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サファイアガラス  作者: 望月 明依子
第1章 「待ち合わせの教室」
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第2話「教室にて」



もちろん、同じ学部の友達と恋バナしたりもする。

彼氏がいる人間、いない人間、それぞれだ。

「片思いって、いいねえ。なんか新鮮だよね」

彼氏とは高校からの付き合いだという子が軽く言う。

じゃあ、また片思いしてみる? とひっそり思ってしまう。

こういう恋バナはあくまで軽い会話の一環だ。そこに何かを求めているわけではない。

自分の悩みは、最終的には自分で解決しないと。



高校3年の時に同じクラスで、同じ大学の教育学部に進学した子がいた。

その子なら、何か彼について知っているかもしれない。

ええと、連絡先……メールアドレスとか交換してたっけ?

自分のスマホの中の電話帳には彼女の携帯と思われる番号と携帯メールと思われるアドレスが入っていた。

意を決して、そのアドレスに送ってみる。

「久しぶり!元気してる? 久しぶりで申し訳ないけど、ちょっと聞きたいことがあって。大丈夫?」

いきなり恋愛相談をメールでするのには勇気がいる。とりあえず、返事を待つことにした。

返事は思っていたより早かった。

「久しぶり、絵里! どうしたの、聞きたいことって?」

「有香、本郷……くんって知ってる?」

少し間が空いたあと、有香は長めの返事を送ってくれた。

「うん、そんなに詳しく知ってるってほどじゃないけどね。知り合いっていうより顔見知り、かな。学部学科は一緒でも、課程が違うと授業が必ず一緒とも限らないからね。

あ、本郷くんと同じ課程の子と仲がいいんだけど、その子ならもっと詳しく知ってるかもしれない。あれ、もしかして、好きになっちゃったってやつ?」

図星、でもこういうメール送る時点でそう捉えざるを得ないよね、と思いながら返事を打つ。

「うん、そういうこと。ごめんね、有香を利用しちゃったみたいで」

「大丈夫。とりあえず、その友達に絵里の連絡先教えて、絵里にも連絡先を教えていいか聞いてみるよ。その子に絵里の連絡先、とりあえずメアド教えて大丈夫? あたしができることはこれくらいだけど」

「うん、いいよ。お願いします」

「わかった! あー、なんか楽しくなってきた! 最近いろいろ忙しくて、たまにこういうこともないと女子らしくない!」

有香たちもこれからきっと実習に向けてより忙しくなるのだろう。そういう時に悪かったな、と思ったが唯一の頼みの綱が有香だったのだ。

ありがとう、有香。


有香からのメールが届いたのは数日後。思ったより早かったな、と思っていたらそこにはビックリする内容が書かれていた。

「絵里の話をしたらね、美由紀っていう子だけど、

「いちいちあたしたちが間に入って話するの面倒じゃない? もう二十歳の人間同士なんだしさ、もう一気にズバッと会わせちゃおうよ、待ち合わせ場所と時間だけ決めてさ。お互い面識あるんでしょ?問題ないよ」だって。絵里も、そっちのほうがいいんじゃないかなと思って。好きな人との間に他人を二人挟むより、直接会えるようにするほうがいいかなと思って」

確かにビックリした。でも、純粋に彼に近づきたいのならば、間に人を挟むといろいろ面倒といえば面倒になる。急接近ではあるが、それも一つの手かもしれない。

「わかった。それでお願い。今は火曜と金曜にバイトが入ってるから、それ以外だったらいつでも大丈夫って伝えてもらえると嬉しい」

「了解! 美由紀に伝えとく」

「美由紀ちゃんにもよろしく伝えておいてください」

突然の出来事のあまり思わず敬語になってしまった。

……会えるんだ。目の前に、あの本郷くんが現れるんだ。もちろん、本当に現れるとは限らないし、そこで衝撃の事実を突きつけられるかもしれない。でも、遠くで見つめているだけだった彼が……。

それだけで嬉しくなってしまった。


返事は週末の金曜の午後に届いた。

「手っ取り早く、来週の月曜だから、2月15日かな。5限のあとでどうって。もちろん、本郷くんにも話はつけてるって」

月曜の5限は教職課程の授業がある時間だ。必修の授業だから二人とも同じ授業を受けている。

「5限が終わったあと、教育学部の1番教室に6時って話をしてある」

「わかった。よろしくお願いしますってお伝えください」

美由紀という子がどういう子なのかはっきりしない以上、とりあえず敬語で話しておいたほうが無難か。

その週の土日はなんだかぼんやりしてしまっていた。危ない危ない。こういう時にこそしっかりしないと。



そして、運命の月曜日がやってきた。

5限までの時間が長いようで、あっという間に過ぎていく。

4限までは自分の学部の専門の授業なので学部の友達と一緒なのだが、誰にもこの話はしていない。

5限の教室に移動して、いつもの席に着くと、見知らぬ女の子から声をかけられた。

「真中……絵里ちゃん?」

もしかして。

「美由紀……さん?」

「あー、よかった! そう、あたし、武川美由紀。 有香から聞いてたと思うけど。で、絵里ちゃん、覚悟は決めてきた?」

「は……うん」

「よし、いい返事。本郷くんは5限が終わったら教育学部の1番教室に向かう手筈になってるから、追いかけるもよし、待ち伏せるもよし。健闘を祈るわ!」

席に戻ろうとする美由紀を、私は慌てて呼び止める。

「美由紀ちゃん!」

「どうしたの、絵里ちゃん」

「ありがとう、見知らぬ私にいろいろ手を貸してくれて」

「恋のキューピッドっていうのも、なかなかいいものよ。がんばってね!」

そう言って、美由紀は友達のところへ戻っていった。まだ、彼は現れない。


5限が始まる直前、彼は友達と大勢で現れた。

心臓がドクンと音を立てる。

およそ90分のこのドキドキ、そしてその後の初対面。私は耐えられるだろうか。


夕方の6時近くになるともう辺りは暗くなっている。

5限が終わり、彼が友達数人と教室を出て行ったのを見て私も後を追った。

1番教室、1番教室……。数回は行ったことがあるが、まだそんなに馴染みのない教育学部の教室。

そのドアを恐る恐る開いた。

そこには、ひとりで、彼が待っていた。

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