美貌の騎士 〜姫は企む〜
挙式は吉日を占って、翌月、花の月2日に決められた。
花の月には祝日が無く、国民も花の月にも祝い事の日ができることを喜んだ。
婚礼の10日前にトリデアルダからエリリーテの父の名代で世継ぎの君であるローランがエリリーテの護衛騎士団長であったエルーシアンを伴って現れた。
まだ別れて数ヶ月しか経っていないのに、ローランは更に男らしくなったようにエリリーテには感じられた。
エリリーテと同じ虹色に輝く長い銀の髪をきちんとまとめて、白の王族のみが許されている正装に身を固めているその姿は、神の再来と賞賛されている美貌の父王にもよく似て見えた。
ローランはエリリーテのやつれた様子を気にかけていた。
「どうしたんだい?ちぃ姫は。まるで枯れ枝みたいに痩せてしまったじゃないか!」
と、会うなり侍女のマリーンに聞いたくらいだった。
「やはり、私はかわいい妹を愛妾のいる王になど嫁がせたくはなかったのだよ。辛い思いをしているんじゃないのかい?」
と、いう優しい兄の気遣いと、子どもの頃のように頬を包み込む優しい手を感じて、エリリーテは涙ぐみそうになって、目をふせる。小さい頃からローランはいつも優しかった。何かというとエリリーテを庇い、守ってくれていた。
「いいえ。トシェン様はとてもお優しいわ。気候の変化で体調を崩しただけよ」
とエリリーテは笑って見せた。
「それに、これからはエルーシアンが側にいてくれるもの」
そう言うと
「いつまでもエルーシアンに甘えてばかりでは困るが、まあ、王の許可も下りているのだから、しばらく置いていくよ」
ローランはエルーシアンを見て微笑んだが、エルーシアンは不機嫌そうに困った様な顔をして肩をすくめて見せた。
「まったく、エリリーテ様も面倒なことお考えになるものだから・・・」
とぼやいたエルーシアンに駄目!ナイショよ!とエリリーテが目配せをする。
ローランの傍らに控えたエルーシアンはトリデアルダの人々に一番多い薄い金色の巻き毛を背中に豪奢に流し、細身の身体を青い騎士服で固めていた。
意志の強そうな濃い青の瞳は不機嫌そうにすがめられていたが、それでもかなりの美貌の騎士の登場。
この国に来てからエリリーテの側付きになった侍女達の熱い視線を、神のごとき美貌の王子であるローランとの間で取り合っていた。
「で、この私にあなたの恋人になれとおっしゃる?」
エルーシアンは二人きりになるとエリリーテにそう聞いた。
「そう。こんなことお願い出来るの、あなたしか思いつかなかったんだもの・・・」
「はぁ〜」
と、情け無さそうにエルーシアンは溜息をつく。
「王は私のことをご存じない?しかもトリデアルダの奥宮のこともご存じない?」
「そうよ」
「そこで、一緒に王を騙してくれと?」
「ごめんなさい」
「まあ、姫様がずっとトシェン様に憧れていらしたのは知ってますよ。それで?一目で恋をして?それなのになんで私が恋人のふり?」
「だって・・・。トシェン様には幸せになってもらいたいの。もちろんダリューシェン様にも。私は邪魔なのよ。お飾りの形だけの正妃でいいの。でも、それではトシェン様にとって私が重荷になる。それは嫌なの」
「・・・それで、自分が悪者になろうと?」
「ええ」
「まったく〜。お人好しなんだから!」
「エルーシアン、お願い!!」
不機嫌もここに極まれり!といったような仏頂面のエルーシアン。しばらく考え込み、盛大に溜め息をついた。
「ああ〜〜〜もう!まったく!仕方のない姫様だ!!その代わりバレたとき何言われてもしりませんからね!」
「ありがとう!」
このエルーシアンも乳兄妹のエリリーテにはからきし弱かったのだった。
まったく、姫にはかなわないなぁと、エルーシアンはため息を付く。
なんでこんなに真っ直ぐで優しい子が、そんな悪役になろううていうんだか。かなり無理があるよね・・・。そんな風に思ってしまう。
正妃の子であり、最近では神王族の中でも稀になってしまた、神々を模した容姿を持って生まれたのに、つねに控えめで、自分の事よりも常に周りの人々のことを気遣える優しい乳兄妹の姫のことをエルーシアンはとても大切に思ってきた。
「エリリーテを泣かすヤツなんて、本当に手加減してやらないからな」
エルーシアンは拳を握りしめると、そう、決意を新たにするのだった。
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夢みたいだなぁ〜と、信じられない思いです。
嬉しかったので、調子に乗ってどんどん書いちゃいます(笑)
物語的には、まだ、起承転結の起の部分です。長い物語ですが、頑張って進めていきますので、読んでやって下さいませ。