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サファイアガラス  作者: 望月 明依子
第4章「つなぎあう手」
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第2話「スタンドバイミー」



純哉と合流して、お兄ちゃんとの待ち合わせの駅に着いた。

「よう、純哉、絵里」

「お久しぶりです」

「まあ、固くなるなよ。絵里もいるけど、野郎同士みたいな感じで遊ぼうぜ」

「で、どこ行くの?」

「ゲーセン。時間ないし、いろいろ楽しめるかなって」


昨日の夜。

「純哉、お兄ちゃんが一緒に遊ぼうって。もちろん、私もだけど」

「マジか……」

「イヤ?」

「いや、俺のこと覚えててくれたのが一番の驚きだ。お正月に絵里の家に行った時のお兄さんの歓迎っぷりは凄かったから、いつかは一緒に遊ぶことになるなとは思ってたけど」

「それが、まさかの明日」

「実感ない」

「まあ、待ち合わせの駅まで行こうよ」

最近で一番驚いたかもしれない。

初対面の俺を弟と呼んでくれて、遊びにまで誘ってくれた絵里のお兄さん。

素直に面白い人だと思う。一緒に遊んでみるのも、楽しいだろう。


お兄さんが連れて行ってくれたのは、大きめのゲームセンター。

「最近クレーンゲームの攻略みたいなのを見てさ、俺もやってみたらかなり取れるようになった。欲しいもの取るぞ」

最近流行りの動画だろうか。試してみたいと思っても、なかなか機会がなかった。

「純哉、どれがいい?」

「俺も、やってみたいです」

「お、やるか。何かクレーンゲームの動画見たのか?」

「はい、いろいろ見て、自分も試しにやってみたかったんです」

「よーし、二人で頑張るぞ。純哉が欲しいものも、絵里が欲しいものも、俺らに任せろ」

俺らは、何だか意気投合したようだ。悪い人ではない気がする。

「じゃ、両替してくるな」


お兄ちゃんは、たくさんの100円玉をもって戻ってきた。いったいいくら両替したんだろう。

「これくらいあれば、ずいぶん遊べるだろう。さ、純哉、どれにする?」

二人はいろいろな台を見て回っている。取れそうだとか、アレは厳しいだとか言いながら。

迷子にならないように着いて行くのにいっぱいいっぱいだ。

私もずいぶん前に100円とか200円くらいならやったことはあるけど、取れる気がしなくて諦めた。

自分には取れないと思ってた。

「絵里、来いよ」

「何?」

「ちょっと、やってみ。後ろで俺たちがサポートするし、取れやすいようにずらしといた。あと1回か2回で落とせそうだから、せっかくなら絵里が取ってみたらいいんじゃないか。絵里、今までこういうの取ったことなかっただろ?」

純哉も同意した顔をしている。

「やってみて、いいの?」

「ああ」

ドキドキしながら台の前に立つ。

後ろから二人の視線が刺さる。

「よし、いいぞ、いけ!」

クレーンのアームは、輪っかに引っかかり、景品がドスンと落ちてきた。

「わぁ!」

「絵里にも、できただろ?」

「うん!」

「じゃあ、次行こう。今日はなんでもいける気がする」

純哉と一緒にいるからか、お兄ちゃんは張り切っている。


結局、3人はたくさんの袋に入りきらないほどの景品を持ち帰ることになった。

「好きなやつ、持って帰れよ」

「お兄ちゃんは? せっかく取ったのに」

「じゃあ、これ。後は、二人で分けな」

お兄ちゃんはフィギュアを一つ取り、後は私たちに渡す。

純哉と二人でどれを持ち帰ろうかなやんで、景品を分け合った。

「また遊ぼうな、弟よ」


結局お兄ちゃんと純哉が二人で空港に見送りに来てくれた。

「今からどこ行く? 飲みにでも行くか?」

「あ、明日から仕事ですし」

「俺もだ。まあ、ちょっとだけさ」

純哉はしばらく解放されないようだ。

搭乗口に私とお姉ちゃん、お母さんが向かったのを確認した二人は、楽しそうに空港を後にしていくように見えた。



俺は絵里たちを見送った後、お兄さんに軽い飲みに連れて行ってもらい、締めに二人でラーメンを食べて帰った。

「純哉、絵里から話聞いたか?」

「何の話ですか?」

「あれ、聞いてないか。なら直接絵里から話を聞いたほうがいいな。たぶん、いい話だと思うんだがな、俺は」

何の話だろう。お兄さんは満面の笑みを浮かべている。

「純哉が俺の弟になる日が、また一歩近づく気がするぞ」

絵里から驚かされる話を聞くのは、数日後になる。


「え?いきなり?」

「自分でも驚いたけど、いつでも連絡していいって」

「じゃあ、もうすぐにこっちに来るのか?」

「今のところはまだ分からない……。おじさんにまだ返事もしてない。今の仕事の都合もあるし。せめて、1年間は今の担当している子たちを責任持って見てあげないと」

「まあ、そうかもな」

「自分の中で方向が見えたら、純哉にはちゃんと報告するから」

お兄さんの話は、これだったのか。

絵里がこちらに来ることは確定していないけど、お兄さんは絵里はこっちに来るつもりで俺に話をしたのか。

あのお兄さんの弟になる……それはつまり、絵里と一緒になるのを期待してるってことか。

俺はそのことについて異論はない。

ただ、絵里は実家を離れて、こちらで暮らしていくことに抵抗はないのか。それが不安だった。



純哉に話をして約一週間。そろそろおじさんに返事しないと。

「絵里の一人暮らしは、ちょっと心配といえば、心配よね。でも、おじさんは絵里に来て欲しいって言ってたよね」

「うん」

「絵里、あなたはどうしたいの? 今の仕事、簡単に投げ出せるようなものじゃないでしょ?」

「確かに、そうだけど」

お父さんとも、お母さんとも、お姉ちゃんとも話し合いをした。


そして、さらに1週間くらい経ったころか。うちに手紙が届いた。佳奈ちゃんからだ。

「結婚式、参加してくれてありがとう。すごく嬉しかった。絵里ちゃんがすごい勢いでブーケを取りに行ったのには驚いたけどね。次は絵里ちゃんだね、って話してたよ。

絵里ちゃんも結婚式するなら、その時にぜひ旦那さんを紹介してくださいね」

籍を入れて苗字が変わった佳奈ちゃん。幸せそうな写真にこちらも嬉しくなる。

もし、私があっちに行けば……。

でも、それは純哉次第だ。私の一存で決まるわけじゃない。

でも、今より会える時間は増えるかな。

いや、おじさんは「仕事」をくれたんだ。まずは、その仕事をできるかどうかだ。



絵里は「まだ正式に返事したわけじゃないけど」と言ってこちらでの仕事をうけようかという話をしてくれた。

「今の仕事も、やっぱり楽しいし、やり甲斐もある。でも、今までと違うことをやってみて、幅を広げてみたいなって思った。全く違うことをするわけじゃないけどね。おじさんにぜひ来てくれって言われてるし、これはチャンスなのかなって」

「そうだな、絵里がそう思うなら、新しいことをやってみるのは賛成だよ。ただ、実家を離れて、こっちに来ることは、大丈夫なのか?」

「純哉がいるから、大丈夫……なんて。冗談だよ」

俺はどきりとした。

久しぶりに、絵里に頼られた気がした。

まあ、半年近く離れてるから、そう感じるのかもしれない。

「おじさんとおばさんが、絵里ちゃんのことが心配ならうちが面倒みるよ、ってお母さんに連絡があったみたい。さすがに全面的にはお世話になるのは悪いけど、でも近くに親戚とかお兄ちゃんとか、純哉がいるのって心強いかなと思った」

「絵里」

口調が真剣になってしまう。

「何……?」

絵里の口調も真剣になる。

「こっちに、来いよ」

「え……」

「一緒に住もう」

「それって……?」

「……結婚しよう……いや、結婚してください……の方が正しいかな」

話しながら顔が赤くなるのがわかる。昔から何度となく言い続けてきたことなのに。

「うん……本当に、いいの?」

「こっちは、本気だ。3月24日に、絵里を迎えに行く。まあ、約束通りだけどな」

「嬉しい……」

絵里の声が弾んで聞こえる。

「でも、やっぱり」

その次の言葉が怖かった。

「せっかくもらえた仕事だから、きちんとその仕事はしたい。都会で私一人じゃ不安だけど、純哉がそばにいてくれたら、心強いと思う。だから……」

俺は絵里の次の言葉を息を詰めて待つ。

「純哉に一緒にいて欲しいし、私も純哉と一緒にいたい。私からも……結婚してください」

急に、本当に急に、「結婚」という言葉に重みを感じた。

でも、絵里と一緒にいたいと俺も望むことだ。この2文字のプレッシャーに負けてはいられない。

「ありがとう、本当に、ありがとう」

今の俺には、そう言うのが精一杯だった。


ただ、今から何かしようと思っても、何からすればいいのか。

絵里がこちらにいるわけでもないし、仕事の合間に一人でもできる準備って、何だ?

俺はしばらくいろいろと調べてみる。

「あ、そうか」

何より先に、絵里に渡さなくてはいけない大事なもの。

「とりあえず、探してみるか」

いまどきはサイズを後で変えられるものもあるらしく、それもありかな、と思う。


今は式とか籍を入れるということよりも、これから絵里と一緒にいられるようになる。それが一番嬉しい。

来年の3月24日は、俺にとっても、絵里にとっても、大事な誕生日になりそうだ。

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