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サファイアガラス  作者: 望月 明依子
第3章「3月24日」
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第2話「ボス」



7人という大所帯の温泉旅行も、楽しかった。

八重やなっちゃんとはかなり打ち解けてはいたものの、まだその他の男の子たちとはそこまで親しくなっていない時だったので、移動の途中やご飯を食べる時に話をする事ができた。

噂で私が純哉の彼女である事を知っている子がほとんどだったが、「今日知った!」という子もいてびっくりしたと同時に照れくさかった。

「そういえばさ、二人が付き合いだしたきっかけは?」

「そうそう、それ知りたい!」

質問した八重となっちゃんだけでなく、男の子たちも興味津々だ。

「言っていいのか?」

「……恥ずかしいけど、いいよ。なんて言うのか分からないけど、任せます」

「当時全くの他人だった真中さんに呼び出されて、告白された」

純哉はどストレートにあの時の事を話す。まあ、間違ってはいないんだけど。

「つ、強いね、絵里……」

「どうにかして、話すきっかけが欲しかったんだ。だから、友達に頼んでみた」

「で、間に入ったのが絵里の友達と、武川さんだった」

純哉の同級生だった山中くんは彼女の名前を聞いて何か感じたようだ。

「それがいつ頃のことなの?」

「大学2年の冬ごろか、大学3年の春の事だったかな」

「2年の冬だったろ」

山中くんが言い切る。

「えっ」

「美由紀が言ってた。『友達と、そのまた友達に頼まれごとしてて、恋のキューピッドってやつ? なんかワクワクする! 実行は今度の月曜なの』とか。それがお前らだったのか」

「ってことは……」

「あの頃、俺は武川美由紀と付き合ってたよ」

ちょっと悔しそうな顔で山中くんが言う。

「マジで……俺、それには気付かなかった……」

みんな、純哉と山中くんのやり取りを固唾を飲んで見守っている。

「今は彼女実家だし、遠距離になってさ」

「そうなんだ」

なっちゃんがさらに続ける。

「じゃあ、それからずっとこんな感じで付き合ってたの? まさか絵里は純哉くんを追っかけてきたってやつ?」

来た。入学前から、入学してからもずっと質問され続けていた事だ。

「本当に、偶然だったんだよ。全く追いかけたつもりなんてなかった」

「本当に~?」

「にしては、できすぎてるよね~」

それについてはみんなして同意してしまった。確かに、そう考えても仕方がないかもしれない。

まあ、最初は追いかけたつもりはないが、試験の最後の最後まで純哉に励まされてここまでこれたのだ。結果的には、追いかけたというより、手を取ってもらって走り抜けたと言ったほうがいいのか。




連休の最後の1日を、俺は絵里と過ごす事にした。

一緒にいるなら八重やなっちゃんと4人でいるか、たまに共有の研究室で二人でいる事があっても、ゼミやその他の授業の発表の準備に追われている事がほとんどだ。

連休後半は天気が崩れる事が多いが、最終日はなんとか持ち直してくれた。

いつもの海の見える公園。ドライブするにも、ゆっくり話すにもちょうどいい場所として学校以外での俺たちの定番の場所になっていた。

穏やかな春の1日。少しずつ日差しが強くなってきている。ドライブ日和だ。

窓を開けて、風を感じながら運転していく。

しばらくの休みがあったからか、俺にも少し余裕ができた。絵里も1ヶ月前のような緊張はもうなさそうだ。程よく力が抜けてきたといったところだろうか。

「いい天気だね」

「ああ、そうだな」

「明日からまた学校だね」

「またレポートとか、発表とかだよ。お互い頑張ろうぜ。バイトもあるんだろ?」

「うん」

「楽しい?」

「うん、この仕事は楽しいと思う。しばらく休んでたけど、やっぱりこういう仕事は好きだな」

「そういう感覚、大事だと思う。辛いことばっかりだと、参っちゃうだろうから。好きとか、楽しいっていうことが絵里のこれから先に繋がって行くかもしれないし」

「純哉は教えることが好きだったの?」

「俺は教えることっていうより、自分より下の従兄弟みたいな小さい子と遊んでるのが楽しかったんだ。遊ぶ以外にも宿題とかも教えたり、たまには悩み相談とかもされたよ。そうしているうちに、こういうことを仕事にできたらいいなって考えはじめて」

「そういうの、いいね」

「いつかは社会に出ないといけないなら、少しでも好きなことのほうがいいと思ってさ」

海からの爽やかな風が、俺らの間を吹き抜けてゆく。翌日からの日常に備え、その日は早めに切り上げた。




ゴールデンウイークが終わると、またいつもの日常に戻る。

授業、発表、レポートの繰り返しだ。

ただ、その間を縫って私たちは4人で八重の部屋でいろいろな世間話をするようになった。

全員参加が義務付けられている授業の後で、7人全員が集まって温泉のときの延長のような話をすることもあった。

その中で、自然と三原先生を「ボス」と呼ぶようになり、7人全員が集まってダベることを「総会」と呼ぶようになった。

八重の部屋で4人で集まるのはとりあえず部屋主である彼女の名を取り「八重会」と呼ぶことにした。

日頃の疲れをちょっとした集まりで発散させ、また次へのエネルギーにしていく。



私たちが入学して約3ヶ月。

季節は新緑から梅雨に入ろうとしている頃。

私たちは三原先生から依頼を受けた。

「今年の教育実習の、手伝いをしてくれないか」


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