閑話 その日、ティオール竜帝国
誤字脱字ございましたら報告をお願いします。
追記
設定にて金銭の単位の最少を銅貨にしたので一部金銭の描写を変更しました。
それは、聡達がミーナの襲撃を受ける少し前の出来事。
ティオール竜帝国の帝都アルザーノにて起きた事だ。
「おっ?そこの嬢ちゃん!ちょっと見ていかねえか!」
「ん?何を?」
「何をって、うちで扱ってるリンゴだよ!」
「この赤いのが?」
「なんだいなんだい、見たことないのかい?」
「うん」
「そうか。なら一個だけタダでやるよ。好きなのを選びな!と言っても全部同じなんだがな!」
帝都の南門側の市場でリンゴを売っていた、大柄で厳つい顔をした男が、顔に似合わない優しい声で、灰色のローブのフードを目深に被った銀髪の少女に声をかけ、リンゴを勧めていた。
「本当に、貰っていいの?」
「おうよ!」
リンゴ売りの男から貰ったリンゴを一口齧った少女の顔は笑顔になっていた。
「みずみずしくて、甘くて、とても美味しい」
「だろ?仕入れ先のリンゴ農家の奴らも嬢ちゃんみたいな別嬪さんが美味しそうに食べてたって言えば、喜ぶだろうな」
「一個、銅貨一枚……何でこんなに安いの?」
「何言ってんだい?普通の値段だと思うぞ?」
「そうなんだ……もう少し高くてもいいと思うけどな」
ゴーーーン ゴーーーン ゴーーーン
「お?もう9時か」
「そろそろ行かないと」
「引き止めちまってすまねぇな」
「んーん、大丈夫。銅貨二枚、リンゴ二つ貰って行くね」
リンゴ売りの男はリンゴを三つ少女に手渡した。
「え?」
「今回はサービスだ!次もうちで買ってくれよ?」
「うん!ありがとう。それじゃあ、ばいばい」
「おう!またな!」
少女は満面の笑みを浮かべながら、リンゴ売りの男の前から走り去った。
裏路地に一度入り、フードをまた深く被り直す。
「あのおじさんは、殺したく、ないなぁ」
少女は悲しそうな顔をしながらも決意を固める。
「でも、お父様やソロモン様の頼み、だから、仕方ない、よね……」
ローブの腰の辺りで手をもぞもぞと動かし、刀と呼ばれる武器を抜く。
「おじさんには、巻き込まれずに、逃げて、生きていて、もらいたいな」
少女はそう言いながら、表通りへと戻り、近くを通りかかった、殺害の指示をされた人の首を斬り落とした。
それと同時刻。反対側の北門側でもそれは起きた。
「なんだい姉ちゃん、ぶつかっておいて謝罪もなしかよ!」
「ぶつかってきたのは貴方。謝る理由が無い」
「ああん!こちとら少しとはいえ怪我したんだ、もちろん金くらい払うよなあ!」
酔っ払った男がフードを目深に被った銀髪の少女に突っかかっていた。それを見ている周りからは「またか」「あの子も可哀想に」「当たり屋の被害がまた出たか」「運がねえな」などと言った声が聞こえる。
「ほら!払えよ!なあ!」
「はあ。分かった、払ってあげる」
「はは、分かってるじゃねえか」
「だけど」
「ああ?」
「怪我とはこういうのを言うんだよ。学習したねゴミ屑」
「あ…あぁッ!がァァッ!!」
男の腕が肩の付け根から斬り落とされた。何の抵抗も躊躇いすら無く。
両腕を失った男の肩から、勢いよく血が吹き出ている。
大量に血を失い体温が急激に下がったからか、それとも激痛のせいか、いや両方だろう。
男は白目を剥き、口から涎を垂らしながらショック死していた。
この二つの場所以外の場所でも、計数十箇所で同時に人が殺された。
殺人を行ったもの全員がフードを目深に被っており、同じ顔をした銀髪の少女であった
この騒ぎを受け、帝都の治安を守る警邏隊が出動。捕縛にかかったが、全員返り討ちに会い、帰らぬ人となった。
警邏隊が出動し手薄となった警邏隊本部も襲撃にあった。
「あ〜あ、本当にこいつらが警邏隊って奴かなのかぁ?弱すぎて腕試しにもならないのなぁ」
「そう落胆をしないでください。確かに弱かったですが、ただの人間にしてはそこそこ強い方だと思いますよ」
「そんなもんかぁ。なぁ7番。この後どうするんだったかぁ?」
7番と呼ばれた銀髪の少女は頭が痛いとでも言うように、右手で頭を抑えながら、ため息を吐きつつ答えた。
「9番。もう一度言いますので覚えてください。ここの人間を殲滅した後は、8番や他の番号達と一緒に既に入城しているソロモン様のアシストですよ」
「面白みもないのなぁ」
「こ、この化け物がァァァ!」
崩れた警邏隊本部の瓦礫の中から、警邏隊の制服を着た男が途中で折れている片手剣をこちらに向けながら飛びかかってきた。
その片手剣が9番と呼ばれた銀髪の少女に触れる。
男は一矢報いたと満面の笑みを浮かべるが、次の瞬間には怪訝そうな表情へと変わり、そして、恐怖をその顔に浮かべた。
「な、んで……何でッッ!お前はッ!お前らはッッ!本当に人間なのか!?」
男が握っている片手剣は、確かに少女に刺さっている。それはいい、それはいいのだが、少女の体で片手剣が刺さっている部分だけが水色に変わり、スライムのようなにゅるんとした感触がそこにあった。
「どうだかなぁ。遺伝子にスライムも交ざってるから、人間じゃないのかもなぁ」
「まあ、造られた私達が人間というカテゴリーに含まれるのかすら微妙ですが」
二人の少女が言っていたことを理解出来たのか、戦意を喪失させ床にへたり込んだ。
「は、はは、化け物が……」
「9番。危険因子をこのままにしておくのも」
「わかってるのだぁ。それじゃあさよならだなぁ」
9番が振り下ろした大剣で男は真っ二つに斬られ、絶命した。
帝城では
「へ、陛下!」
兵士が慌ただしく玉座の間へと入ってきた。
「どうした?」
「侵入者により帝城の守りを担っていた両師団の者が打ち倒され、ここ玉座の間へと近づいております!」
「特徴は?」
「黒と白が入り混じった髪をしており、片手剣を二本の二刀流、外見は15、6歳程でございます」
「そうか、下がれ」
「はっ!」
兵士は敬礼し下がっていった。
「父上」
「そう不安そうにするな」
今玉座の間には『竜帝』バハムートと神アルスメル、それにバハムートの子供たちが揃っていた。
「ふぅ。アルスメルよ、もしもの時は子供たちを頼む」
「やはりあいつか?それにしても何故?」
「理由は……知らない」
「あいつって誰ですか?」
「………………」
バハムートもアルスメルもベヒモスの疑問に答えなかった。
バハムートの子供は、『地竜王』ベヒモス、『水龍姫』プリシア、『炎竜王』ヴィヴ、『風竜王』シグマ、『竜姫』ライラ、『雷竜王』ロブスの六名であり、この場に全員がいた。ライラはこの中で一番幼いが、潜在能力は兄と姉を凌ぐ程である。
「父上、死んじゃうの?」
「死ぬ可能性は高いな」
「そんな!?」
場が騒然となる。『竜帝』バハムートと言えば、魔王の中でも最強格とされていて、帝国での政治は、良識で民を第一に考え行動するため、尊敬を集めている。
そんな者から「死ぬ」と言う答えが出された。それが何を意味しているのか、子供たちは痛いほど分かっている。
「父上。もし俺達もここに残って戦うと言ったらどう……しますか?」
「お前達が残っても、死体が増えるだけだ。だから、逃げろ」
そんな時、玉座の間の扉が勢いよく開け放たれた。
「へ、陛下!」
「今度は何だ?」
「魔法師団、騎士団の両団長が侵入者の進行をくい止めていますが、何時までもつか分かりません。ここは逃げてください!」
「聞いたな。アルスメル、子供たちを連れて逃げろ」
「分かった」
「そ、そんな!父上!いや、親父!」
ベヒモスはバハムートに呼びかけてから気づいた。バハムートの、父親の顔が、悲痛そうにしている事に。
「ベヒモス、プリシア、ヴィヴ、シグマ、ロブス。ライラを頼んだぞ」
「ッ……!分かりました」
バハムートの父親としての、帝国を統べる帝王としての覚悟を感じ取った、ベヒモス達は悔しそうにしながらも頷いた。
「それではこっちだ!ついてこい!」
「ねえ父上」
「何だ?」
ライラは泣きそうな顔でバハムートに問いかける。他のものも泣きそうだったり、悲しそうだったりしている。
「私をおいて、どこにも行かないよね?」
「ああ。どこにも行かないよ。ライラの心にいるからな」
バハムートは笑みを浮かべた後、すぐに顔を険しくさせ言った。
「早く行くのだ。もう時期ここに来る」
「死ぬなよ」
「善処する。子供たちを頼んだ」
その言葉を聞き、子供たちはアルスメルに連れられ、転移陣のある部屋へと向かって行った。
「さてと。一応待ってあげたんだけど、これで良かったかい?」
「なッ!?きさ」
扉の前にいた兵士は首を斬られ、言葉を最後まで言えなかった。
それをやったのは少年だ。先ほどの報告にあった少年だ。笑みを浮かべながら呟く。
「師団長って言うからどんなに強いのかと思ったけど、数分くらいしか持たなかったね。弱すぎて残念だ」
「一応彼らはSSランクの通常種を単独討伐出来るのだがな」
「へ〜。あれで討伐できるんだ。意外だね」
少年は悪びれもせずに言う。彼らは弱いと。
「あ、そうそう。外がどうなってるか知ってる?」
「いや」
実際に知らないのでこう答えるしかない。だが次の言葉を聞き、驚愕に目を見開いた。
「地獄絵図ってやつみたいだよ。四肢を斬り落とされた人もいるし、首が落されている人もいる。鉄球で壁に叩きつけられてぐちゃぐちゃになってる人もいれば、足だけを潰されて動けない人もいる。酷いものだよ」
やれやれと言うかのように首を竦め、ため息を吐いている。
「お前がやったのか!?」
「え?……まぁ僕が命令してやらせんだからね。僕がやったようなものさ」
「ふざけるなよ!何故この国なのだ!」
少年は何でそんなことを聞くのか?というきょとんとした表情を浮かべたあと、目だけが笑っていない笑みで、バハムートを見つめながら声をかける。
「もう、演技は止めても良いんだよ?『竜帝』バハムート。いや、何者かによって裏切り者の魂を上書きされた者」
「く、ククククク、ククククククククク」
裏切り者。そう呼ばれたバハムートは突然笑い始めた。狂ったように笑い始めた。
「いや、すまないな。裏切り者の魂を上書きされた……か。いったいいつ分かった?『竜帝』のフリをしても神はちょちょいと認識を弄ったが、それ以外の奴らはガキ共ですら気づかなかったんだが」
「二年前からおかしいとは思ってた」
「そうか……俺として会うのも久しぶりだ。世間話でもしようじゃないか」
「うん?世間話か、まあ悪くは無いんじゃないかな」
バハムートを騙る者の提案に少年はのり、お互いに世間話を始める。
「で?お前達はまだ、我が主を殺したいのか?」
「我が主、ねぇ?うん、そうだよ。君の仲間のせいで封印も長くは持たない。それまでに戦力を集めるさ」
やれやれとでも言うかのように、少年は肩をすくめる。バハムートを名乗る者は呆れているのか、馬鹿にした顔で少年を見ている。
「二万年前と結果は変わらんだろうに」
「変えるさ。終焉魔王の封印も君達に解かれたんだ。まあそちらは、次代の勇者の成長に使うだけだし。後手に回ってようが、最後は変える」
少年は決意を秘めた目でババムートを騙る者を睨みつける。
「はぁ……二万年前に嫌という程屈辱を味わったはずだがな」
「そうだね。土壇場で君が『真王』を砕いたせいで、彼の核は22の欠片になった。そして……君達の主を消滅させること叶わず、封印した」
「そうだな」
「だが今回は違う。大賢者が予言した」
「彼ら四人が世界を救うと?」
「そうさ」
「そして、終焉魔王を倒しきった彼らと共に主を殺すという事か。……我が主は簡単に殺せないぞ?」
「分かってるさ。二万年前の結果を見れば誰だって分かる。各世界の勇者や神ですらあれの瘴気に飲まれて落ちたんだ。……だから分かってる」
少年は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら答えた。
そんな少年は唐突に二本の剣を構える。バハムートを名乗る者はどこからかハルバードを取り出し、構えた。
「そろそろ始めようか」
「そうだな」
少年のほうから名乗りを上げる。
「結社が第一席。『終滅』のソロモン。魔剣グラム=ノルン、魔剣ティルウィング=フェイト。理と運命の二振りと共に君を討とう」
「『竜帝』の身体を乗っ取りし者。『災厄の使徒』が一人ディラン。このハルバードの銘はカイザー。二万年前の決着を着けよう」
「「魔力全開!!」」
ディランが先に動く。
全開にした魔力をハルバードに乗せて放つ。
「波山裂破ァァァ!!」
扇状に地を脈動させながら魔力の波が放たれる、がそれだけではない。ハルバードを横に振り抜いた時に、一緒に風圧も生じさせていたのだ。特大の魔力波と風圧がソロモンへと襲いかかる。
「自動小盾展開。魔力障壁発動」
ソロモンの前方に縦が約30cm、横が約15cmほどの長方形の盾が二十個も展開される。
しかも、その一つ一つがソロモンの魔力を受け、青く透き通った魔力障壁を盾自体に発動し、迫り来る魔力波を食い止める。
魔力波を食い止めた小盾は、意思があるのか動き出し、ソロモンの周囲を漂いはじめる。ディランはすかさず魔術を撃ち込むが、小盾に全て防がれ、ソロモンに傷一つつけることが出来なかった。
そんな小盾を見て、ディランはため息を吐く。
「魔術すら防ぐのか……ずるくないか?それ」
「何処が?僕のものを使って防いだだけじゃないか」
「なら、これも防いでみろ!"ライトニング・ボルト„」
雷光がソロモン目がけて空中を駆ける。だが、その進路に小盾は割って入り、
ズガァァァァン
轟音を響かせながら、ソロモンを守る。
小盾によって止めれた雷光は閃光を放ちながら消え去り、その閃光により一時的に両者の視界が覆い尽くされた。
「チャージスラストォォォォ!!」
ディランはライトニングボルトを撃つと同時に、体を捻り、ハルバードの尖端に魔力を集中させ、閃光により視界が防がれた所を狙い、渾身の刺突を行う。
その刺突は岩をも穿つほどの威力を誇っていたのだが
ガッッッ!!
刺突を小盾によって防がれたディランの腕を軽い痺れが襲う。ディランは小盾をありえないという面持ちで見つめる。
「機械で……出来てるんじゃない……のか」
「誰も機械で出来てるって言ってないじゃないか」
「それに……その硬さ、ミスリル……いや、オリハルコン!」
「よく分かったね。いや、流石に分かるか」
「ということは、感応石を使って……」
ディランのその言葉に、ソロモンはほんの一瞬だけ顔を強ばらせる。
「へぇ……よく分かったね。そこまで分かるとは思ってなかったよ」
「種明かしはした方がいいか?」
「いや、しなくても良いよ。そろそろ攻撃に移らせてもらおうかな」
ソロモンがその身に纏い始めた魔力が可視化され、青い燐光が空へと立ち昇る姿が見え始める。
「……この、魔力量は……」
「上手く躱すか、防いでね。君には聞きたいことがあるからね」
ソロモンはその身に纏う魔力を両手に持つ魔剣へと移す。
それと同時に、ソロモンと魔剣からの威圧感も跳ね上がる。
ディランは無意識のうちに一歩後退していた。
その威圧感から躱すことは不可能だと悟ったディランは、ハルバードを盾にして、特大魔力障壁を発動。全身を硬化魔法の"メタル„で覆った。
「クロススラッシュ」
神速の斬撃がディランを襲う。
斬撃は障壁に阻まれるもそのまま斬り裂き、ディランへと襲いかかった。
ディランは即座に後方へと飛びずさることで、その斬撃を回避した。
「馬鹿げた威力だな」
「基本って言うのは極めると凄いからね」
「全く。やっぱりこの武器じゃあ勝負にすらならねえな」
ディランはハルバードをソロモンに投げつける。
ソロモンは剣を軽く振りハルバードを斬り落とした。
「やめだやめだ。俺はこの辺でトンズラさせて貰う」
「させるとでも?」
「ふん。瘴気よ」
「チッ!」
ディランの影から飛び出た禍々しい瘴気をソロモンは斬り払った。
ディランのいた場所に目を向けると
「逃げたか……」
「ソロモン様。お疲れ様です」
その言葉に反応したソロモンは背後を振り返る。そこには深々と腰を折った7番がいた。
「無事に敵勢力の殲滅は完了しました」
「そうか……ありがとう」
「いえ」
「学院方面へ逃げた者はいたかい?」
「一般市民が少々といったところです。賢者は全て処分しております」
「今から10分後にこの城を帝都ごと消す。君たちは撤退を開始してくれ」
「了解いたしました」
7番は後ろにいた番号達に指示を出し、魔法で壁を壊して、妹達から順に撤退させていき、最後に玉座の間の天井に穴を空けると、そこから飛び立っていった。
10分後
ソロモンは7番が穴を空けた天井から外へと飛び出し、そのまま直上に上がっていく。
「ここら辺でいいかな。彼女達もちゃんと撤退したみたいだし」
視覚強化魔術の"ロングセンス„で7番達の位置を確かめ、魔法に巻き込まれないことを確認すると、詠唱を始める。
「大気に流れる魔素よ。この場へと集え」
ソロモンの周りに帝都中から魔素が大量に集まってくる。
「裁定の時来たれり。有るものを無へと還すために。集いし魔素は極光と化し、断罪を敢行する。裁くは悪。執行するは、全ての生命の代弁者。その裁きから逃れる術無し。"全てを無に帰す極光の断罪„」
ソロモンにより放たれた極光は帝城を呑み込んだ後、徐々に規模を拡大していき、遂には帝都全域をも呑み込んだ。
極光が消えたあと、そこには、人の、生命の営みがあった事を示す物は何一つ残っていない荒野と化していた。
「……誰かに見られてるな」
周囲に目を走らせる。何も無ければ誰もいない。
しかし、何かがいることだけは分かる。
「敵なのは確実……賢者か?いや、奴らじゃないな。考えても仕方ない」
得体の知れない何かを見つけるためにあれを使おうとした次の瞬間、
「消えた?」
こちらを見ていた何かの気配は消えていた。
「見られて困るようなものでもないから良かったものを……戻るか」
その日、ティオール竜帝国帝都は地上から完全に消え去り、帝国は崩壊した。
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「いやー危ない危ない」
「細分化があと少し遅かったら見つかってました」
「ただでさえ細分化した状態だったのに見ていることに気づくとは」
「やはり侮れませんね」
離れた場所、ソロモンの知覚から逃れ、さっきまで見ていた者達がいた。
同じ外見に同じ声。それに細分化という言葉から自身を分けたことが窺える。
「帝都での実験は失敗」
「私達が蒔いた種子が芽吹く前に摘み取られるとは」
「流石は守護者と言うべきでしょうか」
「これだとダミーとして人形化にした雷王の人形化は解除」
「反転させた海皇と人形化させた神含む周囲の者に関しては」
「海皇は殺害。人形化は解除された」
「と見るべきでしょうね」
彼らは残念だと言いたそうな口調だが、顔には薄い笑みが浮かんでいる。
「さて」
「聖王と覇王はどうしましょうか」
「どちらも面倒ですね」
「帰ったらコイントスで決めましょうか」
「それでは表が出た方に終焉魔王を向かわせましょう」
彼らはその場から姿を消した。
クロススラッシュ
ソロモンが述べていた通り、二刀流において基本中の基本となる技。
相手を✕字に斬る。基本中の基本となる技は極めると、奥義や秘奥義と言われるような技よりも強大な威力を発揮する。
"全てを無に帰す極光の断罪„
最上級の光、聖、空の三属性混合殲滅魔術。
とある魔法を模したもの。
一発発動するのに大量の魔力と魔素が必要であり、一般人には発動するのは不可能。それに加え、魔力と魔素を同時にコントロールする技術が必須となるために魔力量が多いというだけでも発動することは不可能。