ハッピーエンド 〜王と正妃は愛を語らう〜
〈注意〉
本日は数話まとめてのUPとなっております。
最新話から入られた方は遡って、前回お読み頂いた所からお読み頂けたらと思います。
「エリリーテ。よくも私を騙していたな!」
「?」
トシェンはそっと身体を離すと、エリリーテの乱れた前髪を直してくれた。
「エルーシアンのことだ」
「・・・エルー・・シアン・・・が何・・か?」
「『彼』ではなく『彼女』だったってことだよ」
「あ・・・!」
いつの間にか、エルーシアンのことがばれていたようだった。
そう、エルーシアンは実は女性なのだ。
エリリーテの故国では奥宮には王以外の男性は立ち入ることが出来ない。
それ故、奥宮の護衛官ももちろん女性騎士が勤めるのだ。
「今のはそのお返しだよ。まったく。私としたことが、目がくらんでいたのか、そんなことも見抜けなかったとは・・・」
「ごめん・・なさい」
「本当に!そのことでどれだけ私が悩んだのか分かっていないだろう?」
エルーシアンのことでトシェン様が悩む?何故かしら?今のはお返しって?さっきの・・・キスのこと?
思い出した途端にエリリーテの頬は熱くなり、薔薇色に染まった。
「その・・・な・・・ぜ?」
「何故って・・・」
今度はトシェンが見る間に真っ赤になっていくのを不思議な気持ちでエリリーテは見ていた。
「そなたの、その・・・愛人なのかと思っていて・・・。」
クスッと笑ったエリリーテの弱々しい笑顔を見て、トシェンは急に不安になる。
「その・・・。まさか、その・・・本当に恋人って訳じゃないだろうな?・・・女同士で・・・」
声を出すのが辛くなっていたエリリーテは、そっと首を横に振る。
するとまためまいがして、エリリーテは目を閉じる。
トシェンは握っていたエリリーテの手を強く握りしめた。
そのまま眠りの淵にまた誘われて行きそうになっていたエリリーテは、握りしめられた手の力強さに、再び覚醒する。
「眠いか?」
こくりとうなずく。
「もう少しだけ、私の話を聞いてくれ。」
「あの〜」
控えの間からマーリンが顔だけ出している。
「その・・・。お休みになる前に薬湯を飲んでいただきたいのですが・・・」
マーリンの方を振り返ったトシェンが手招きして、やっとマーリンが薬湯の入った器を持って入ってきた。
さっきの光景を目にしたせいか、落ち着かない様子で、まだ少し頬が赤い。
「まだ、自分では飲めないか?」
「起こして・・・下さい」
すると、トシェンは注意深くそっとエリリーテの枕元に腰掛けて、エリリーテの身体を抱き起こして支えてくれた。
マーリンから器を受け取ると、そのままエリリーテの口元に運んでくれる。
「エリリーテ様。本当にようございましたね・・・」
マーリンの目は真っ赤だ。
元気になったことに喜んでくれているのか、それともトシェンへの叶わぬ恋が少しは報われたと喜んでくれているのだろうか。
「正妃はもう大丈夫のようだ。そなたも下がって休むがよい」
「でも・・・」
「大丈夫。正妃には私が付いていよう」
器を受け取りながら、マーリンは困惑したような表情を浮かべている。
「正妃様はもう少しお休みになられるようにと、エイファン様が・・・」
「わかっているよ。でも、もう少しだけ。疲れさせないようにするから。どうしても今話しておきたいことがあるのだ」
「わかりました。では、少ししたらお休み下さいね。何かあればお声をかけて下さい」
マーリンが出て行くと、エリリーテは再びそっと抱きしめられた。
トシェンの腕の中にいる歓びと、安心感で、瞼が再び重くなる。
「エリリーテ。聞いて欲しい」
トシェンはごくりとつばを飲み込んだ。
「私は・・・そなたを愛している」
エリリーテは息を飲んで、その言葉の意味を受け止める。
エリリーテの閉じた両方の瞳から、涙の滴がこぼれ落ちた。
なんて、なんて幸せなんだろう。
愛せないと言われて、絶望し、それでも自分の中の思いに目を背けずに正直に生きようと思った。
たとえ片思いでも愛し抜こうと誓ったエリリーテの思いが報われた瞬間だった。
エリリーテはそのまま眠りに落ちていった。
幸せそうに微笑んだまま眠るエリリーテを、トシェンはいつまでもそっと、大事な宝物を抱いているように抱きしめていた。
エリリーテが起きあがれるようになったのは、それから10日後だった。
トシェンがようやく起きあがれるようになったエリリーテに、腕一杯の白バラを抱えて持ってきてくれた。
「エリリーテ。そなたの本当の思いも、エルーシアンから聞いたよ」
「え!」
エルーシアンは全てをトシェンに告げたのだろうか?エリリーテの秘めていた恋心さえも・・・。
「すまなかった・・・辛い思いをさせた」
「いいえ」
「私は愚か者だな。もう少しで、そなたとダリュー、二人とも不幸にするところだった。改めて言う。・・・そなたを愛している。たぶん、一目見た時から」
「私もです。初めてお会いしたときから、ずっとお慕いしておりました」
二人はそっと寄り添って、優しい口づけを交わすのだった。
エルーシアンは、エリリーテのしあわせを見届けると春になるのを待って、祖国トリデアルダへ帰っていった。
翌年、トリデアルダの皇太子が妃を娶った。
その祝いに招かれたトシェンと供をしたクリアージュは、皇太子妃の姿を見るなり開いた口が塞がらなくなるほど驚いたのだが、それはまた別の物語。
数年後エリリーテはトシェンとの間に姫を授かる。
そして更にその数年後、エリリーテは病の床につき、その短すぎる一生を終えることになる。
生まれた姫はリリアールと名付けられ、母から受け継いだ美しい容姿が元で、数奇な運命をたどることになるが、これもまた別の物語である。
〈完〉
ここまでお読み下さった皆様、本当に感謝の気持ちで一杯です。
心からの「ありがとう」を贈らせて下さい。
今まで、ずっと、一人で書いていました。
「そんなに書くのが好きなら、誰かに読んでもらったら?」
そう、背中を押してくれたのは、私の大切なパートナーでした。
思い切って投稿してみたら、読んで下さる人がいて、感想を下さったり、応援して下さったり、誤字脱字を教えて下さったり、本当に様々な反応があって、そして何より、エリリーテを応援して下さったことが励みになりました。
私の中で生まれた物語が、多くの人に受け入れてもらえた。
それが、今年、私が一番嬉しかったことでした。
本当に、読んで下さってありがとうございました。
この物語の先には、実は本編となる物語があります。
また、皆様にお届けできるように頑張りたいと思います。
とりあえず、年明けに、皆様への感謝の気持ちを込めて、番外編としてトシェンの母、リュエマ妃の物語をお届けしたいと思います。
無事に、お約束通りこの物語を2012年内に完結できた事を喜びながら、読んで下さったみなさまと、そして、いつも応援してくれる私のパートナーyukiさんにありったけの感謝を込めて!
この物語、完結です!
ありがとうございました!!
皆様、良いお年をお迎え下さいませ!!
雨生




