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正妃の偽り  作者: 雨生
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【番外編】旅立ちの朝 〜騎士は別れを告げる〜

短いです。

第61話の数ヶ月後、春のある朝の出来事。

エルーシアンがトリデアルダでの役目を終えて、帰国する日の朝の情景です。



 旅立ちの日、空は晴れ渡り、眩しい朝の光が降り注いでいた。

 

 エルーシアンは騎士の礼装である青い騎士服に、旅装である黒いマントを纏って、輝く金の髪を飾り紐で後ろに一括りにして、朝日を背にして立っていた。


「エルーシアン・・・」

 別れの寂しさに、今にもこぼれ落ちそうな涙を湛えた宝玉のような紫の瞳。朝日を浴びて虹色に輝く銀の髪。今日のドレスはシンプルな形だが、光沢のある布地が美しい深い青のドレスだった。旅立つエルーシアンの青い騎士服に揃えてくれたようだと、エルーシアンは目を細めてその姿に見とれる。

 ああ、やっぱり、あなたより美しい人は居ないよと、エルーシアンは一人、胸の内で呟き、いつものように抱きしめようと両腕を差し伸べたが、その佳人は横から伸びてきた腕に攫われた。

「陛下・・・」

「トシェン様?」

 ニッコリ微笑んで、エリリーテをその黒いエファーを纏った腕の中に閉じこめるのは、この国の王であり彼女の夫であるトシェンだった。

「陛下・・・、お別れの挨拶なんですから、少しくらいいいじゃありませんか?」

 王の後ろから現れた、白い近衛騎士の礼装姿のクリアージュが呆れた顔をして苦笑している。

「いや・・・、ついな。許せ、エリリーテ」

 そう言って、とろけるような微笑みを腕の中に捕らえたエリリーテに向けるトシェン。困ったように微笑みながらも、頬を染めるエリリーテ。

「「はぁ・・・」」

 エルーシアンとクリアージュの聞こえよがしなため息も、彼の耳には届かないようだった。  


 お互いの想いを確認しあってからというもの、王の正妃へのいきすぎた独占欲やら、愛情表現に、彼等の周りの誰もが辟易しているのだった。


「まったく・・・デレデレしてみっともない・・・」

「エ、エルーシアン?」

 さりげなく、でも強引に、王の腕の中からエルーシアンがエリリーテを奪い返しその手を引く。そのまま跪き、騎士の礼をとる。

「エリリーテ、どこにいてもあなたのしあわせを祈っているから。どうか、無理せずに、いつまでも健やかに」

 そしてそのたおやかな手の甲に口づけを落とす。

「エルーシアン・・・」

 涙が溢れてしまうのを止められず、エリリーテは大好きな幼なじみの顔を見つめる。そっと手を引いて立たせて、その胸に抱きつく。小柄なエリリーテより頭一つ背が高いエルーシアンは、その腕の中に大切に守ってきた姫君を収める。

「エルーシアン、本当にありがとう。あなたのおかげで、本当に私、しあわせよ」

 エルーシアンはいつもそうしていたように、そっと虹色に煌めく髪を撫でる。

「まだまだ、もっともっとしあわせになれるよ。エリリーテは良い子だからね」

 そして、その青い瞳を憮然とした顔で二人の様子を見ている王に向ける。

「まだまだ、こんなもんじゃないですよね?陛下」

「ああ、もちろんだ。今まで辛い思いをさせた分、沢山のしあわせを与えたいと思っている」

 そして、エルーシアンはエリリーテの手を、王の隣に佇むクリアージュに渡す。

「クリアージュ様、エリリーテ様の警護を只今をもちましてあなたに託します。エリリーテ様を頼みます」 

 クリアージュはフッと微笑んでその言葉に応えた。

「ああ、もちろん。この命にかけて守ってみせるよ」


 彼等に別れを告げると、エルーシアンは朝日の中を颯爽と旅立っていった。


「ラブラブなトシェンとエリリーテを!」とか「エルーシアンのお話しを」とリクエストして下さった方に、このお話しを捧げます。


雨生あもう

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