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正妃の偽り  作者: 雨生
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月下の酒宴 〜騎士達は憂う〜

 月の光が照らす庭で、エルーシアンは一人佇んでいた。


 エリリーテが狙われた。

 そのことを思い出すと、やはり、エリリーテは祖国に連れ帰った方が良いのでは?そんな思いが沸いてくる。

 自分が守れぬ場所で、エリリーテの身に何か起こったらと思うと、ぞっとする。

 エルーシアンは自分の肩を抱いて、ぶるりと震えた。


「やあ」

 そんなエルーシアンの背中に声を掛けてきたのはクリアージュだった。

「君も月見かい?」

 エルーシアンは不機嫌そうに眉を寄せて、にこやかに微笑むクリアージュを見つめる。

 相変わらず近寄ってくる気配を感じさせなかった。食えない男だと思う。

「今夜はエリリーテの警護では?」

 そうエルーシアンが問うと、クリアージュは肩をすくめて答えた。

「今宵はトシェン様が一緒におられるので、扉の前の警護は一人で十分なんだ」

「そう・・・トシェン様がいらっしゃったんだ・・・」

 複雑な心境で月を仰ぎ見るエルーシアン。そんなエルーシアンの肩に手を置いて、クリアージュが微笑む。

「よかったら、ちょっと一杯つきあわないか」

 庭からそのままクリアージュの部屋に面したテラスに行くと、そこには二人分の酒杯と

葡萄酒の瓶が用意されていた。


「これからのことなんだが・・・」

 そうクリアージュが切り出した。

「エリリーテ様の警護は、もっと強化しなければならないと思う」

「それはその通りだ」

 酒杯に唇を寄せながら、エルーシアンも答える。

「同時にトシェン様も狙われる可能性はあるから、近衛騎士団のメンバーを常に警護に付けさせようと思う」

「近衛騎士団を?」

「ああ、近衛騎士団ならば、身元は確かだしな」

「なるほどね・・・」

「今、近衛騎士団のメンバーは30人。これを6班に分けてトシェン様、エリリーテ様、城の警備の3っつに割り振ってみた」

 クリアージュはそう淡々と告げる。

 今日事件があったばかりなのに、素早い対応にエルーシアンも感心する。

「もちろん正妃様付きの君と僕は出来うる限り正妃様の身辺警護にあたることになる」

「ああ、もちろんだ」

 そう答えて酒杯を煽ると、クリアージュが新たに葡萄酒をつぎ足してくれる。


「しかし・・・今日はまいったよ・・・」

「ああ、危ないところだった」

 そうエルーシアンが答えると、クリアージュが首を振る。

「そのことじゃないよ」

「何?」

 怪訝そうなエルーシアンにクリアージュが答える。

「トシェン様だよ。警護の近衛騎士を振り切って、エリリーテ様の元に駆けつけたんだそうだ。近衛の騎士達はトシェン様の気迫に負けたと言っていた」

「そう・・・」

 クリアージュが酒杯を干して、月を仰ぐ。

「確信が持てたよ。トシェン様もエリリーテ様を大切に思っておられるとね・・・。しかし、お互いにはその思いを告げずか・・・。間に居るのが我が姉上となれば、なんだか複雑な気分だよ・・・」 

「クリアージュ様・・・」

 エルーシアンも複雑な気持ちは同じだった。本当に?あの王はエリリーテの事を想っているのか?駆けつけて、エリリーテを抱きしめた彼の姿には確かにエルーシアン自身もこれは・・・と、思うところはあったのも事実だ。 

「エリリーテ様の幸せを思うと、このままトシェン様とエリリーテ様の仲を取り持つべきなんだろうけどね・・・」

 そう言うとまた、クリアージュは酒杯を干す。

 エルーシアンもため息を零す。

「トシェン様は・・・それを望まれてはいないのでは?」

「ああ・・・姉上との誓いに縛られていらっしゃるからね・・・」

「有名な「薔薇の騎士の物語」で「あなたの後には誰も娶らぬと誓う」というくだりがあるが、あれは事実ということですか?」

 そうエルーシアンが聞くと、クリアージュは頷いた。

「そうだよ・・・。姉上がまさか眠ったままになるなんて、思ってもみなかったしね・・・」

「そう・・・」

 クリアージュは酒杯を揺らして、葡萄酒の香りを確かめるようにしてから口に運ぶ。

「お二人とも、お互いを想い合っているのに伝えられずか・・・。夫婦なのにね・・・」

「クリアージュ様は・・・ずっとお二人を見守り続けていく覚悟はおありなのですか?」

 そう、エルーシアンが切り出す。

「そうだね。今は少なくてもその覚悟は出来ていると思っているよ」

「エリリーテを・・・愛しているのですか?」

 そう真っ直ぐに聞いてみると、クリアージュは笑った。

「ああ。女神に誓って。しかし、君もストレートに聞くね」

「大切なことですから・・・」

 そう言うと、今度はクリアージュが聞いてくる。

「そういう君はどうなんだい?」

 エルーシアンはそっと息を吸い込むと、ささやくように告げた。

「この身よりも大切だと思ってお仕えしてきました」

「そうか・・・しかし・・・このままでは、全員が愛する人とは結ばれず、誰もしあわせになれないという構図だな・・・」

「ええ・・・救いが・・・ありませんね・・・」

 二人は同時に重いため息をついた。

「どうしたらいいのかなぁ・・・」

 クリアージュが月を仰ぎ見る。

 今宵の月は満月で、美しいがなんだか寂しいとエルーシアンも思った。


 こうして、二人して複雑な思いを抱えたまま、冴え冴えとした月を眺めての酒宴はしばらく続いたのだった。


 読んで下さってありがとうございます。


 とりあえず連投!!

 年内ハッピーエンド目指してますが・・・キャラ達がなかなか言うことを聞きませんね・・・。

 でもっ!大掃除も終わったので(喜)、ここからはペースUPできるはず!!

 頑張ります!!


 雨生あもう

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