忘れることの出来ないあの日
設定は結構ガバガバです。所々突っ込みたいところがあるかもしれませんが自前のスルースキルを発動させてくださいまし!
あの日、私-アリス・ベッカム-の人生は一人の女の子によって変わった。激的に何かが変わったって訳じゃないけれど私の生き甲斐であるテニスをする理由が変わった。
今までは好きだから、楽しかったから続けていた。結果はそれについてきただけ。
彼女と出会ったのは3年前の私が12歳のとき。U15の国際大会が地元イギリスで開催された年だ。
イギリス国内のジュニア大会では常に優勝、ウィンブルドン選手権の前哨戦と言われるエイゴン選手権では12歳にしてベスト16入りした。イギリスでは天才として名を馳せていた。周りにもちやほやされ、自分自身も天才だ、同年代で相手になる人なんていない、そう思ってタカをくくっていた。
だから彼女と対戦したときはただただ呆然としていた。手も足も出ないとはまさしくあのことだろう。
両親に日本人を持ち、純血で根っからの日本人の彼女はフランスの代表として大会に出ていた。なんでも幼い頃からフランスに住んでるらしい。同い年の彼女はやはり日本人らしく同年代と比べかなり小柄だった。それが決勝の相手だったのだから初めはがっかりしたものだ。早く終わらせて帰ろう、そう思いながらコートに立ち試合が始まる。
結果はストレート負け。1ゲームすら取らせてもらえなかった。
天狗になっていた自分が恥ずかしく思えた。あんなに小柄なのに、技術は磨き上げられどこに返しても、どんな打ち方をしても最後にはコースに打ち込まれる。
今のままでは彼女には勝てない。それからは必死に練習をした。もちろん大人相手で。
相手がいない時もサーブの打ち込み、フォームの確認や素振りから壁打ちまで基礎の基礎まで徹底的に繰り返した。
それでも彼女には勝てなかった。フランスの大会にも出たり、直接対戦を申し込みに行ったりもしたけれど勝てなかった。
時は皆同じだけ過ぎる。当然と言えば当然なのだっただろう。同い年だっただけにあれだけの技術を得るには相当の練習を積み重ねていたことは分かっていたはずなのだが気づけていなかった。私が練習を重ねた時間の分、彼女も練習をしているということに。
だから以前よりも更に練習時間を増やし自分をどんどん追い込んでいった。勝つのが楽しくて続けていたテニスもいつの間にか彼女に勝ちたくてひたすらにしていた。
そんなこんなで3年の時が過ぎ、あの日がやってきた。
その日は初めて対戦した日と同じU15の国際大会の日。以前と同じで決勝での対戦となった。これまでの戦績は全敗、彼女は大会3連覇を成し遂げ、最後の年も含め4連覇を目指していた。対する私はそれを阻止、最大の目標である彼女に勝つことを目指す。
「今度こそは負けないから。以前の私とは別人だと思ってくれて構わないわ」
「本当に?じゃあ今年は優勝出来ないかもね」
彼女はクスクスと笑いながら言っていたため普通なら喧嘩を売っているように見えるが、この3年間何度も対戦して来たためプライベートでも交流があり親友とも呼べる存在になった相手であり、テニスプレイヤーとして尊敬している人に言われてもそうとは思えず、ただ彼女らしいと思うと同時にどこか愛おしく思えた。
ーーーだから、だからこそこれからのテニス人生は彼女に捧げるものになった
結果は惜負。
あと一歩及ばず、といった感じだ。
「まだ貴方には勝てないのね。貴方に勝てる日はいつになるのかしら」
試合後、表彰が終わったあとのコート脇のベンチで彼女と二人余韻に浸っいた。
「いつかは勝てると思っているの?まだまだアリスには負けないよ」
試合前と同じようにクスクスと笑いながら挑発するように彼女は言った。
私は彼女のこの顔が好きだ。日本人らしく綺麗な黒髪に整った顔の彼女が笑えば誰だって見惚れるだろう。背も伸びてきて今では私と同じぐらいで165センチ程。モデルなんかもスカウトされたことがあるらしい。
「言ってなさい。直ぐに追い越すわよ」
そんな彼女にこちらも笑顔で返した時だった。珍しく地震が起きたのだ。今思い出しても自分は本当に軽率だったと思う。地震なんてめったに起きないため危機感がなく、彼女も少し気にしていたようだがそこまで大げさにしてはいなかった。
私も少しでも気にしていれば良かったのかもしれない。思ったよりも大きかった地震で整備不良だったのか、こちらに倒れてきている審判台に気がつけなかった。
彼女は私を庇い審判台の下敷きになり、すごい重いというものでもないのだがそれでも15の少女に重症を負わせるには十分だったものによって怪我をおった。出血が酷かったため慌てて救急を呼び病院へ。
暫くの治療の後に面会を許され真っ先に彼女に会いに行った。
「大丈夫。心配しないで」
いつものように笑顔でそういったことに違和感を覚えたが取り敢えず無事そうなので安心し、しばらく二人で喋っていると彼女の両親が来たのでその日はそのまま帰宅した。
それからもしばらく時間が空いては彼女の元へ見舞いに行くという期間が続いていたがある日、彼女は父親の仕事で日本に戻ることになったと告白した。
当然ショックは受けたが家の都合ならば仕方が無く、テニスを続けていればまた彼女に会える。ーーーそう思っていた。
◆
彼女が日本に行き3年が経とうとしていた。そのころには私も大人達に混ざり数々の国際大会で成績を残せるほどに成長していた。英国の美人騎士なんて呼ばれて知名度もうなぎ登り、ファンクラブなんかもできていた。でも一番のライバルであり、憧れの選手でもある彼女には一度も会えないままだ。
彼女が日本へ発ったときから開催された国際大会には全て出場した。だが彼女はどの大会にも出てきていない。足元にしか及ばなかった私がこれだけ世界で活躍出来ているのだ、流石に何かあったのかと心配する。
一度考え出すととまらなくなり、夜練習終わりに一人でご飯を食べている時に洗い物をしている母に聞いてみたーーうちの両親は私と彼女が仲良くなったのを機に彼女の両親と交流の機会が増え、所謂家族ぐるみの仲となっていた。そのため今も尚連絡を取り合っている。因みに私は次に会うときはコートの上で、とか言って彼女の日本での連絡先を知らないーーしかし返ってきた言葉に頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲った。
「もうテニスしてないわよ」
意味がわからなかった。
なぜ、なぜ彼女はテニスを辞めてしまったのか。
「3年ほど前の事故覚える?あの時の怪我の影響でね、彼女もうテニスはできないって言ってたわよ」
頭が真っ白になる。3年前の事故での怪我といえば私を庇ったときのものだ。でも彼女は病室でも、空港でも、どこでも笑顔で大丈夫だと言ってくれていた。いつでも元気だった。だから彼女がそんなことになっているなんて信じられないし、信じたくもない。自分のせいで自分よりも優秀な人を、それも憧れの人の未来を奪ってしまったなんて考えただけでも目眩がし、酷く頭が痛くなる。
その夜は眠ることが出来なかった。
過ぎたことは考えても仕様がないのにただひたすらに自分の愚かさを悔やんでいた
あれやこれやと考え、翌朝。
「ママ、私日本に行ってアオイに会ってくる」
◆ ◆ ◆
「ねえ、葵。本当にもういいの?」
「うん。仕方ないよ、腕がうまく動かないんだもん。お医者さんももう出来ないだろうって」
アリス達ベッカム一家に見送られ日本への航空便に私とお母さんは乗り込んだ。お父さんはまだフランスでお仕事があるため暫くは離れ離れになってしまう。
「アリスちゃんにはちゃんと説明できた?」
その問に私は顔を横にふる。
あの子のことだ、本当のことを言ったら自分のせいで、なんて言い出すに決まっている。タチが悪いことにどんどんネガティブにもなるに違いない。
だからこそ私は初めて彼女に嘘をついた。といっても本当のことを言っていないだけなのだけど。大丈夫、と言い続け、日本へ戻ることを説明する時も親の転勤だからということにしている。本当はそうじゃないからお父さんはまだフランスなんだけどね。
それでなんていったっけ、お医者さんが言っていたけどもうテニスは無理だろうって言われた時の衝撃が大き過ぎてあまり覚えていない。ただ脳への衝撃がどうとかって言っていた気がする。お母さんに聞けば分かるだろうけどあまり知りたくない。
その症状ってのが左半身に関するもので、左腕は上手く動かせないし肩より上には挙がらない。私の利き手は右だから日常生活にはあまり差し支えないけど両手を使うテニスはもう出来ない。もしその問題をなんとか出来ても左足が今までのように動いてくれないのだからどうしようもない。走ることは出来るみたいだけどね。
だから私は親にわがままを言った。今までテニスをやってきた地に居れば苦痛で仕方がない、日本に帰りたいってね。
私の全てだったものが突如としてなくなったからと両親も動いてくれた。お父さんとお母さんには本当に感謝してるよ。
「いろいろとありがとね、お母さん」
◆
日本へ戻ってきて早2年の春。明日からは進級し高校3年生となる。もう何ヶ月かしたらアリスと最後に試合をした日から3年が経つ。
そのアリスだがイギリスから遠い日本でも名の知れたテニスプレイヤーとなっていた。最近はやりの美しくすぎる〇〇みたいなノリで美しくすぎるテニス選手ってね。もちろん大会で結果を出しているからメディアの目にもとまってとりあげられるんだけど。
「活躍しているようで何より」
と、まあ私は嬉しく思う。今でもテニスのことを考えると多少は苦い思いをするがアリス関連となると話は別である。これから彼女は世界の頂点まで上り詰めるだろう。それぐらいのセンスとそれに頼りきらない努力をしているのだから。
「日本来ないかな」
また彼女に会いたい、抱きしめたい、いっぱいいっぱい話をしたい。
「まあ、無理か」
忙しいだろうし。
◆
「ねえ葵!聞いた?外国から転入してくる子がいるんだって!」
翌日、新しいクラスの新しい席に着くと、何の因果か3年間同じクラスとなってしまった美代が寄ってきた。
「いや、知らんけど」
毎度思うがこういうネタはどっから仕入れてくるのだろうか。まだ初日だよ初日。
「何でもすんごい美人らしいよ」
美人、ねえ。どんな人なんだろうか。
この時期にわざわざ海外から来る程だからわけアリなんだろうけど。
あ、なんかお腹痛い。
「ちょっとおトイレ行ってくる。先生に言っといて」
はーい、という言葉を背に急ぎ足でトイレに駆け込んだ。
―――
「ふう、スッキリ」
もう朝のホームルームも始まってしまっている頃なので教室へと向かう。トイレと教室が結構離れているというのはなんかこう、不便だ。
教室が見えたあたりで急に歓声が挙がった。何事かと思いもしたがそういえば美代が転入生がどうとか言っていた気がする。本当だったのね。
しばらくすると静かになり始めたので私も教室に入った。
「すいませーん。遅れましたー」
「おー、登戸。聞いてるぞ、席につけー」
担任の先生は去年と変わらず女の先生だった。カッコイイって一部の生徒からは人気がある。
「はーい」
返事をしつつ自分の席に向くと隣に見覚えのない金髪さんが座っていた。あれが転入生とやらだろう。確かにここから見てると美人かもって思える。
「あ、転入生はお前の隣にしたから。ベッカムさんだ、仲良くやれよ」
ん?ベッカム?
聞き覚えのある名前だ。
自分も席につき隣のベッカムさんに挨拶をする。
「よろしくねベッカムさん。私は登戸葵。葵でいいよ」
改めて横顔を見たけどすんごい美人。こりゃ騒がれるのもわかる。でもどこかで会ったような?
「ええ、もちろんそう呼ばせてもらうわ。でも私のことは昔みたいにアリスって呼んで欲しいわね、アオイ」
「ア…リ…ス…?」
瞬間何をされたのか分からず、理解するまで少し時間を要した。
「ずっと、ずっと会いたかったわ」
懐かしいニオイ、彼女に抱きしめられていた。
「本当に…アリスなの…?」
「ええ、そうよ。アリス・ベッカムよ」
つい昨日会いたいと思った人が、抱きしめたいと思った人が、いっぱいいっぱい話をしたいと思った相手が目の前にいる。
「アリス…アリス…」
ぎゅっと彼女を抱きしめ返す。嬉しくて涙が止まらない。もう会うことは無いかもしれないと思っていた分、余計に嬉しさが増していた。
「私もあなたとこうしていたいけど今は、ね?」
名残惜しくもあるが今はホームルーム中。その上アリスにも言われてしまわれれば離れるしかない。
「ええっと、なんだ、知り合いなら問題ないな。うん。それじゃあ朝のホームルームはこれで終わる」
先生もそう言って委員長の号令でホームルームは終了した。と、同時に私はアリスに手を引かれて屋上まで来ていた。
「屋上って入れなかったような」
「理事長先生がね、馴染めないかもしれないし一人の空間用って鍵をくれたの」
成程。羨ましい。
「それでアオイ。あらためて久しぶり」
本当に綺麗になったアリスの笑顔を真正面からくらい思わず赤面してしまう。
「ど、どうしたの?もしかして体調悪い?」
それに気付いたのかアリスが心配してくれている。それがたまらなく嬉しくて思わず顔がにやけそうになった。
「いや大丈夫。久しぶりに会ったアリスが美人過ぎてちょっとクルものがあっただけだから」
「ふぇ!?」
なんて言うと今度はアリスが赤くなる。些細な仕返しである。昔から変わってないなー。
「…うん。本当に久しぶり、アリス」
本当に久しぶり。3年会って無かったけれどもう何十年も会って無いような感覚。再開を喜ぶかのように辺りの空気もどこか暖かく感じていた。
「でもどうしたのアリス。日本になんか来て」
「…貴女に聞きたいことがあるの。3年前のことについて」
アリスは悲しそうであり、悔しそうな顔をしていた。こういう表情で聞いてくるということは私のことを聞いて来たのだろう。
「あはは、おばさんに聞いたの?」
出来る限りのとびきりの笑顔で答えたがアリスの表情は変わらない。どころか泣きそうになっていた。
「…ええそうよ。貴女は、わ、私の、せい、で」
ぐすっと鼻をすすりながら彼女の頬に水滴が流れた。
ふう、と息を吐きながら私は答える。
「もう、アリスは気にしなくていいのに。あれはアリスのせいじゃないのよ。気に病むことなんてないの」
「でも、でも!私がもっとちゃんとしていれば!あの時あんなところにいなければ!貴女は今もテニスを続けていれたのに!本当は貴女じゃなくて私が怪我をするべきだった!貴女ならもっともっと、それこそ世界のトッププレイヤーにだってなれていたのに!」
それなのに私のせいで貴女は、とアリスは言ってくれた。だが今のはいただけない。
「アリス、自分が怪我をするべきだったなんて嘘でも言ってはダメよ。貴女は今や誰もが期待し、尊敬する人なの。私だけじゃない、みんながあなたを見ているのよ。さっきもそうよ。貴女だから教室も盛り上がった、貴女だからこそ今もテニスの世界で活躍出来ているの。私が続けていれば貴女みたいになっていたとは限らないし、過去は変わらない」
…それに、それにね。
「確かに貴女の言うとおりになっていたかもしれないってのはある。けれどもういいの。私は今も貴女が楽しそうにテニスをしているだけでとても嬉しい。自分がコートに立つよりもアリスがコートに立っていることの方が嬉しいのよ」
ーーーだから、気にしないで。貴女は今のままでいてね
私はそっと、彼女を腕の中におさめた。
◆
「だから、気にしないで。貴女は今のままでいてね」
彼女の優しさに涙が止まらなかった。彼女にとっては私は憎むべき相手でもあると思うし、自分が逆の立場なら実際に相手を憎んでいたと思う。それなのに彼女は私がテニスをしている姿が好きだからと、気にすることは無いと言ってくれた。
私はその優しさに甘えるように彼女の腕の中で彼女の背に手を回していた。だけど一番辛いはずの本人が笑っていくれているのだ、泣いてなんかいられない。
「…アオイ」
「ん、もういいの?」
背中に回していた手を離し、アオイから離れる。その時に見た彼女の顔はどこか吹っ切れたような感じだった。
「ええ、ありがとう」
「気にしないで、英国の美人騎士さまのこんな顔なんてなかなか見れないし」
「もう!そんな恥ずかしい名前出さないで」
自分についた二つ名だが正直辞めて欲しい。恥ずかしすぎる。
「えー、いいじゃん。本当に美人なんだしさ」
「び、美人って…」
アオイに面と向かってそんなことを言われてしまうと恥ずかしくて今すぐこの場から去りたくなってしまう。
「だってそうでしょ?綺麗な金髪に澄んだ瞳、手足もスラッとしているけど、それでいてスポーツしてるから肉付きもいい。羨ましいなー。彼氏とかいるの?」
「い、いないわよ」
彼氏なんて作れるわけがない。寄ってくる人は多数いるけれど、そんな時間もあまり無いしなんて言ったって私には愛する人がいるのだから。…目の前に。
「本当に?私が男だったらすぐ襲っちゃいそうなんだけどなあ」
「お、おそ…!?」
「襲っちゃいそうだよ」
凄い晴れ晴れとした笑顔で言われてしまえば、たとえ彼女が同性であろうとも期待してしまう。
◆
それから暫く沈黙が続いていたけれど、それを破ったのはアリスだった。
「…貴女は女性だからそう思わないの?」
「え?」
察するに先程の続きなのだろうけれど、どういうことだろうか。
「だから、女性の貴女は私を襲いたいとか思わないの?」
何ともストレートな物言いである。いや、まあ当然それはイエスなのだがここまで直球で来るとは。
だがイエスなんて言えないだろう。彼女とはこれからも仲良くして行きたい。不安要素はできるだけない方がいい。だからここはふざけているように言った。
「なーに?私に襲って欲しいの?」
作り笑いも忘れずに。こう言っておけば彼女もじゃれてるだけだと思い流してくれる…はずだったけどーーー
「ええ、そうよ。今までずっと我慢してきていたけれどもう無理だわ。アオイ、私は貴女が好き。もうどうしようもないぐらいに貴女が好きなの」
まさか告白されるとは思わなかった。
「何も無かった私の世界に、貴女はいろいろなものをくれた。私の目標となってくれ、ともだちとなってくれ、仲間となってくれた。挙句の果てにはその身を犠牲にしても私を守ってくれた」
まさかそんなふうに思われていたとは。いやはや恥ずかしい。
「…こんなの惚れるなって言う方が無理よ」
最後は彼女も恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして俯きぎみになりながらそう言った。これは…可愛い。可愛い過ぎる。
「…気になっている人にそんなこと言われたら私も我慢出来なくなっちゃうよ?今この場で直ぐにでも押し倒してしまいたいけど」
向こうが直球出来たのだかこちらはそれを真っ直ぐに打ち返さないとね。流石に私も顔が赤くなっているみたい。
「…アオイがそれを望むならば、私は答えるだけだわ」
「ッ!アリス!」
…綺麗に真っ直ぐに返っていって彼女を倒してしまったみたいだ。
新学年、新クラス。同じ学校でありながら唯一新しいと言えるであろう変化のその変り目である初日。
春先であったその日は空気も綺麗で桜の花も舞っていた。どこからか風に煽られやってきたその花びらはあの場所にもながれてきていた。
あの日、あの場所で起こったことは私と彼女の二人だけの秘密。世界的に有名な彼女にスキャンダルなんて面倒くさいことになるのが目に見えているものね。
だから、だからこそあの日は私にとって、私達にとって絶対に忘れられない日。