告げられた想い 〜騎士は告白する〜
クリアージュは二年ぶりに姉のダリューシェンに会いに行った。甥っ子で、彼女の息子であるティカーン王子のお供をしていったのだ。
「母様!」
ダリューシェンの腕の中に駆けだしていくかと思ったティカーンは、もじもじとクリアージュの手を握ったまま母を見つめている。
「ティカーン・・・大きくなりましたね。よい子にしていましたか?」
そう言って手を差し伸べられて、やっとティカーンは母であるダリューシェンの元へ駆けだし、腕の中に飛び込んだ。
「クリアージュも。すっかり立派になって・・・」
寝台の上に身を起こし、我が子を胸に抱いて微笑む姉はやはり変わらず美しかった。
「すっかりおじさんになったとか、そういうこと言いたいんでしょう?」
茶目っ気たっぷりにクリアージュがそう返すと、ダリューシェンの腕の中にいたティカーンがキョトンとした顔をして言う。
「クリアージュはずっと僕の叔父上だよね?」
姉と弟は久しぶりに声を出して笑い合ったのだった。
午後の公務を終えたエリリーテが、エルーシアンに付き添われて部屋に戻ろうと回廊を歩いていると、ティカーン王子を抱いたクリアージュと出会った。
「あら、ティカーン様はお休みなのですね」
エリリーテはクリアージュの腕の中で眠るティカーンを覗き込む。
「ええ。今、離宮から戻りました。はしゃぎすぎたのか馬車の中で眠ってしまわれたので」
そう言って腕の中のティカーンを抱え直すクリアージュ。
「お話ししたいことがあります。後でお部屋に伺ってもいいでしょうか?」
クリアージュに聞かれて、エリリーテが頷くと、エルーシアンがクリアージュの肩に手をかけた。
「表からずっと王子を抱きかかえていたのなら、大変だったでしょう。代わりますよ。そのかわりエリリーテ様を部屋までエスコートして下さい」
エルーシアンはそう言うと、クリアージュの腕からティカーン王子を抱き取る。
そのまま、早く行けと言わんばかりのエルーシアンの促すような眼差しに、苦笑いを浮かべながらクリアージュは手を差し伸べてエリリーテをエスコートして行くのだった。
エリリーテはクリアージュにすがりついて泣いてしまったことを思い出し、落ち着かない気持ちだった。
しかも、あの時、クリアージュはエリリーテの本当の気持ちに気がついているようなことを言っていた。
微妙に緊張した様子のエリリーテを正妃の部屋の居間へと導きながら、クリアージュは微笑を浮かべていた。
「今日、ティカーン様を姉の元にお連れしました」
「そう、喜ばれたでしょうね」
「ええ・・・」
エリリーテをソファーまでエスコートすると、マーリンが香草茶を持ってきてくれた。
「大事な話があるから」
と、クリアージュが人払いをすると、部屋の中にはエリリーテとクリアージュ二人だけになった。
「私も久しぶりに姉上にお会いしました」
「そうでしたね・・・」
「あなたにお会いしたいと、そう言っていました」
「そう・・」
エリリーテは微笑みを浮かべていたが、クリアージュはそっとその頬に手を触れて言った。
「言ったでしょう?私の前では我慢しないで下さいと・・・」
エリリーテはその言葉に俯いてしまう。
「姉上は・・・相変わらずでした・・・。たぶん、姉上がトシェン様のお心を受け入れることは無いと思います・・・」
「そんな・・・」
エリリーテの美しい宝玉のような紫の瞳から、涙が溢れた。
「トシェン様は、あんなに・・・思っていらっしゃるのに・・・」
両手で顔を覆って泣くエリリーテの肩をクリアージュは抱き寄せる。
「姉に・・・遠慮することはないのですよ。あなたはあなたの想いを告げればいい」
「・・っく・・・」
泣いているエリリーテの耳元に、そっと唇を寄せながら、クリアージュがささやく。
「でも、もし、あなたが・・・正妃の座を降りたいとおっしゃるなら、私の元に来て頂けませんか?」
突然の申し出に、頭が真っ白になったエリリーテは思わず顔を上げ、クリアージュを見つめる。
「私なら・・・あなたを泣かせたりせず、ずっと大切にお守りすると誓います。あなたを・・・愛しています」
耳元でそう告げられて、そのまま耳に口づけられて、エリリーテは固まった。
その時、バン!と音がして、開け放たれた扉からエルーシアンが入ってきた。
「はい、そこまでですよ、クリアージュ様!それ以上、正妃様に対する無礼は許しませんからね!」
睨み付けられたクリアージュはわざとではないかというくらい、ゆっくりとエリリーテから離れ、エルーシアンに笑って見せた。
「そろそろ現れると思っていたよ」
「まさか、ここまでの暴挙に及ばれるとは・・・騎士の振るまいとしてあるまじき行為では?」
そう憤るエルーシアンにクリアージュは笑顔で言い放った。
「騎士だとて、愛する人の前では等しく男なのですよ」
あと少し!あと数話でラストです。
読んで下さってありがとうございます!
やっぱり、明日は紅白横目にラスト更新かしら?
間に合うのかな・・・いや、間に合わせねばと気合い入れます。
頑張りますので応援よろしくお願いします!!
雨生




