第一話 始まり
「なんて…………事だ……」
とある人物の報告に、会議場へと集まっていた者達の表情が曇っていき、暗い空気が漂い始める。
「これは本当の事なのか?」
この事実を報告した者は力無く首を振りながら肯定する。
「残念ながら事実だ」
更に暗い空気が会議場を包み込む。
「『終焉魔王』の封印を何者かに解かれた。それは想定内だが……これは……」
「準備は整っていないが、予定を早めるべきだろうな。今代の勇者は行方不明……なら、その息子をあれとの決戦までに仕上げるしかない」
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ジリリリリリリ
「あぁもう五月蝿いな」
カチッ
「もう少し寝よう」
ドタタタタタタ バタン
「こら!もう朝なんだから起きようよ!」
「千夜〜。あと5分だけ寝せて」
「さ〜と〜し〜君!今すぐ起きないとこの部屋ごと氷漬けにしちゃうよ〜♪」
「分かった!分かったから魔力を集めるな!」
「すぐに起きればいいんです〜」
こいつが毎朝起こしに来る幼馴染みの水上 千夜。
水、風、聖、無、魔の5つの属性に適性を持つ奴で、綺麗な茶髪を三つ編みおさげにしている。
更に眼鏡もかけていて学級委員長なので、皆からは名前ではなく「委員長」と呼ばれている。
柔和な性格で優しいのだか、戦闘実習になると笑顔で潰しにかかってくるから意外と怖い。
先月はバトルロワイヤル形式の実習だったのだが、それで何人もの生徒が脱落してた。
相手の顔を水で包み込むとか人としてどうかと思う。
「下で叔母さんと先に食べてるから早く下りてきてね」
「分かった分かった」
そう言ってさっさと下りていった。
「はぁ〜。どうして毎日起こしに来るんだろうなぁ」
これは永遠の謎だ。
数年前に実際に言ったら泣かれて母さんに怒られた。
以降は思っていても本人の前では口にしない。泣かれても困るから!……いや、まあ八割くらいは嬉しいけどね!
着替えが終わったので下に行く。愛剣、生徒手帳、鞄も忘れずに。
「今日の朝ごはんも美味しいですね♪」
「あら〜やっぱり千夜ちゃんはいい子ね〜。聡のお嫁に欲しいなぁ〜」
何故チラッとこっちを見る。千夜が赤くなってるじゃないか。
「母さん。千夜に失礼だよ」
バタン
千夜が頭をテーブルにぶつけたみたいだ。痛そうだなぁ。
「はぁ〜〜。あの人の子供ながら最低ね」
実の母親が息子に向けて侮蔑の目を向けて来た。その目から逃れようと時計を見ると時間がすぐそこまで迫っていた。
「ち、千夜!そろそろ出ないと学校に遅れる!」
「あ、あ、本当だ!叔母さんご馳走様でした!」
千夜と走って家を出る。
「聡も千夜ちゃんのこと好きな筈なのに……はぁ。お互いいつになったら気づくのかしら」
母さんが何か言ってるような気がしたが身体強化して走ってるから何を言ってるのか聞こえなかった。
ガラガラ
「ま、間に合った」
汗がヤバい。目に入る
「聡くん。このハンカチ使って」
「あ、千夜ありがと」
「うん」
今の笑顔に不覚にもドキッとしてしまった。たまにあるんだよなぁ。こういう事。
「お!2人とも今日も一緒に登校か?結婚しちまえ(笑)」
「おい浩介!母さんと同じこと言うなよ!」
「そう……だよ?何で付き合わないのか…不思議。ねぇ……浩介」
「そうだよなぁ」
「夕陽まで…………」
この2人も幼馴染みだ。男の方が春日井 浩介。燃えるような赤い髪が特徴だ。あとイケメン。
火、大地、無、光の四属性に適性を持っている。
大剣を主に使い、並み居る敵を蹴散らすというやり方がなんというか外見とマッチしない。
で、女の方が村上 夕陽。透き通るような緑髪をしている。
水、風、雷、空の四属性に適性を持っている。
魔導銃を使い全員の攻撃支援や、無属性魔法の身体強化を使って接近戦をしたりする。
2人とも頼りになるし、大体はこの4人で一緒にいる。
キンコーンカンコーン
チャイムが鳴った。もう少しで先生が来る。
「ほら全員席につけ」
「起立、注目、礼」
「「「「「おはようございます」」」」」
「着席」
「朝のHRの前に伝えることがある。聡、千夜、浩介、夕陽の四人は放課後、学院長室まで来るように。今日は時間割変更で3時間授業になった。残らないですぐに帰るように」
放課後に残れって何かしたかな?駄目だ、記憶にない。
その日の授業は全て頭に入らなく、そのまま迎えた放課後。
「聡!早く行こうぜ!」
「そうだな。さっさと行くか」
他愛ないお喋りをしながら廊下を歩く。呼ばれたのは俺達四人だけなのか、他の皆は既に帰ったか帰る途中だった。
「なんで私達だけなんだろうね?」
「さあ?あの学院長の考えてる事はぶっ飛んでて分かんねえよ」
(浩介その言い方は流石に酷いと思う)
浩介の物言いに夕陽も苦笑いしている
「着いたみたいだ。浩介、よろしく!」
「いやいや。ノックしてドア開けるのはお前の仕事だろ?」
「え?いやいや、浩介の仕事だって」
「いやいや」
「いやいやいや」
「そこで……ふざけてちゃ……駄目だよ」
「ははは。じゃあ開けるね。」
夕陽に窘められたと思ったら、千夜はもう開ける寸前だった。
「失礼します。」
「来たか」
老人が立派なあごひげを撫でながらこっちを振り向いた。
「うむ。四人とも揃っているな」
この人が学院長、フリードリッヒ・ディルク。
生きる伝説とも言われていて二年前にこの国、ラルズールに現れた『邪竜』ファフニール討伐戦の際に父さんやジークに騎士団、魔術師団とともに参加した。
父さんは討伐戦後に、出かけてくると行ったきり帰ってこない。
いったいどこで何してるんだか。
「主らには今から儂と一緒に王城へ行ってもらう。」
「えっと、王城ですか?」
「うむ。王城じゃ」
千夜が代表して聞き間違いではないか聞いてみたが同じ答えしか返ってこない。
「何故、王城に?」
「聖王様と神アレイシア様がお呼びなのじゃ」
「「「「え?」」」」
「驚くのも無理もないが、お呼びなのじゃよ。間違いなどではなくな」
そう言うと学院長室からしか行くことの出来ない『転移部屋』に歩きだした。
「どうした?ついてこい。聖王様とアレイシア様がお待ちじゃぞ」
その言葉にハッとして学院長について行く。
「えっと、学院長」
「どうしたのかね?聡君」
「なんで私達が呼ばれたのですか?」
「さてのう」
意味深な笑顔でそう言うと、これ以上の質問は受け付けないとでも言うように歩みを速くした。
(なあ聡)
(どうした?浩介)
(嫌な予感しかしないんだけど)
(俺もだ)
そうこうしているうちに。
「着いたぞ。今から転移陣を起動するからちょっと待っとれ」
「え?学院長?他の先生が起動するのではないのですか?」
「転移陣の起動はいろいろと複雑じゃからの。ここの転移陣は儂にしか起動出来んのじゃよ」
「そうなんですか?」
「そうなのじゃ」
部屋に着いてから、危なそうなというか用途のよく分からない魔道具が散乱している部屋の中をキョロキョロしていた千夜と夕陽は、
「それにしてもこの部屋、結構凄いね!夕陽ちゃん!」
「そう……だね。魔素の密度も濃いし、それになにより…………危険そうなのが……たくさんある」
「ほっほっほ。良く分かっておるではないか。成績が優秀なのも納得じゃのう」
学院長は千夜と夕陽を褒めると、転移陣を起動する準備に取り掛かった
「さてと。起動したから何時でも行けるが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫でしゅ!」
千夜が代表して言ったが、緊張しているのか最後を噛んでいた。
それにしてもこの状況で「でしゅ!」ってなんとなく癒されるな。
「うむ。それでは行くか。転移ラルズール城!」
俺達を眩い光が包み込む。
一瞬後、そこはさっきまでいた危なそうな魔道具が散乱してる転移部屋ではなく、魔道具が綺麗に整理され並べられている部屋だった。
「ここは?」
光に包まれたと思ったら、つい今しがたいた部屋とは違っていたのに驚き、呆けた顔をしながら尋ねた。
「ラルズール城の転移部屋じゃ」
と、学院長が答えた。
「転移って初めてだけど、一瞬で移動できるなんてな」
浩介が驚いている。戦闘時には冷静な浩介さえも驚いている。
「確かに一瞬だと感じるのじゃがな、実際は数分くらい経っておるのじゃぞ」
「え?それでも凄いですよ!学院から王城まで一時間近くかかるのに!」
「転移とはそういう物じゃからのう。まあ転移陣の欠点は何処にでも行けるのではなく、転移陣が壊れたり欠けたりしていない場所にしか行けない事じゃな」
それでも凄いと思うのだが、学院長はこの欠点を憂うかのようにため息をついた。
「待たせるのもあれじゃ。そろそろ玉座の間まで行くとするかの」
気を取り直すかのようにそう言うと学院長は歩きだした。
「あの、学院長。」
「どうしたのかね?」
「さっきから兵士さんがこっちを見て敬礼してるのに落ち着かないというのもあるのですが、案内してくれる方がいませんが大丈夫ですか?」
「何度も行ってるからのう。大丈夫じゃよ」
心配して聞いてみたが、なんてこともないみたいに学院長は答えた。
それにしても兵士さんが直立不動で敬礼してる姿は惚れ惚れするな。
「そろそろ着くぞ。身だしなみは整えておくのじゃ」
そろそろ着くらしい。右に曲がったと思ったら左に曲がったりして何処をどう歩いたのか覚えてない。
「なんでこんな風になっているのか?」と聞いたら、「何者かに侵入されても大丈夫なように」と答えられた。
(聡くん。何だか緊張するね)
(緊張のし過ぎで変なこと言わないようにな)
(大丈夫だよ)
本当に大丈夫なのだろうか。ちょっと、いや、かなり心配だ。
「扉の前に着いたのじゃが、身だしなみは整えたかの?それでは開けるぞ」
そう言うと、学院長は何の躊躇いもなく扉を開けた。
明後日に設定、明明後日くらいに人物紹介を挙げます。
誤字脱字等ございましたら教えていただけると幸いです。