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第十話 支部長ロマン

誤字脱字がございましたら報告をお願いします。


 二階の奥にある扉の前で止まり扉を叩く。



支部長(ギルドマスター)。アイテルさんと浩介君をお連れしました」

「入ってくれ」




 部屋に入ると、男性が机の上に積まれている書類にハンコを押していた。

 彼はこちらをちらりと見やるとすぐに書類に目を戻し、ハンコを押す作業に戻った。



「そこのソファーに座って、少しだけ待っていてくれ。クララ、飲み物を」

「了解しました」



 クララは飲み物を取りに部屋から出て行き、アイテルと浩介は大人しく勧められたソファーに腰を下ろして待つことにした。

 少ししてからクララがトレーにカップを載せて戻ってくる。



「お飲み物をお持ちしました」

「ああ。いつも通りか?」

「はい。いつも通りにハーブティーをいれて参りました」

「そうか。アイテル達の分はそこのテーブルに置いてくれ」



 クララはソファーの前のテーブルと机の上にハーブティーの入ったカップを置くと部屋から立ち去った。

 また少ししてから、男性は一区切りついたのか書類から顔を上げこちらを見やる。



「ふう。ある程度は終わった……か?まあいい。久しぶりだな、アイテル。そちらの君は初めましてだね。私の名はロマン・ロビンソン。ロマンと呼んでくれ」

「お久しぶりです、ロマンさん」

「ロマンさん、初めまして。春日井浩介です。よろしくお願いします」

「ああ。よろしく」



 アイテルと浩介が会っているこの男性の名はロマン・ロビンソン。

 元はSS+ランクの冒険者で今はウラス支部の支部長の座についている。

 彼には妻と子供が二人の四人家族。子供二人も既に成人して、ジオール連邦国の中央政府にて働いてる。



「それで、今日はどうしたんだ?」

「ロマンさんなら情報が入ってきてるかもしれませんが、終焉魔王について何か情報がないかなと」

「うちには何も入ってきていないな」

「そうですか……他の支部長は知ってると思いますか?」

「他の大陸の奴らは分からんが、この大陸の支部長は全員何も知らないだろう」



 ロマンは何か根拠があるのだろう。他の支部長も何も知らないと断言した。彼はそれに、と続ける。



「こっちでも色々とあるからな」

「魔物の暴走(スタンピード)とかですか?」

「ああ。耳が早いが誰からか聞いたのか?」

「下でテミヘスに聞きました」

「そうか。なら話は早いな」



 ロマンからテミヘスよりも詳細に話を聞くことが出来た。

 魔物の暴走が起き始めたのは約1ヶ月前。終焉魔王の封印が解かれたのではないかと言われている時期だ。

 暴走の影響で無傷な街や村はなく、そもそも村は全滅したとのことだった。



「この街の近くにある村も既に全滅している。

 生き残った村民を受け入れていはいるが、ほとんどが女子供で男や老人は彼女らを逃がすのに犠牲になったようだ」

「冒険者は助けなかったんですか?」

「暴走が各地で多発している。それを抑えるのに、この支部に所属している冒険者も散っていたからな。最低限しか助けられなかったんだ」



 彼は無念だと言うかのように机の上に置いていた両拳を硬く握りしめている。

 ハッと我に返ると何でもないと首を振り話を続けた。



「この街はラルズールと貿易をしていて物資を輸入している。そのおかげで今も何とかなってはいるが……内陸部は悲惨だそうだ」



 ウラスは浩介達の住むラルズールと貿易をしている。毎日と言うのは言い過ぎになるが、かなりの頻度で船が行き交っている。

 それにより、物物資が枯渇することなく、市民は生活することが出来ているようだ。

 その代わりに、他の領主が治める内陸部に存在する街は村が全滅しているため、物資が足りず、暴動が起きている所もあるらしい。



「支援物資を送りたいのは山々なんだが……」

「街道が魔物に封鎖されていてそれすらも出来ないと」

「そういうことになる。封鎖されている場所の近くに前線基地を作り、そこから撃って出て魔物を殲滅しようとはしているが、単純に数が多くてな。捗っていない。それで、ラルズールに応援を要請したんだが……」

「?」

「何故か魔法師団の者が来た。戦力的には申し分ないから、そのままワイバーンに乗せて前線に行ってもらった」


 何事かを考えていた、アイテルは唐突にこんなことを言い出した。



「ロマンさん、浩介。俺達がそこに向かうのはどうだろう」



ロマンはやや驚き呆れたような顔をしつつ、ハーブティーに口をつけ、一息をつく。そうしてから、口を開いた。



「アイテル達が向かってくれるというなら嬉しいが…」

「浩介はどうだ?」

「この旅の目的は終焉魔王を倒すことですけど……俺や聡、千夜に夕陽も力が足りないのはよく分かってます。だから……経験を積むためにも、俺は行きたいッ……!」



 ロマンは浩介の言葉に目を見張る。



「そうか。それならこちらから正式な依頼として行ってもらいたい。……その前に、だ」

「「?」」

「少々調べてもらいたい村がある」

「その村とは?」

「ネフーニュという名の村だ」



 その村は、暴走とは違う何か別の原因により壊滅したようで、まずはそこを調べてほしいみたいだ。



「原因は分かっていない。調査部隊を派遣したはいいが、何も分からなかった。そこで、外部の人間であるアイテル達に調査を頼みたい」

「何故ですか?調査部隊が分からなかったなら俺達が行っても分からないと思いますよ?」

「ただびとには分からなくても英雄であるお前なら分かるかもしれないだろ?……可能性は低いがな」



 そういうものかと一応納得する。



「分かりました。その村の何を調べればいいんですか?」

「ありがとう。何を調べればいいのか……そうだな」



 まずはネフーニュ村の状況を聞いた。

 連絡が途絶えてから調査部隊が向かった時には、村人はただの一人も存在せず、村中の物全てが朽ち果てていたという。



「なるほど。それを調べればいいんですね?」

「ああ」

「新種の魔物でも出たんじゃないですか?」

「浩介、確かにその可能性もある。もし、新種の魔物が原因であれば……アイテル」

「倒せばいいんですね?」

「そうだ。その時は色々と調べなければならんから、一部でもいいから持ち帰ってきてくれ」

「分かりました。浩介もそれでいいな?」

「はい!」

「いい返事だ」



 その後は少しの雑談を交わし、



「そろそろ帰ります。浩介行くよ」

「そうか。また来い」

「あ、そうだ。領主様は帰ってますか?」

「あいつならまだモックワだろう。状況が状況だからな」

「そうですか……それでは失礼しました」

「失礼しました!」

「ああ」



 アイテルと浩介はロマンに一礼して冒険者組合ギルドを去っていった。




 ――――――――――――――――――――――――



「彼らはネフーニュ村に行ってくれるでしょう。……これで良かったのですよね? 」



 ロマンはアイテルと浩介が去ってから、自分以外は誰もいないはずの部屋でいないはずの誰かに向けて声をかける。



「ふふ。ええ、あれでいいでしょう。あの村には『博士』と若いのを二人向かわせましたので……彼もラファエルにちゃんと伝えてくれるでしょうから」



 どこからともなく現れた、軽くウェーブのかかった髪が腰ほどまである女性は、さっきまでアイテルと浩介が座っていたソファーに腰を下ろした。



「上手く行けば、私達と敵対する賢者や第三の存在が出てきてくれるでしょうし」

「彼らを囮にするのは気が引けるのですがね……」



 女性はロマンの言葉に薄く微笑む。

 しかし、すぐに苦々しい顔をすると、



「既にこの世界にもガタがきています。悲しいことですが、このままでは()()の封印が解ける前に、この世界が終わってしまう可能性があります」

「全ては彼らにかかっている……か」



 二人の間にしばしの沈黙が落ちる。



「他の支部長は既に動いています。あなたにも、そう遠くないうちに動いてもらいますね」

「分かりました。冒険者組合総本部長グランド・ギルドマスター。いや、『第九席』様」



『魔弾』


魔物から摘出された、魔力の塊である魔核石。それを銃弾の形に加工したもの。

魔核石は内部に魔力を充電することが出来るという性質を持っており、使用者は自身の魔力を魔弾の内部に予め溜めておき、必要に応じて使用する。

魔弾を媒介にして魔術を発動することが可能。

魔道具に使用されている魔核石とは違い、一回の使用で破損する。


夕陽は収納空間(ストレージ)内に大量の魔弾を収納しているため、尽きることはほとんどない。





『冒険者組合』


基本的にどこの大陸にも存在する。

本部と言われる冒険者組合は各大陸の首都にあるが、総本部と言われるのは、エデン大陸にある冒険者組合だけである。


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