第3話「空白の1ヶ月」
教育実習が始まって約一週間。
大変だとは聞いてはいたが、寝ることもままならない。
くじけそうな気持ちを何度も振り絞って毎日学校へ向かった。
絵里には「この1ヶ月は絶対連絡取れないと思う、ごめん」と前もって伝えておいた。
次に会える頃にはもうとっくに月が変わって、きっと今よりもっと暑くなっているだろう。梅雨で雨ばかりなのだろうか。
思った通り、梅雨入りして雨の日が続くようになった。
学校に行くのも一苦労だ。学校の近くで一人暮らししている友達は歩いてでも行けるが、私の家くらいの距離だと歩くと1時間近くかかってしまう。駅には近いし、バスの便もあるがあまり多いとは言えない。
今年の春からようやく通いだした自動車学校も、仮免許の付近をまだウロウロしている状況だった。ストレートに行けばもう路上に出て高速教習している子もいるのに。
前に純哉に話した通り、親は私に中古でも車を買ってくれる気はないらしい。
「大学生に車なんて贅沢だ」「お姉ちゃんにもお兄ちゃんにもそうしたから、絵里にもそう」
アルバイトをしていても、さすがに車のような大物を買えるほど貯まってはいなかった。
もう二十歳を過ぎてはいるが、親にはなんだかんだで逆らえない。自分が何か意見を持っていても、最終的には親に抑えられてしまう。
元カレの話も、純哉の話も家族には一切していない。
どこか勘のいい叔母さんが「絵里ちゃん、彼氏いるでしょ」と問い詰めてきたが、すべてしらを通し切ってきた。
だから純哉の存在はうちの家族や親戚関係には誰にも知られていない……と思う。
お兄ちゃんもなかなかこっちに帰ってくることもないし、一番仲のいいお姉ちゃんにも秘密だ。
うちの家族はどこかバラバラなのに、なんだか支配されている感がある……そんな感じが苦しかった。
雨続きで気分もこもりがちになる。授業や毎週末に会っていた純哉の存在がいかに大きかったか、改めて感じる。
実習最後の日まで、俺は全力で頑張った。俺にこの実習を乗り切る力をくれたみんな、ありがとう。
あとは実習日誌を提出して終了のはずだ。
絵里にも連絡したいが、今はとりあえず寝たい、眠たい。
家に帰って、きちんと睡眠をとってから少し絵里に連絡しよう。
この約1ヶ月の空白の時間が、実は大きな意味を持っていたことを2人ともまだ気付いていない。