卒業前夜
職業勇者
-空想やゲームにおいて悪に対抗する役割にあるものを演じる人、またその職業のこと。
我が家は代々勇者である。
父も祖父も曾祖父も、そのまた上もその上も先祖代々勇者なのだと聞かされること幾度かわからず。今や家系図を見ずとも図を思い浮かべることができるほどになっている。まさに由緒正しき勇者の家系であるというわけだ。
「我が家の男は勇者であれ。勇気がなくとも勇者であれ。弱きを守り強きと闘う、勇者たるものかくあるべし。」そのような家訓を聞くこと18年。とうとう私も明日の高等学校の卒業をもって勇者となるらしい。そろそろ年貢の納め時だとは思っていたが、まさかこんなにもきっちりした期日で決まるとは。卒業の感慨など髪の毛ほどもないが「感慨にふける暇もない」とわざわざ言ってやりたい気持ちもある。
そんなことを思いながらも時刻は夜の10時過ぎ。白い厚紙にゴム印をくっくと押しつける作業ももうあと10枚ほどで終わる。勇者に名刺などいるのだろうか。50枚目ですでに考えなくなっていた疑問をまた思う。
「職業、勇者。齢は18。特技は各種単純作業。掃除、洗濯など家事にも対応致します!自己紹介はこれで良いか。」
作業を終えて私は手についたインクを見た。自らに対する素直な感想が口に出る。
「お前が勇者で良いのだろうか。」