初めての朝 〜正妃は困惑する〜
朝、小鳥の囀りで目が覚めると、天窓から眩しい朝日が斜めに差し込んでいた。
ああ、眩しいわ。
そう思って寝返りを打つと、目の前に漆黒のつややかな髪が目に飛び込んできた。その髪に縁取られた端正な、でも男らしい顔立ち。まつげが長いのね・・・などと思い、はっと自分の置かれた状況に気がつく。
「!!!」
思わず身じろぎすると、その瞼が開いて、濃い青の瞳がエリリーテを見て、眩しげに細められる。
「ん・・・おはよう。そなたは小鳥のように早起きだな」
「お、お、おはようございます!」
エリリーテはおもわず飛び起きそうになって、再びトシェンの腕に引き戻された。
トシェンの腕の中!!
寝ぼけてなんかいられない。一気に目が覚めた。全力疾走した後のように、心臓が早鐘を打っている。どうして?何故?そんな疑問が頭の中を駆けめぐって、まさにパニック状態だ。
そうだ、昨日私は結婚式を挙げて、昨夜は新床だった。トシェン様に先に寝ろと言われて眠ったんだった。でも、「抱けない」と言っていたのに、どうして今腕の中にいるの?しかも、身動き出来ないくらいにしっかりと抱かれている。
「あ、あの私は?どうして?」
「ああ、そなたが私の衣を掴んだまま寝入ってしまってね。仕方がないから腕に抱いたまま寝てしまったのだが」
「ええっ!」
確かにトシェンの夜着の胸元には、握りしめられていたとおぼしきしわが寄っている。
「す、すみません、でした」
だが、起きた今も何故、自分は抱きしめられているのだろう?
「あ、あの、トシェン様?」
「ん、そろそろ起きなくてはな。それにしてもそなたは暖かいな。子どもは体温が高いと言うが・・・」
エリリーテは真っ赤になった。確かに、自分は子どもだが、暖を取るために抱いて眠るなどと。私は温石じゃないんですけど。
「お目覚めでしょうか?」
寝台の向こうから声がする。侍女のマーリンだ。
「ええ、今起きました。」
と、慌てて身を起こすエリリーテの髪を、またトシェンが手に取った。
「本当に不思議な色合いだな。宵闇の中では銀色に輝き、日の光に翳せば虹色に輝くとは・・・」
「あの、そろそろ王太子妃様のお召し替えを始めなければ、戴冠式に遅れては大変ですから」
遠慮がちにマーリンの声がする。
「仕方がないな」
そう言ってトシェンも起きあがって、一つ大きくのびをした。
「では后よ、後でな」
そう言い残して、トシェンが寝台から下りていく。
「后って・・・」
そう言ってぼんやりとトシェンの後ろ姿を見送る。
「トシェン様、お着替えをお持ちしました。」
次の間から聞こえてくる声はトシェン付きの小姓の少年の声だった。
「さあ、王太子妃様、おはようございます。手早く朝餉をお召し上がりになりましたら、正装に着替えなくてはなりませんので、寝台からお出まし下さいな」
マーリンはエリリーテにさっとガウンを羽織らせると、慣れた仕草で髪を整えてくれた。
次の間で、夜着からいつもの執務服に着替えて、エファーを羽織ったトシェンは部屋を出ようとして、大切なことを忘れていた事に気がついた。
「キリク」
先に出て行こうとした小姓を呼び止めた。
「今朝の朝食は正妃と共に取る」
「それでは、こちらにご用意します」
キリクと呼ばれた青年は笑顔で出て行った。
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まだまだこのお話は先が長いのですが、頑張って書きますので、応援よろしくお願いします!