ぐ、最硬の防御魔術。
対するは、
「”サンダー・デストロイヤー„」
雷属性最上級貫通砲撃系魔術。
撃ち出された直射状の極太の雷撃が障壁に直撃した。
一枚目の防壁にヒビが入り、砕け散る。二枚目、三枚目……十枚目。威力が減衰しているのは分かるが……まだまだ迫る。
更に十一枚目、十二枚目……十八枚目が砕け散り、十九枚目で、ようやく止まった。
今の多重魔力障壁は、二人分の魔力を消費したということもあり、一枚一枚が上級の貫通砲撃系魔法をすら防ぎきる程の強度を誇る。
それが十八枚も砕け散ったのだ。その威力がどれほどのものなのか、想像に難くない。
「全力ではないとは言え、これを防ぎますか。素直に賞賛しましょう」
私の魔力はさっきの正義と真実のみ記す第一の柱と今の多重魔力障壁で半分以上魔力を消費して、三割も残っていない。
彼女何かに気づいたのかゴーレムが魔法で築いた土壁に目を向けた。
「意外と早かったですね。もう少しかかると思ったのですが」
その呟きを耳にした直後、10m以上あるだろう土壁が崩れさった。
奥に人影が見えた瞬間、彼女はその人影に向けて、
「”バレットショット„」
魔術を放った。
"ブースト„
身体強化魔術。
“アクセル„、”ストレングス„、”ハードスキン„全てを兼ね備えた魔術であり、身体強化魔術3種よりも消費する魔力は多い。
発動時に消費する魔力によって、全能力を2〜3倍近く向上させる。
発動中は魔力を消費し続ける。
副次的な効果として、動体視力の強化、思考速度の上昇がある。
“アクセル„
身体強化魔術。
発動時に消費した魔力によって、敏捷性を1.5〜2倍近く向上させる。
発動中は魔力を消費し続ける。
副次的な効果として、動体視力の強化、思考速度の上昇がある。
”ストレングス„
身体強化魔術。
発動時に消費した魔力によって、筋力や筋繊維の強度を1.5〜2倍近く向上させる。
発動中は魔力を消費し続ける。
”ハードスキン„
身体強化魔術。
発動時に消費した魔力によって、皮膚や骨の強度を1.5〜2倍近く向上させる。
発動中は魔力を消費し続ける。
身体強化魔術は全て併用可能。
よって、これら4種を発動すると身体能力が最大で6倍近くは向上する。
“正義と真実のみ記す第一の柱„
光属性最上級殲滅魔術。
純白のスフィアを多数展開し、そこから数多の光線を撃ち出し広範囲に渡る敵を殲滅する。
この魔法は『巫女』に連なる者のみ発動出来るが、巫女でも極一部の者にしか発動出来るない。
夕陽は先祖代々から続くオリジナルとだけ教わっており、自身が巫女であることを知らずに育った。