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正妃の偽り  作者: 雨生
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内なる強さ 〜正妃は魅了する〜

「伝令は偽物だったんだ」

 乗ってきた馬をクリアージュに預け、エリリーテと供に馬車に戻ったトシェンは、今、エリリーテとエルーシアンの正面に腰掛けて、事情を説明している。

 トシェンとエリリーテが並んで座るのかとエルーシアンは思ったが、何故かトシェンはエリリーテをエルーシアンの手に託した。

 エルーシアンは、まだ震えているエリリーテの肩をそっと抱き寄せている。


 国境からの伝令が、国境付近で起きた暴動を伝え、それを城の伝令がトシェンに伝えたのだが、国境からの伝令がいつの間にか姿を消していた。

 おかしいと思い、城から一番近いグラードからの道の途中にあるテスタの関に早馬を飛ばしたが、テスタの関ではそんな伝令は通していないとの返答が来て、これは偽の伝令だと気が付いたのだという。

「それで、彼等の目的を考えた時に、真っ先にこれは正妃を狙ったのではと思ったのだ」

 そこでトシェンは念のためキハヤの関に早馬を出して、騎士団に正妃の警護をと命じたのだった。

「カンが当たって良かったよ」

 そう言うトシェンは小さく震えるエリリーテの手を取り、そっと握りしめた。

「何故、エリリーテが狙われると思ったのですか?」

 エルーシアンが、不機嫌さを隠しもしないで、トシェンに聞く。

「それは・・・我が正妃はトリデアルダの姫君で「神の御子」だからだ」


 「神の御子」が国外に嫁ぐ、それが大きな意味を持つことなのだと、トリデアルダの人間であるエルーシアンもエリリーテも改めて思う。

 本来なら、門外不出の「神の御子」を嫁がせるというのは、トリデアルダからトシェンに寄せられる期待の大きさを表しているということなのだ。

「実は、我が国からトリデアルダのいずれかの姫君を頂けるのならと婚姻を申し込んだのだが、まさか「神の御子」を下さるとは思っても見なかったのだよ」

 そう、トシェンに告げられて、エリリーテは驚いた。自分が「神の御子」と呼ばれる特別な容姿だから、正妃にと望まれたのかと思っていたのだ。

「お父様は・・・神王様は、ただ、トシェン様から婚姻の申し入れがあったので、そなたが嫁ぐのが良いと思うと告げられて・・・」

 エルーシアンも考え込むように呟く。

「エリリーテを、「神の御子」をもしも奪われて人質に取られたり、殺害されたりしたらこの国は神国トリデアルダの信頼を失うと・・・そういうことですか?」

「ああ。たぶん、仕掛けてきたのはグラードだろうな・・・奴らの狙いはエザン山脈の鉄鉱石の鉱脈だろう」

 エリリーテは頭の中で地図を思い浮かべる。

「エザン山脈・・・確かリアルシャルンと、グラード、そしてトリデアルダの三国の国境が接している場所ですね」 

 トシェンが頷く。

「そうだ。奴らの狙いが鉄鉱石なら、リアルシャルンとトリデアルダの友好関係は邪魔になるはずだからな・・・」 

「では・・・これからもエリリーテが狙われる可能性はあると?」

 そう聞くエルーシアンにトシェンは頷く。

「そうだろうな・・・」

 エルーシアンはトシェンに握られていたエリリーテの手を奪うようにして取り返した。

「冗談じゃない!!」

 そうトシェンに対して声を荒げるエルーシアン。

「エッ・・・エルーシアン?!」

 戸惑うエリリーテを抱きしめて、エルーシアンはトシェンに告げる。

「エリリーテを巻き込まないでくれっ!!」

 エリリーテはそんなエルーシアンの胸をそっと押しのけた。

「エリリーテ?」

 怪訝そうなエルーシアンと、沈痛な面持ちのトシェンを交互に見つめながらエリリーテは告げた。

「私は・・・リアルシャルンの正妃です。だから・・・巻き込まれて当然の立場なのです」

「エリリーテ・・・」

 トシェンは、薄暗い馬車の中でも、輝くような白銀の髪に縁取られた正妃の顔を見つめた。その表情は凛として美しく、強い意志に輝く濃い紫の瞳はどんな宝石よりも美しいと思えた。

「だから、トシェン様はお気になさらずに、思った道をお進み下さいませ。たぶんですが・・・私が害されたとしても、トリデアルダとリアルシャルンの友好は揺らぎませんから」   

 そう言って花が咲くように微笑むエリリーテに、トシェンは息を飲んだ。

 

 全てを見通せるという神王ならば、きっと、今の私が幸せであることは分かっているのだろうとエリリーテは思う。

 お父様、ありがとうございます。たとえ、どんな運命がこの先にあっても、私は幸せですと言い切れます。だって、愛おしい人の花嫁となれたのですから。ですから、きっとこの先もトシェン様をお守り下さいますよね?そう心の中で父である神王に問いかける。



 この子は・・・どこまで強くなるんだ?そして、どこまで美しくなれるんだ?と、腕の中のエリリーテを見つめて、エルーシアンは感嘆のため息を付いた。

 それもこれもトシェン様への愛故か・・・。そう思って瞼を閉じると、ある人物の面影が過ぎる。来年には自分の伴侶となるべきある人物の姿。

 私は・・・あの方の為に、これほど強くなれるだろうかと・・・エルーシアンはそう思ったのだった。       



 その夜は眠れなくて、エリリーテは何度も寝返りをうっていた。

 すると、深夜、トシェンが寝室を訪れた。

「トシェン様?」

「いや・・・あんなことがあったから、眠れないのではと思ってな・・・」

 トシェンの手には葡萄酒の瓶とキタルが抱えられていた。

「今宵は少し飲みなさい」

 そう言われて、エリリーテも葡萄酒を少し飲んでみる。 

「あっ・・・美味しい・・・」

「だろう?」

 それは甘く、薫り高く、今までエリリーテが口にしたどの葡萄酒よりも飲みやすかった。

「もう少し」

 そう勧められ飲めば、頬が徐々に熱くなる。

「これは、他の果実酒と葡萄酒を混ぜ合わせたものなのだ」

「混ぜて作った物?」

 そうトロンとした目でトシェンを見上げるエリリーテを、トシェンはそっと自分に寄り添わせるようにして寄りかからせると、そっとキタルの音を奏でた。

「そなたの為に、飲みやすい酒を造らせてみた。気に入ったか?」

「はい、美味しいです」

 そして、優しく物悲しいキタルの調べ。

「これは・・・もしかして?」

 そうエリリーテが問えばトシェンは微笑む。

「わかるか?そなたが好きな「薔薇の騎士の物語」のテーマだ」

 エリリーテの好きな「薔薇の騎士の物語」の曲を、その登場人物というか主人公であるトシェンが奏でてくれる。そんな不思議な光景。

「エリリーテ、眠いか?」

「はい・・・少し・・・」

「眠れそうなら眠りなさい・・・ずっと側に居るから・・・」

「はい・・・」

 この人は、こんなにも優しい。でも、きっと私以上にダリューシェン様は気が付いていらしゃったはずだ。だからきっと・・・いつか、トシェン様の想いはダリューシェン様に届くはずだ。いえ、届きますように。そう思うと、幸せなような、寂しいような気持ちがエリリーテの胸の中に沸いてくる。


 エリリーテは瞼をそっと閉じる。

 今だけは、トシェンの優しさにそっと寄り添っていたかった。

 何とか連投です。

 読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます!!


 久しぶりにアクセス解析の数字を見て驚きました。

 8月30日にこのお話しの第1話を投稿してもうすぐ4ヶ月が経とうとしていますが、延べアクセス数があと少しで100万アクセスを越えそうです!

 沢山の人に読んでもらえて、本当にしあわせです。

 ありがとうございます。


 完結まであと少し。

 頑張ります。


 次の投稿はたぶん日曜日くらいになる予定です。

 

 雨生あもう



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