第二話
最初に人を殺したのは事故だった。
自称・神だという謎の男が自殺してみたいから、という理由で自身の神の能力を僕に押し付けたことが災いし、僕は地球から追い出されたようだ。
実際、僕の手に入れた力ってのは相当なものだったんだろうね。
確かに得た知識で自分に出来ることを考えてみれば、地球の科学力では不可能なことを片手間にできるのだから。
そう、「片手間にできる」というのが問題だ。
神の力は絶大であり、僕自身の感覚で加減しても大問題となる。
転位したのが異世界の、それも戦場だったことで、僕は僕らしくないが手に入れた力を使ってみたいと思ってしまったんだ。
最初は漫画やゲームでよくある「火の玉を出す魔法」を使ってみたんだけど、太陽みたいに大きい火の玉が飛び出て何人か……いや、何百人かが死んだけど別に人数は問題じゃないんだろうね。
それに気づいた戦場で戦っていた二つの陣営の両方が僕を殺そうとしてきたんだ。
そりゃそうだよね。こんな危なっかしい魔法が使えるような人間、殺さなきゃ自分が危ない。
だから僕は「手加減」をするつもりでその辺に落ちていた剣を手に取って斬っていったんだ。
これは事故だ。だって僕は自分の魔法がどれくらいなのか試してみたかっただけなんだから。
その威力に自分でさえ驚いたんだ。手加減して剣で斬る程度に済ませてあげる慈悲を分かってほしいんだよ。
「歴史を学んでも剣を手に取る人種の気持ちが理解出来なかったけど、力を手に入れた今ならわかるもんだね。
誰だって子どもの頃は小さな虫を意味無く潰すことが楽しかったんだろう?」
僕は子どもの頃を思い出していた。
だって目の前に群がってくる人たちは全員が僕の敵であり、虫以下の存在なんだから。
そうさ、これは仕方がない事故だんだ。
偶然、僕が神に出会って力を受け継いで異世界に渡る。
偶然、転移先が戦場で多くの人が僕の魔法や剣で死んでいった。
なんてことはない。偶然だよ。道を歩いて虫を踏んだことを気に止める人がいないように、僕は僕として生きているだけなんだ。
そんなことを考えながら、魔法は加減が出来ないから剣だけで群がる「虫」を殺していった。
自分が居た場所が戦場だということすら忘れそうな静けさに包まれた頃、僕は全ての「虫」を潰していた。
そして歩いていく。
この異世界で、僕が目指す僕にとって理想の平平凡凡とした生き方を探すために。
そうだね……、手始めに何処かの国を乗っ取って王様にでもなってみようかな?
ちょうど、この世界は戦乱で揉めているようだし、適当な国に行けば仕事には困らないだろうからね。