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正妃の偽り  作者: 雨生
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悲しい結末 〜正妃は号泣する〜

 その日の夜は、園遊会の前に訪れた客人をもてなすための晩餐会が華やかに行われた。

 

 エリリーテは、いつもにも増して元気が無い様子のトシェンのことが気に掛かっていた。

 いつもより多く酒杯を重ね、少し酔った様子で足下もおぼつかない様子のトシェンが心配で、クリアージュに頼んでエリリーテの寝室まで連れて来てもらった。

「トシェン様、お水です」

「ああ・・すまない・・・飲み過ぎたか・・」

 寝台に腰掛けたトシェンが水を飲んでいる間に、エリリーテはついたての後ろにおいてあった着替えの夜着を持ってきた。

「あの、いつものようにご自分で着替えられますか?」

「ああ・・・そうしよう・・・」

 そういうと、突然トシェンが服を脱ぎだしたので、エリリーテは驚いて慌てて後ろを向く。同じ寝台に休んでいるとはいえ、着替えるところさえ見たことはなかったので、ドキドキしてしまう。

「私も着替えてまいります!」

 そう言うと部屋を飛び出し、マーリンを呼んで夜着に着替えさせてもらう。


 しばらくして、部屋に戻ると、トシェンは寝台に腰掛けて水を飲んでいた。

 晩餐会で着ていた衣装はきちんと寝台の側の台の上に畳んで置いてあり、夜着も着ている。でも、ボタンが段違いだと気がついて、その様子がなんだか可愛く思えて、思わずクスクス笑ってしまう。

「何だ?」

「いえ・・・マーリンがエイファン先生に二日酔いにならない薬をもらってきてくれましたから、お飲みになって下さい」

 そう言うと、エリリーテは煎じ薬が入っているカップを手渡す。するとトシェンはすごく嫌そうに眉を寄せる。

「・・飲まなきゃ・・ダメか・・・」

「はい?」

「いや・・・これは・・・凄まじく苦いんだ・・・」

 胸元のボタンは掛け違えたままで、薬が苦いから嫌だと困った顔をするトシェンが可愛くて、エリリーテはクスクス笑い続ける。

 笑うエリリーテにムッとした顔をしたトシェンは、グッと一気に薬湯を煽った。

「・・・っ・・・ニガっ・・」

「もう・・・子どもみたいですわ、トシェン様。飲み過ぎたのはご自分ですから仕方ありませんわね」

 エリリーテは笑いながらそう言うと口直しの水を渡し、そっとトシェンの胸元に手を伸ばす。

「ボタンも掛け違ってますし・・・」

 そう言って掛け違っているボタンを外していく。

 すると、トシェンの鍛えられたたくましい胸元があらわになった。

 そこでハッとエリリーテは自分がしていることに気が付いて真っ赤になる。

 まるで、トシェンの服を脱がせているようだと・・・。

 慌てて正しい場所にボタンを留めようとするが、焦ってなかなか留まらない。

 すると、そのままその胸に抱きしめられてしまった。


「っ・・ト、トシェン様っ!」

 慌ててもがくエリリーテをその腕の中に収めてトシェンは動かない。

「今日・・・」

 耳元でトシェンの声がして、ますます慌てるエリリーテ。

「えっ?今日?今日がどうかしましたか?」

 ジタバタともがいても、トシェンの腕はびくともしない。

 トシェンは小さくため息を付いたあと、そっと低い声でエリリーテに告げた。

「ダリューシェンに・・・言ってきた。もう、私の気持ちは忘れて下さいと・・・」

 エリリーテはトシェンの腕の中で固まる。

「・・何故?・・どうして・・・」

 深く息をしたあと、静かな声でトシェンは呟く。

「私の気持ちは・・・ダリューシェンを困らせてしまうから・・・」

「トシェン様・・・」

 そっとエリリーテを抱きしめる腕に力が入る。

「仕方がない・・・こうするしかない・・・彼女のしあわせを願うなら・・・」

「・・・っく・・・」

 エリリーテはたまらず泣き出していた。胸の中にいるから、トシェンの表情は分からない。でも、ここ最近時折見せていた苦しげな顔が目に浮かんだ。

「何故・・そなたが泣く?」

 そっとエリリーテをあやすように、トシェンが背を撫でてくれる。

「そなたの好きな物語・・・やはりハッピーエンドにしてやれなかったな・・・すまない・・」

「・・トシェン様っ・・・」

 トシェンの少し掠れた声は、涙声だった。

 何も、何もして差し上げられなかった・・・。この方のしあわせを祈っていたのに・・・。

 その時、トシェンがささやくように言った。

「エリリーテ・・・ありがとう。そなたの存在に私は救われている」

 その言葉にエリリーテの涙は止まらなくなってしまった。

「私はっ・・・何も出来なくて・・・」

「そなたが側にいてくれて良かった・・・もし、独りだったら私は・・・ダリューに言えなかったかもしれない。そなたの存在が、私の背中を押してくれたのだよ」

「トシェン様・・・」

 エリリーテはトシェンの胸の中で、声を押し殺して泣いた。二人のしあわせを祈ったのに、皮肉にも自分の存在がトシェンに決別の言葉を告げさせてしまうなんて・・・。

 でも、自分がいつの間にかトシェンの支えになれていたのだということは嬉しいとも思った。

 私が支えになれるのなら、たとえ愛されなくてもいい。ずっとお側に居ますから。そう心の中でエリリーテは誓う。


 その夜、エリリーテとトシェンは、そのまま手を繋いで、寄り添って眠りについたのだった。



 読んで下さってありがとうございます!


 ようやく少し、エリリーテの想いが報われたかと思うのですが・・・。


 なんとか今日中に最終話までUPできるか?

 年越しのための家事の隙間を縫って、がんばります!


 雨生あもう 

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