必要な記憶
更新に時間がかかってしまいました。
目を開くとそこは鏡の世界だった。
足元には透き通った水が薄く広がり、小さな鏡が四方八方の空中に散らばっている。
「空も鏡で見えないや。」
頭がふわふわして気持ちがいい。
前もこんなことがあったよーななかったよーな。
頭がぼんやりしていてはっきりとはわからない。
一歩踏み出すと風一つない水面に波紋が広がり、キラキラと輝いている。
どこを見ても自分と目が合うのだ。だがその姿が自分だとは思えない。
『見事に染まっておるの。』
後ろから声がした。振りむくとそこには、ゆったりとしたローブを羽織り、大きなフードを頭からすっぽりとかぶったお姉さんが、ボロボロの椅子に座っていた。誰だろう?
『生物とは、すべての行動原理が経験、もとい、知識から来ておる。あの世界に生まれて一日、お主は出会ったものや環境に影響され見事に染まりおった。たった一日でじゃ。誠に面白いのぉ。助けたものを庇護者と認識しておるのだろ?そしてそやつの敵が現れれば、それはお主の敵となる。』
なんか難しいこと言ってるなぁ。
「だれ?」
『誰とな。ひどいのぉ。わしはそなたの関係者だというのに。』
「私あなたにあった事なんてあるかしら?」
『あるぞ。まぁ、そんな事どうでも良い。姿などどうとでもなるしの。すぐに関係なくるじゃろう。』
おねえさんは含む様に笑った。その顔はなかなか美人だと思うのだが、何故か印象が薄い。
『おぬしは、今幸せか?』
唐突に何を言い出すんだ。とは思ったが、ちょうどいい、ジャックについて誰かにこの気持ちを語りたいと思っていたところだ。
「凄く幸せ!ジャックは優しいし、フェリスっていう友達もできたの。そういえばジャックって笑うと目尻が下がって元々かっこいいのに、そこに可愛いが入り混じってホントにもう最強なの!それでね。」
『あーもう良い.....』
唐突に遮られた。向こうから話を降ってきたのにそれはひどいと思う。言い足りない。不満だ。
『よりにもよって面倒な性格になりおったの。しかも少し人見知りをすると口調が大人っぽくなるというおまけ付じゃ。』
そんなこと知らん。
「それで、私に何の用?」
『だから幸せかと聞いておるだろう。その記憶はなくしたくないものとなったか?』
「当たり前じゃない。まだ私は一日分の記憶しかないけれど、色々あったわ。それに記憶なんて早々なくなるようなものじゃないでしょう。」
『おぬしが嫌ならば消してやろうかと思ったのじゃが...必要ないなら構わんのじゃ。』
変な人だなぁ。記憶がどうのって、ちょっとこだわり過ぎじゃないだろうか。
「とにかく記憶はいるから。絶対消さないでね。えーっと.....」
『あぁ名乗っておらなんだな。わしの名はヨクルという。安心せい。そこまで念を押さずとも勝手に消したりはせぬ。』
ヨクルか、正直そんなにいらないが、ちゃんと覚えた。
......眠くなってきた。目がしょぼしょぼする。
『おぉ、もうそろそろ目覚めのときが近づいてきておるようじゃのう。』
「なんのこと?」
『ここはおぬしの夢の中じゃからの。現実で目が覚めれば、おぬしはここで眠りに落ちるということじゃ。むしろ、そんなことも聞かずによくそんなに平然としておれたもんじゃの。ホント脳天気じゃなぁ。』
言い返してやりたいのに眠くて思考がまとまらない。
『もうそろそろ時間じゃな。』
今度会ったら絶対言い返してやろう.....
『行ったか。記憶が消えても楽天的なところは変わらぬか。ふふっ面白いのぉ』
今度こそは幸せになってくれるといいんじゃがの。
『わしもそろそろ力尽きる。おそらく次で最後だろうのぉ。あやつはわしにどれだけ面倒見させる気なのじゃ。誠に愚かで可哀想な愛しい子じゃ。』
あの家があやつの救いの場とならんことを。