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正妃の偽り  作者: 雨生
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秘められた想い 〜正妃は寄り添う〜

 その次の朝から、それは始まった。

 毎朝、エリリーテの元に届けられる薔薇の花・・・。

 もちろん送り主は夫であるトシェンだった。


「わかりやすすぎる・・・」

 と、エルーシアンとクリアージュはあきれる。

 エリリーテだけが訳が分からず困惑していたが、トシェンはダリューシェンに花を届けるなら、正妃であるエリリーテにもやはり同じ花を贈るべきではなかったかと、そう思ったというのがトシェンの言い分だった。


 そして、一日おきにトシェンはエリリーテの寝室に泊まりにやってくるようになった。

 ただ少し話しをして、キタルを弾いたりして、エリリーテが眠りにつくまで相手をしてくれる。

 それはトシェンなりの気遣いなのだろうとエリリーテは思っていた。

 賊に襲われたエリリーテが、怯えたりせず心穏やかに過ごせるようにと気遣って下さっているのだと。

 周りから見れば、ますますトシェンのエリリーテへの寵愛が深くなっているようにしか見えないのだが、当人達は全くそれに気が付いていない。


 そして昼間はエルーシアンとクリアージュが交代で護衛に付き、その側を近衛の騎士達が守っている。その様は「騎士達を侍らせている」ようにも見えた。

「陛下の寵愛を欲しいままにしながら、騎士達も侍らせているなんて!!」

 と、エリリーテは城中の女性陣にうらやましく思われていたが、その女性陣も諦めざるをえない程に、今のエリリーテは光り輝いていた。


 正妃としての公務を完璧にこなすだけでなく、政務補佐官のルイレイから政治的な講義も受けるようになって、少しづつ社交的な場などでトシェンの補佐をするようになっていた。

 それは母エメリリアのように正妃として独り立ちしたいという、エリリーテの願いをトシェンが聞き入れたものだった。

「お姫様に政治ができるのかね?」

 と、最初は否定的だったルイレイも、エリリーテの聡明さには舌を巻いていた。

「陛下の補佐として、外交や社交の場で活躍して下さる分には構わないだろう」

 と、長老方も認めていた。 

 仲むつまじく寄り添って社交や外交の場に現れる二人は、何よりも政治的な意味でトリデアルダとリアルシャルンの国同士の結びつきを雄弁に語るものだったからだ。



 その日も前正妃であったフリューレ妃の母国エルンからの使者であるオルドラル王子を迎えての晩餐会が開かれていた。

 オルドラル王子は明るく話し上手で、エリリーテも楽しく過ごすことができた。いつもより上機嫌で酒杯を重ねたトシェンは、少し酔ったようだとぼやきながら、エリリーテの寝室に現れ、そのままいつものように眠りについた。


 夜半、エリリーテが目覚めると背中が温かかった。

 そっと身を起こすとすぐ隣にトシェンが眠っていた。

 端正な寝顔にドキリと胸が高鳴る。規則正しく上下する胸。かすかな寝息。


 憧れの人の寝顔を、今、私は独り占めしている。

 ただの憧れが、出会ってすぐに恋心に変わり、深く知ることで愛に変わった。

 今、こうして、この人の隣で、そっと寝顔を見ていることが奇跡のようだとエリリーテは思う。

 いつの間にか、涙が頬を伝い落ちていく。


「愛しています・・・」

 そっと、聞こえないくらいの小さな声で呟く。

 たとえ伝えることができなくても、大好きです。こうしてお側に居られるだけでしあわせです。 

 告げられることの無い想いが溢れていく。

 妻として愛されなくても、正妃としてあなたの子供を産むことができなくても、側に居て、母エメリリアのように、王であるあなたを支えていけたらしあわせ・・・。それがダリューシェン様が目覚めるまでの、短いひとときであったとしても・・・。


 今、ひとときだけ、この寝顔は私だけのもの・・・。


 そっと寄り添うように、トシェンの隣で横になったエリリーテ。

 すると、トシェンが微かに身じろいだ。

「ん・・・エリリーテ・・・」

 そのまま、その腕にそっと抱き寄せられて、エリリーテは固まる。

「トシェン様?」

 そう呼びかけてみるが、トシェンの瞼は閉じたままだ。規則正しい寝息もそのまま。寝ぼけたのだろうか? 

 今だけ・・・今だけだから・・・。エリリーテはそのままそっとトシェンの胸に寄り添う。胸は痛いほどに鼓動が高鳴っているが、暖かい腕に包まれて、エリリーテの瞼も重くなってきた。

「エリリーテ・・・」

 微かに名を呼ぶトシェンの声が聞こえたような気がしたが、エリリーテはそのまま心地よい眠りに落ちていく。




 今夜の酒宴はエルン王国からの友好の使者として訪れたオルドラル王子をもてなすものだったが・・・。あの王子は絶対にエリリーテに気があったと、トシェンは彼のエリリーテに向けられた熱い眼差しを、苦々しく思い出す。

 無邪気なエリリーテは、そんな彼の眼差しには気が付かないようで、花のような微笑みを向けて彼の話に聞き入っていた。

 そんなことをしたら・・・きっとオルドラル王子は、エリリーテを想って眠れなくなってしまうのではないかなどと、埒もないことを考えてしまう。

 だから、いつもより酒杯が進んでしまった。

 トシェンはあの王子が滞在している間は、エリリーテの寝室で眠ることにしようと、それはエリリーテを守るために必要なことなのだと、自分に言い訳するように思った。


 夜半、いつの間にか、腕に抱いて眠っていたエリリーテの温もりをそっと抱きしめながら、トシェンは自分の中で蓋をしたはずの想いが暴れ出して、苦しいと感じていた。

 自分の感情くらい、コントロールできなくては、王としては失格だな・・・。

「エリリーテ・・・」

 そっと名を呼んでみるが、腕の中で眠るエリリーテはスヤスヤと安らかな寝息を立てている。

「・・・好きだ・・・」

 吐息のように小さなつぶやきは、エリリーテの耳に届くことなく、夜の静かな空気に溶けた。

 何とか更新!


 いつも読んで下さって、本当にありがとうございます!


 年内完結なるか?(間に合うのか?)

 ひょっとして紅白横目で見ながら更新か??

 いや、そんなことにならないように頑張ります!!


 雨生あもう


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