第十四話 ネフーニュ村
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ネフーニュ村。
それは、人口が二百人にも満たない小さな、本当に小さな村だった。
円形で西側に門があり、奥となる東側には村人共同の畑がある。
村人の人柄は良く、非常時の護りとして、ウラスの冒険者組合から長期依頼を受けてやって来た冒険者と結婚する、ということもよくあった。
その村が何故、一夜にして廃村となったのか。それは誰も知らない。
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アイテルさんがネフーニュ村の入り口の門の付近に停めて、周りに魔物がいないか確認してから降りる。
門から見える範囲では、事前に言われていた通り触れればそのまま崩れ去るのではないかと思う程に朽ちている。既に倒壊している家もある。
更には地面にもひび割れしている箇所が見受けられる。
俺達は、二人一組で村を調べることにして、村の中央でそれぞれ別れた。
浩介と夕陽はそのまままっすぐ東に、アイテルとラファエルは北に、俺と千夜が南に向かって調べ始めた。
歩いているが、枯れた草木と干からびた地面、廃屋しか無く、この村に人が住んでいて、そこで営みがあったことが実感出来ない。
このような現象を起こす魔法はこれまで聞いたことが無い。だからこそ、このような現象を起こした何かを怖いと感じる。
急に千夜が立ち止まる。
「ねえ、聡君。何かおかしくない?」
「ん?そうか?俺は何も感じないけど」
「気のせい……かな?」
「いや、千夜がそう思ったんだったら何かあるかもしれない。気をつけるか」
千夜の直感は馬鹿に出来ない。特に嫌な予感がするっていう時は大体当たる。ここで何かがあっても守れるのは俺だけだ。気を引き締めなければ。
辺りを慎重に見回しながら歩いていると、奥に今まで見たこの村の家の中でも大きな家が見えた。
顔を見合わせ頷き、俺から先に入った。
村長の家だと思うのだが、特に変わったとこは見当たらない。千夜の手を引いて中に入れる。家の中を見た千夜も特に変わった印象を持たなかったらしい。
とりあえず何かないか物色する。
「何も無かったな」
「何も無かったね……あれ?」
何もないので外に出ようとするが、千夜が何かを感じ取ったらしい。床をじっと見つめ始めた。
「この下に何かありそう」
「下に?降りられそうな場所は見当たらないけど」
なので床に穴を空けてみることにする。
「”ボム„」
ボンッ!
床に穴を空けるどころか家の中の物がぐちゃぐちゃになった。壁にも穴が空いた。
「聡君……」
千夜にも呆れられている。……いたたまれない。
千夜の視線から逃れるべく、穴が空いた床から下をのぞき込むと、小部屋のような空間があった。
穴が空いたとはいえ地下室のようなものなのでやはり暗い。千夜に頼んで明るくしてもらおう。
「何かありそうだな。千夜、明かりをお願い」
「うん。待ってて、"ライト„」
魔術で明るくした部屋に千夜と共に飛び込む。
机と本棚、階段、どこに通じているのか分からない通路がある。
通路はアイテルさん達と合流してから調べてみようと思い、ここではスルーする。
「本棚に入っているのは……日記か?」
「あとは、この大陸の地図とかだね」
「それじゃあ机の上に置いてある日記か?読んでみるか」
手に取って中を見てみる。これも日記だ。しかし、
「私にも見せて」
「えーと、所々掠れてるっていうか、このメモ自体がボロボロになってて、読めない所があるけど……大丈夫か?」
「大丈夫だよ。"リストレーション„」
リストレーション。時属性魔術の一つで、壊れたものや、古くなったものを、元の状態に復元することが出来る。ただ、何でも復元出来るってわけじゃない。古すぎるものや粉々になったもの、壊れたもので一部分でも何処かに失くした、無くなった場合は復元出来ない。
ある程度復元することが出来た日記を千夜が読み上げる。
「自らを賢者と名のる旅人をこの村に泊めたのが運の尽きだったのか。まさかこんなことになるとは。……これって」
「当たりだな」
千夜が読み上げる。
「夜になってから爆発音が響き、彼を泊めた家から火の手が上がっていた。数日前から儂の家に泊まりに来ていた友人が見に行ってから数分。友人は慌てて戻ってきてこう言った。
「この家を基点にして結界を張る!あちら側に多少の障壁を張ったがいつまで持つか分からない」
何が起こっているのか分からなかったが、友人の焦りようから大変な事が起きているのだけは分かった。家具を移動して、妻には地下に降りてもらい、通路を通って避難してもらうことにした。
妻が通路に消えてから、無事な村人たちを結界の中に入れた。結界の外には紅く光る目をした者達が結界に向けて魔術を放っていた」
旅人が何者なのか気になるな。確実に旅人が何かしたと思うんだけど……というか村から逃げれば良かったんじゃないかな。
「妻が戻ってきた。通路の先、ちょうどこの村から出ることが出来る位置に紫色の障壁があったらしい。この村を覆う紫色の結界?は地面の下にも作用するようた。」
だから逃げられなかったのか。
「おーい!何か見つけたかー!」
遠くから浩介の声が聞こえる。あっちは何も見つからなかっのだろうか。
「一回外に出るか」
「そうしよっか」
日記を閉じて、今度は階段を登って上に上がった。
「この日記をな。浩介の方は?」
千夜から日記を受け取り、浩介と夕陽に近づきながら見せる。
「駄目だ、何も見つからねえ。と言うか、調査隊が派遣されたんだろ?あっても抑えられてるだろ」
「そのメモ…………何て…書いてあるの?」
「えっと、聡君。その日記貸して」
「良いよ。はい」
「ありがとう」
正にその時、アイテルとエル先生がいる東側から、大気を震わせるほどの轟音と振動が襲ってきた。
驚いていると、背中から白い翼が生えているエル先生がこっちに高速で飛んで向かって来ているのが見えた。
「皆さん、この村から出ます。急いでください!」
「いったいどうしたんですか?」
「結社の襲撃がありました。今、アイテルが一人で抑えています!だから早く!」
「…………わ、分かりました!皆、行こう!」
驚きからいち早く正気に戻った千夜の声で、俺達は門を目指して走り出す。
「"周囲付与・加速„」
千夜が全員に加速を付与し、軽くなったように感じる体で走る。エル先生は俺たちの後ろを飛び殿を務めてくれている。
門を抜けた先には、いた。男と少女が一人、その後ろにゴーレムが一体立っている。
「やあやあ、遅かったね。時間にルーズなのはどうかと思うよ」
「お父様。待ち合わせしたわけでもないので仕方ないのでは?」
「うん?まあ、そこはほら、ノリだよ」
「何故……貴方がここにいるのですか」
「久しぶりだね、ラファエル。アインス、ゴーレムと一緒に四人をお願いするよ。僕はラファエルと話しがあるからね。大地が砕け、海が割れし異なる世界へ我らを誘う"崩れた世界への跳躍„」
ラファエルと見知った仲らしい男の発動した魔術で、ラファエルと男はどこかへと消えた。その光景に目を白黒させていると。
「それでは、こちらも始めましょう。ゴーレムは……そうですね、叶芽 聡と水上 千夜をやりなさい。私は春日井 浩介と村上 夕陽を相手にしますので」
背筋がゾクッとする。相手からの殺気、いや闘気が今の俺達との差を嫌になるほど知らしめてくる。
ゴーレムはファインティングポーズをとり、少女は二丁の魔導銃を腰から抜き銃把を脱力した状態で握る
「私の名はアインス・エルミニア。準備はよろしいですか?それでは、参ります」